日本経団連タイムス No.3012 (2010年9月9日)

民法(債権関係)改正の労働法制への影響を聞く

−労働法規委員会労働法企画部会


日本経団連は3日、東京・大手町の経団連会館で労働法規委員会労働法企画部会(庄司哲也部会長)を開催した。当日は、昨年11月から審議が始まっている民法(債権関係)改正が労働法制へ与える影響について、法務省民事局の筒井健夫参事官と牛島・寺前・和田法律事務所の和田一郎弁護士から説明を聞いた。

<筒井参事官説明>

筒井参事官は、まず、今回の民法(債権関係)の改正に向けた審議が開始された経緯について説明し、そのうえで、労働法制に関する検討のポイントについて触れた。

筒井参事官は、「現在、労働契約法と民法との関係がわかりにくくなっている面があることは否めない。しかし、労働契約法は2008年に施行されたばかりの法律であり、労働契約法に直接影響が及ぶような改正は、法制審議会における議論では慎重であるべきと考えている」と述べた。

その一方で、「仮に民法の『雇用』の規定について、実質的な改正は行わないこととなった場合であっても、民法改正の影響が労働契約に及んでいく可能性は否定し得ない」と述べ、「改正にあたっては労働契約にも影響が及ぶことを念頭に置きながら、問題を確認、検証していくことが必要になる」との考えを示した。

<和田弁護士説明>

和田弁護士は、「今回の民法改正の審議では、法的安定性の視点が重要であり、特別法(労働法)やこれまで積み重ねた判例との調和が必要である」との基本的な考えを述べたうえで、労働法制への影響を具体的に解説した。

和田弁護士は、「民法改正が労働契約に影響を与えることは間違いない。民法典の『雇用』の節だけが労働契約を規定しているのではなく、総則や債権のさまざまな規定が関係する。そのなかで、特別法に規定がないものは、労働契約に直接影響する」と述べ、例外として、「労働法で民法の適用が排除・変容されているものは、改正民法が施行されても労働法が優先するはずである」との考えを示した。その例として、「今回、短期消滅時効を廃止し、3年-5年に一本化する案が提案されているが、賃金債権の時効期間は1年から2年(労働基準法115条)に修正されているので、賃金債権は短期消滅時効廃止の影響を受けないと考えられる」ことを挙げた。

さらに、労働法制の立法過程にも触れ、「その他の部分で改正民法の適用を排除・変容するには、労働法の修正、新規立法が必要である。労使で協議する場を設けて、改正民法施行までに、施行による混乱を回避するために準備すべき点を解釈論レベルあるいは立法レベルで検討する必要がある」と述べた。

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現在、改正審議を行っている法制審議会民法(債権関係)部会では、2011年4月を目途に中間的な論点整理を取りまとめる予定。

【労働法制本部】
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