日本経団連タイムス No.3009 (2010年8月12日)

金融テーマにエグゼクティブ法務戦略セミナーを開催

−日本経団連事業サービス


講演する野村氏

日本経団連事業サービスは日本経団連と連携し、7月29日、東京・大手町の経団連会館で中央大学法科大学院教授で森・濱田松本法律事務所客員弁護士の野村修也氏を講師に迎え、「日本経団連エグゼクティブ法務戦略セミナー」を開催した。同セミナーは経営法務の知識の取得とその戦略的活用を目的として、企業法務に携わる役員を対象に7回シリーズで行われるもので、第2回となる今回のテーマは「金融」。野村氏の説明は次のとおり。

■ サブプライム・ローン問題の原因と金融規制の関係

近年、開示府令の改正によって役員報酬の開示が義務付けられるようになるなど、規制強化に向けての動きがある。この動きの背景にはサブプライム・ローン問題以来の国際的な潮流があり、そのような流れのなかでさまざまな政策が展開されているということを理解しておくことが経営戦略を立てるうえで重要である。

サブプライム・ローン問題は証券化によって切り分けられたAAAの金融商品に対して新興国の資金が大量に向かったことが主な原因と考えられている。他方で、ヘッジファンドや投資銀行は、土地価格上昇に対する過信をもとにハイリターンを求めてサブプライム・ローンのうち最劣後の部分に投資をした。また、ストックオプションにより報酬を得ている銀行の経営者が、本来は増資により自己資本比率を維持すべきところ、株価の下落を避けるために増資をしなかったこともサブプライム・ローンに資金が向けられた原因である。しかし、証券化商品が重層化し、格付けに対する不信が生じ、取り付け騒ぎが起きたことからサブプライム・ローンの問題が生じ、世界中に大きな影響を与えることになった。

■ 金融規制の強化の動き

以上の動きをもとに米国において近時出された金融規制改革法は、銀行と証券の分離を定めた1933年のグラス・スティーガル法以来の大改革であり、金融マーケットに対する規制を強化するものである。これは今までの改革とは大きく色合いを異にする。ここでも役員報酬規制は重要な課題になっている。

■ 上場会社規制への影響

現在、世界の金融規制は「インセンティブが歪むか」という視点から展開されている。独立役員については、世界標準からみて独立性を有すると言えるかが問題となっており、その動きに日本も呼応している。背後には金融審議会での議論があり、その結果、金融商品取引法や証券取引所のルールにより開示規制を行うようになった。次は、それを会社法による規律にするかどうかがポイントだが、これについては現在、法制審議会において議論がなされているところである。

また、同時に、開示府令の改正により、現状のコーポレートガバナンス体制を採用する理由の開示が求められるようになった。1億円以上の役員報酬開示についても、インセンティブの歪みを解消するための手段として、世界的な潮流のなかで設けられたものである。

これらの規制強化への動きはサブプライム・ローン問題以降の流れのなかでは予想されたことである。自社に直接適用される法律だけではなく、いろいろな法分野に視野を広げることが、経営戦略を立てるうえで重要になってきている。

【経済基盤本部】
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