日本経団連タイムス No.3006 (2010年7月22日)

「中小企業を支える人材の確保・定着・育成に関する報告書」発表

−中小企業に求められる取り組み提示/20社の企業事例交える


日本経団連は20日、「中小企業を支える人材の確保・定着・育成に関する報告書」を発表した。同報告書は、中小企業が抱える、(1)人材が確保できない(2)人材が定着しない(3)効果的な人材育成に取り組めない――といった課題の解決に向け、中小企業に求められる取り組みを、ヒアリングをした20社の企業事例を交えながら取りまとめている。報告書は、「報告書編」「企業事例編」「調査結果編」の3部からなっており、以下は「報告書編」の概要である。

■ 中小企業の強みを活かし、弱みを補完する施策展開

人材の確保・定着・育成をめぐる課題を克服するうえでは、中小企業固有のメリット、デメリットを十分勘案しながら施策を展開することが望ましい。中小企業は、経営者と従業員の距離が近いこともあり、意思疎通や一体感の醸成が図りやすく、一人ひとりの役割が見えやすいために働きがいも高めやすいといったメリットがある。他方で、必ずしも人材育成に人員を十分に割けないことや、同期が少なく横の連携が取りにくいといったデメリットもある。人員や資金面の制約が多いと、人材の確保・定着・育成に向けた施策も消極的になりがちだが、「中小企業ならではの良さ」や「中小企業だからこそ出来る工夫」に目を向け、中小企業の強みを活かし、弱みを補完する施策を展開していくことが不可欠である。
厳しい経営環境のなかでも、絶えず自社の強みを「磨く」ことで、将来性・安定性を高めていくとともに、自社が学生・求職者から注目されるために、自社の特徴やアピールポイントを直接・間接に「伝える」努力が必要といえる。

■ 求められる3つの取り組み

(1)企業理念・価値観の明確化と共有

企業がさらなる成長を求めて事業展開を行ううえでは、経営者がいかなる価値観・理念を持っているのかについて、従業員が正しく理解し、それに沿った行動が取れるようにしていくことが重要である。
企業理念などの浸透は、従業員の定着にもかかわることから、経営者は、直接社員と話し合う場を積極的に設け、自らメッセージを発信するなど、率先して、企業理念や価値観の明確化・共有の徹底に取り組み、自分の「思い」を伝える必要がある。
なお、ミスマッチを防止し、社員の入社後の満足度を向上させていくためには、採用選考の段階から、学生や応募者に対して、経営理念や価値観はもちろん、社風や職場の雰囲気などを積極的に知らせていくことも重要である。

(2)個々人の能力を育成・発揮できる職場環境の整備

中小企業は、大企業に比べ、従業員一人ひとりの能力や行動が企業の競争力や業績に影響する度合いが高いため、人材育成の成否は企業の存続にかかわるといえる。他方、従業員にとっても、長期に勤続しても能力開発が図られないままでは、充実感や達成感、働きがいが失われ、結果として離職を誘発することにもなる。
そのため、人員やコストの制約など、各社の実情を踏まえながら、「能力開発を支援する環境の整備」「やる気を引き出す仕組みづくり」「コミュニケーションの活発化・円滑化」など、職場環境の整備に思い切って取り組むことが不可欠である。

(3)学生・求職者、大学へのアピール

自社を伝えていくうえで最も有力な手段は、学生・求職者に対して直接働きかけ、情報を提供していくことである。「工夫を凝らした会社説明会、選考方法などの実施」「インターンシップや職場実習など職場体験の実施」「教育機関への果敢なアプローチと信頼関係の構築」など、応募者が多い大企業では実施が困難な取り組みも含め、中小企業ならではのアプローチで、積極的にアピールして学生の心をとらえることが欠かせない。さらに、大学などの就職課などをこまめに訪問し、中小企業の働きがいを訴えるなど、教育機関との関係強化に努めることも重要である。

【労働政策本部】
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