日本経団連タイムス No.3010 (2010年8月26日)

日本経団連「社会貢献基礎講座」で河口湖フィールドセンターを視察

−富士山麓の生物多様性考える


日本経団連事業サービス(米倉弘昌会長)は、7月9日から10日にかけて山梨県富士吉田市の人材開発センター富士研修所で実施した「社会貢献基礎講座」の合宿講座で、河口湖フィールドセンターを視察した。同センターは、富士北麓の剣丸尾溶岩流上に位置しており、周囲には天然記念物になっている大きな溶岩樹型洞穴が100個以上点在している。溶岩樹型とは、噴火の際、溶岩が流れる途中で木の幹を囲み、木が燃えて固まった井戸のような空洞をいい、地質学上貴重なものである。視察参加者は、自然解説員の案内で周辺を散策した後、渡邊通人館長から富士山麓の生物多様性について説明を聞いた。
説明の概要は次のとおり。

生物多様性の定義はいろいろあるが、種内、種間、生態系の多様性の3つのレベルを含んでいる。富士山の生物多様性が高い要因のひとつは、成層火山として約50万年かけて3から4回の大きな噴火期を経てできた地形であり、溶岩流もたくさん流れていて地層が多様だからである。また、高山帯、亜高山帯、山地帯、里山帯(山地帯下部)と、標高の違いによっても動植物の分布が異なる。

自然の質の違いから、原生的自然、里山的自然、公園的自然の3つに大別できる。約15%を占める原生的自然には手を入れないが、里山の自然には雑木林、草地、水辺などの要素に応じて人による維持、手入れが必要である。

昔は農家の周辺に里山があって、奥山と都会の間のバッファになっており、いろいろな動植物が自然に共存できていた。しかし、近年は森林化が進む草原、水田での化学肥料の使用などで環境が変化し、里山の多くの生き物が絶滅危惧種になってしまった。現在、国際環境NGOのアースウォッチと一緒に「富士山周辺の絶滅危惧チョウ類」プロジェクトを推進しているが、シジミチョウのグループへの影響は特に大きい。

富士山麓の生態系はいろいろな課題を抱えており、今後は民間と行政の枠を超えた保護活動が不可欠である。将来的には「富士山自然保護センター(仮称)」に発展させて、研究部門を充実させ里山保全理論と管理方法を確立し、保全部門で実際の保全活動を実施していきたいと希望している。あわせて、環境教育部門において、エコツアーなどによる啓発活動も行いたい。

センターでは、特定の種の個体数を増やすことでなく、まずは絶滅危惧種が生存できる里山環境を守ることを目指す。熱帯のジャングルでは生物多様性は高いが、個体数は豊富ではないし、植生の階層構造もできていない。そのため、一度バランスが崩れると直しにくい。これに対して、人が手を加えて共存してきた里山は再生力が高く、特に高温多湿の日本の里山の再生力は世界的に見ても貴重である。

センター自然共生研究室がアースウォッチと協力して実施しているプロジェクトには、企業の従業員などがボランティアとして参画している。そうした市民科学者は、例えばシジミチョウの調査では、チョウの幼虫と共生するアリを探して分布と個体数を調べる、成虫を捕まえてマーカーで数字をつける、マーキングされた個体を追跡するなどの地道な活動を通じて研究者を支援している。

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視察に参加した花王や日立製作所の担当者からは、環境問題や生物多様性の実態を体感できるよう、従業員をプロジェクトに派遣しているとの報告があった。

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