日本経団連タイムス No.3015 (2010年10月7日)

エグゼクティブ法務戦略セミナー開催

−独占禁止法をテーマに


講演する伊藤弁護士

日本経団連事業サービスは日本経団連と連携し、9月16日、東京・大手町の経団連会館で森・濱田松本法律事務所弁護士の伊藤憲二氏を講師に迎え、「日本経団連エグゼクティブ法務戦略セミナー」を開催した。同セミナーは経営法務の知識の取得とその戦略的活用を目的として、企業法務に携わる役員を対象に7回シリーズで行われるもので、第4回となる今回のテーマは「独占禁止法」である。伊藤氏の説明は次のとおり。

■ M&A戦略と独占禁止法

M&A戦略の構築の際には、独占禁止法上の企業結合規制の考慮が不可欠である。近時、企業が競争当局の企業結合審査への対応に要する時間および費用が増大している。この背景には、事業活動のグローバル化、審査の精緻化、独占禁止法上の問題を生じさせないための問題解消措置の設計の必要性などが考えられる。M&Aにおいては、その目的を明確にしたうえで、実施に際して直面し得る問題とその回避手段、外部環境、具体的な手続き(各国ごとの届出の要否など)を事前に詳細に検討することが重要である。また、独占禁止法違反の疑いのある他社のM&Aに対しては、単に反対意見を表明するにとどまらず、その根拠となる適切な裏付け資料やデータを提出していくことが求められる。

■ コンプライアンス戦略と独占禁止法

コンプライアンス戦略においては、カルテル・談合行為の防止が最重要課題である。近時、国際的な趨勢として、競争当局は同業他社間の情報交換に着目している。これは、明確な合意に基づくカルテル・談合は減少する一方で、情報交換の過程で反競争的な効果が生じてしまうケースが増えているからである。日本企業は、同業他社との接触の管理に関するルール策定が遅れており、日本の競争法の遵守にとどまらず、世界基準を意識したルールを検討する必要がある。

■ 競合戦略と独占禁止法

競合戦略の構築の際には、当該戦略が、排除型の私的独占や、不当廉売・抱き合わせなどの不公正な取引方法に該当しないかを確認しなければならない。戦略上、競争者を意識することは不可欠であるが、その結果、競争者を不当に排除することは許されない。対応策としては、問題となりやすい自社の事業分野や行為類型の把握、当該事業分野の市場動向の確認、社内での事前のリスク評価の実施、文書管理の徹底(独占禁止法違反の誤解を招く表現の回避など)が挙げられる。

■ 流通・顧客戦略と独占禁止法

流通・顧客戦略においては、支配型の私的独占や取引拒絶、再販拘束、優越的地位の濫用といった不公正な取引方法に該当しないか、注意が必要である。2009年の法改正により、課徴金の対象となる行為類型が拡大し、不公正な取引方法のうち優越的地位の濫用にも課徴金が課されるようになるなど、この分野でも、近年、規制が強化されている。

■ 企業戦略と独占禁止法(まとめ)

企業戦略と独占禁止法は密接に関連している。各国競争当局による執行の強化などに伴い、自社の行為が競争法違反となるリスクは高まっている。最新の法解釈をはじめとする情報の収集を強化するとともに、事業部門と管理部門・専門家が密接な連携を図ることが必要である。

【経済基盤本部】
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