日本経団連タイムス No.3004 (2010年7月8日)

シンポジウム「欧州における市場経済の動向と日本への示唆」開催

−自由競争とセーフティーネットとのバランスを探る/経済広報センター


日本経団連の関連組織である経済広報センター(米倉弘昌会長)は6月18日、東京・大手町の経団連会館でシンポジウム「欧州における市場経済の動向と日本への示唆−自由競争とセーフティーネットとのバランスを探る」をベルリン日独センターおよびコンラート・アデナウアー財団と共催した。シンポジウムには企業関係者ら150名が参加した。

■ 基調講演

基調講演のなかで、マーケットエコノミー財団理事でテュービンゲン大学名誉教授のミヒャエル・アイルフォルト氏は「欧州における社会的市場経済の動向」について説明し、社会的市場経済では市場を通じた自由な経済活動を基本としつつ、国家がルールを整備して競争・自由・責任のバランスを取ることが重要であると述べた。あわせて、ドイツでは社会的市場経済の目的を、結果の平等ではなく機会の平等の担保へと変えてきており、国の債務が増加するなかで、歳出削減と増税のセットで予算を均衡させる努力が必要であると強調した。

国際基督教大学の八代尚宏教授は「日本における市場経済とセーフティーネット」について説明し、日本型市場経済の特徴として、(1)中央集権型で国家主導の市場経済(2)市場経済型の製造業と統制型の非製造業(サービス業、農業など)との二重構造(3)労使協調路線による長期雇用を前提とした企業内訓練と利益の配分(4)正社員とそれ以外の労働者との所得格差――の4点を指摘した。また、日本のセーフティーネットは企業に依存しており、90年代からの長期経済停滞やグローバル化の進展などによって、企業型セーフティーネットの雇用保障機能が低下していると述べた。

■ パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、日本経済新聞社編集委員兼論説委員の菅野幹雄氏がモデレーターを務め、富士通総研主任研究員のマルティン・シュルツ氏と慶應義塾大学の嘉治佐保子教授が問題提起を行った。

シュルツ氏は、諸課題の解決に向け原理原則に立ち返る必要があると述べ、(1)セーフティーネットの見直しによる国家財政の均衡(2)経済のグローバル化への対応の強化(3)将来を担う子どもを中心とした投資――の3点が急務であると主張した。

嘉治教授は、社会的市場経済の機能を復活させ、金融・不動産バブルの危険性を最小にし、国民が正しい選択を行うためには、政府はセーフティーネットを整備しつつ、ポピュリストであることをやめて改革を実行し、民間は自己責任原則を徹底する必要があると強調した。

その後、基調講演を行ったアイルフォルト教授と八代教授が議論に加わり、両国の抱える諸課題の解決に向けて、(1)既得権にまで踏み込んだ徹底した規制緩和(2)歳出削減と増税の組み合わせによる財政再建(3)国民への教育と啓蒙――の3点が重要であるとの意見が出された。

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