日本経団連タイムス No.3015 (2010年10月7日)

「日本経済の現状と政策課題」テーマに

−岩田・内閣府経済社会総合研究所所長が常任理事会で講演/成長戦略の重要性を強調


日本経団連が9月に開催した常任理事会で、内閣府経済社会総合研究所の岩田一政所長が「日本経済の現状と政策課題」をテーマに講演した。
講演の概要は次のとおり。

世界経済、日本経済の現状

リーマンショックの後、主要国が一斉にゼロ金利に近い領域で異例の財政拡大、金融緩和政策を採用したため、世界経済は予測を上回る改善を示してきた。一年前のIMFの予測では、世界経済の2010年の成長率は1.9%であったが、今年7月の予測では4.6%に上方修正された。

しかし、先進国の政策効果は息切れしはじめている。アメリカの成長率は減速し、ブッシュ減税の扱いによっては、景気が後退するリスクもある。ユーロ圏は、ドイツを中心にユーロ安による輸出増によって成長しているが、アメリカ等の最終消費地の先行きは不透明で、生産はピークアウトしつつある。

日本経済は、主に輸出と政策効果に刺激された個人消費に支えられて回復してきたが、アメリカと同様に政策効果がピークアウトして「踊り場リスク」が出ている。日本経済のリスクとしては、(1)アメリカの景気減速や急速な円高(2)中国の資産価格バブルの崩壊(3)新たな金融規制・税のスピードやタイミング――である。今年6月22日の政府経済見通しでは、2010年度の成長率は2.6%と予測していたが、これは下方修正を迫られよう。

こうしたなか、G20トロント・サミットでは共通の財政再建目標を掲げたが、各国が置かれた事情が異なることを考慮すると、時間差のある財政再建を行うことが望ましい。出口戦略が成功するためには、民間需要の自律的な拡大をもたらす「正しい成長戦略」を選択することが重要である。

成長戦略の重要性

政府は10年間の平均で実質2%を上回る成長を目指しているが、この成長戦略を実現するためには、足元の潜在成長率を0.6〜0.7%引き上げる政策が求められる。

成長戦略では、グリーン成長、アジア戦略、人的資本拡大・人材育成の3つが重要である。アジア戦略に関しては、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)が実現すれば、APECの成長率を2.3%、日本の成長率を1.1%高めるとの試算もある。日本で減少している人的資本に関しては、フィンランドがITと教育に注力する成長戦略を立て競争力を高めることに成功した例がある。

中長期的な視点に立ち、日本で成長戦略を実現するためには、注力する分野を絞り、FTAAPの実現と人的資本の拡大に努めるべきである。

【総務本部】
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