日本経団連タイムス No.3007 (2010年7月29日)

「成長戦略を考える」

−谷内・早稲田大学商学学術院教授が説明/経済政策委員会


日本経団連の経済政策委員会(奥田務共同委員長、畔柳信雄共同委員長)は15日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、早稲田大学商学学術院の谷内満教授から、「成長戦略を考える」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ 日本経済の現状

10年間の年平均経済成長率をみると、わが国の成長率は、90年代と2000年代の20年間、米国とEUの成長率を大幅に下回っている。また、日本は低成長国であるとともに、低生産性国でもある。日本の労働生産性は、欧米の主要国と比べ20〜30%も低い。企業の収益率も低い。今後増え続ける高齢者を支えるためには、生産性を引き上げて、長期的な成長率を高めることが求められている。

2000年代では、2002年度から07年度の6年間、年2%程度の安定した成長を遂げた。08年以降、世界同時不況の影響により、わが国経済は大きく落ち込んだが、これについては、それまでの成長が外需主導によるものであったので、今後は内需主導にすべきとの主張がなされている。しかし、この考えは誤っている。外需主導の成長は貿易黒字を拡大して成長することだが、この期間の内需の寄与度は高く外需主導だったとは言えない。また、わが国は製造業のGDPに占めるウエートが欧米諸国に比べて高く、輸出全体が大きく落ち込めば、貿易黒字の大きさに関係なく、大きな打撃を受ける。

6年間にわたって2%成長が実現したのは、90年代後半〜2000年代前半の構造改革によるところが大きい。この間に、企業法制、金融、労働市場などにおける諸改革が集中して、経済成長の基盤が形成され、日本経済は景気拡大期には2%程度の成長が可能な体質となった。今後は、さらに高い長期的成長を目指した改革が必要となる。

■ 成長戦略のあり方について

政府は6月に「新成長戦略」を閣議決定し、7つの重点戦略分野を掲げたが、政府が将来の有望産業を選び出す政策はうまくいかない。むしろ、すべての産業・企業が成長のポテンシャルを持っているという視点が重要だ。新成長戦略では需要創造が重視されているが、経済学のスタンダードな考え方によれば、長期的な成長引き上げは供給サイドに働きかけるものでなければならない。

まずは、規制緩和を成長戦略の中核に据えるべきである。とりわけ、農業・医療・介護といった規制が強い分野において、不要な規制を撤廃・緩和することにより、民間企業の活力を発揮させることが重要だ。

同時に、法人税率の引き下げが求められる。ただし、法人税減税で財政がさらに悪化し、長期金利が上昇することによって民間投資が抑制され、結果として低成長となることは避けなければならない。法人税率の引き下げは、消費税率の引き上げと歳出削減とのセットで行わなければならない。歳出削減という点では、子ども手当や農家への戸別所得補償といったバラマキ政策も抜本的に見直す必要がある。

加えて、労働の量と質を高めることも重要である。正社員が正しい働き方で、非正規雇用は望ましくないから規制するという考え方は問題である。正社員の解雇が判例で厳しく制限されているなかで、非正規雇用を制限すれば、経済全体の雇用拡大は望めない。今の日本では、多様な働き方や、弾力的な労働移動が求められている。定年制廃止を視野に高齢者が生涯現役で働ける制度づくりも重要である。

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なお、当日は谷内教授の説明に続き、提言案「『新成長戦略』の早期実行を求める」の審議が行われ、了承された。

【経済政策本部】
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