日本経団連タイムス No.3010 (2010年8月26日)

ドラッカーのマネジメント論について講演を聞く

−三浦・立命館大学教授から/人事・労務委員会


日本経団連の人事・労務委員会(鳥原光憲委員長)は7月22日、東京・大手町の経団連会館で会合を開き、ドラッカー研究の第一人者である立命館大学経営学部経営学科の三浦一郎教授から、「これからのマネジャーに求められること」と題し、ドラッカーのマネジメント論について講演を聴取した。
三浦教授の講演の概要は次のとおり。

ドラッカーは、『経営者の条件』(1966年)にあるとおり、トップであろうがミドルであろうが、自分の仕事に最後まで責任を持つ限りは、全員がトップマネジメントであると述べている。

第二次世界大戦後、米国ではいわゆるマネジメントブームが到来し、ミドルマネジメントの肥大化が生じた。ドラッカーは、組織はできるだけ階層が少ない方がよいと主張していたが、1980年以降、情報システムが整備されたことで、ようやくスリム化に進む条件が整い、組織のフラット化が生じたと述べている。そして、組織のフラット化が進むと、管理の限界がなくなることから、個々人の仕事に対する責任が重くなり、特に組織を管理するミドルマネジャーの責任を増大させたとしている。

フラット化した組織における従業員には、全体のなかでの自分の役割や貢献などを十分に理解した対応が強く求められる。この問題に焦点を当て展開したものが、「目標と自己管理によるマネジメント(MBO)」である。

ドラッカーは、組織における人間の自由を強く追求した人物だが、自由には当然に規律が必要なことから、組織のミッションがお題目ではなく生きたものであり、かつ、真剣に共有される必要があると訴えた。そして、ミッションが目標に具体化され、その目標に対する貢献が従業員に要求されるとした。

従業員には、自分のなすべきことに納得し、自分の目標を立て、自らをコントロールして目標を達成していくことが求められるが、通常、目標設定などにおいて、上司との間で修正が必要となる。そこで、ドラッカーは、目標と自己管理によるマネジメントを実施していくうえでは、上司と部下のコミュニケーションが前提になると主張した。

コミュニケーションに関してドラッカーは、(1)人間的な信頼関係を構築する(2)受け手がすべてを決める――と指摘しており、特に「聞き手が話を聞く気を持たなければ、コミュニケーションは成り立たない」と述べている。この点は、ドラッカーの特徴的な主張と言える。

ドラッカーが最晩年に発表した論文『プロフェッショナルマネジャーの行動原理』(2004年)には、「まず耳を傾けよ。口を開くのは最後である」とある。

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講演終了後、委員会の新たな検討テーマについて審議し、ミドルマネジャーをめぐる課題と対応策について検討することを決定した。

【労働政策本部】
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