日本経団連タイムス No.3003 (2010年7月1日)

第104回日本経団連労働法フォーラム(2日目)

−総合テーマ「複雑化する労働法制への対応策」


日本経団連・日本経団連事業サービス主催、経営法曹会議協賛による「第104回日本経団連労働法フォーラム」が6月10、11の両日、都内のホテルで開催され、(1)労働者派遣制度の見直しが実務に与える影響(2)労働時間管理のあり方と労務管理に関する裁判例の最新動向――について検討を行った。今号は2日目の報告概要を掲載する(1日目の報告概要は前号既報)。

報告2 弁護士・三上安雄氏「労働時間管理のあり方と労務管理に関する裁判例の最新動向」

2日目は、「労働時間管理のあり方と労務管理に関する裁判例の最新動向」と題し、労働時間概念についてさまざまな側面からの解説と労務管理問題に関する最新動向について報告があった。

■ 現下の動向

昨今の総労働時間短縮に向けた動きのなかで、今年3月には「労働時間等設定改善指針」が改正され、政府は年休の取得促進とともに年間の総労働時間を短縮する方向にある。厚生労働省が発表した今年度における労働基準行政の重点施策においては、今年4月の改正労働基準法の施行を受けて、その遵守・徹底による長時間労働の抑制も挙げられ、労働基準監督署による監督行政が強化される方針であることから、労働時間管理の重要性は今後ますます高まることになる。

■ 改正労働基準法施行に係る留意点

月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられたことにより、「法定休日」と「所定休日」の区別というものが非常に重要となった。フレックスタイム制の導入の有無などによっても、時間外労働時間の算出方法が複雑となるため、対応には細心の注意を払う必要がある。

時間外労働の取り扱いについて、限度基準の年間の上限(360時間)への対応が十分ではない企業が多いように感じられる。いつ、どの時点で限度時間の超過が見込まれるのかについて、企業は常に把握しておくことが必要であり、特に年度末に繁忙期が集中するような企業はより注意が必要と言える。

■ 労働時間の認定

労働時間の適切な管理が求められるなかで、タイムカードに記録された時間どおりに賃金を支払うことを命じる裁判例が増えているが、裁判所は「何によって労働時間を認定することがより合理的か」という観点から判断しているのであって、必ずしもタイムカードによる労働時間管理を推奨しているわけではない。タイムカードの是非については議論があるが、記録された時刻によって少なくとも労働者の在社時間がわかり、「これ以上の労働時間の請求はない」ということが立証できる点や、使用者が労働実態を把握して過重労働になっていないかを確認するための客観的資料になり得るとして、安全配慮義務の観点からも有益であると考えられる。

■ 管理監督者性の判断

これまでの行政実務、裁判例における管理監督者性の判断要素としては、(1)事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められること(2)労働時間についての裁量権があること(3)その地位と権限にふさわしい待遇があること――とされてきたが、なかでも(1)については非常に高いハードルが示されている。例えば、日本マクドナルド事件(東京地裁判決平成20年1月28日)では、「店長は企業全体の経営方針等の決定過程に関与しているとは評価できない」として、裁判所は店長の管理監督者性を否定している。

しかし、企業の実態からみると、企業が配置する管理監督者というのは、その「組織」を委ねられた者であって、企業全体の経営を委ねられた者ではない。したがって、その組織における長としての実態があればよく、企業全体の経営の意思決定に参画することを判断要件にすることは、企業の取締役や本部長クラスでないと管理監督者ではないと言うに等しく、企業実態とかけ離れている。実務に近い考え方としては、「職務内容が少なくともある部門全体の統括的な立場にあること」をもって判断する方が適切である。

そもそも管理監督者性が争われて賃金不払い請求の事件等に発展するのは、「長時間労働はやめてほしい」という主張や、待遇面に対する不満によるものであることから、(1)長時間労働が発生していないかの配慮(2)管理職手当として相当程度の支払いをしているかの検証――が、企業実務における紛争予防の観点からは必要といえる。

■ パワハラ対策

2009年度において、全国の総合労働相談コーナーに持ち込まれた民事上の個別労働紛争相談件数は、過去最多の24万7302件に上った。その内訳をみると、解雇(24.5%)、労働条件の引き下げ(13.5%)、いじめ・嫌がらせ(12.7%)と続き、特にいじめ・嫌がらせについてはここ数年で増加している。

問題となった行為が業務指導として許されるものなのか、パワハラとして違法なものなのかについて、裁判の場で判断される際にポイントとなるのは、「社会通念上許容される業務上の指導・教育の範囲を超えているか否か」という点であり、(1)指導の対応(2)指導の程度(3)目的の正当性(4)注意・指導の時間や場所――といった点から判断されることになる。

【労働法制本部】
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