日本経団連タイムス No.3022 (2010年11月25日)

民事訴訟への対応のポイントなど

−日本経団連エグゼクティブ法務戦略セミナーを開催


講演する関戸弁護士

日本経団連事業サービスは日本経団連と連携し、4日、東京・大手町の経団連会館で森・濱田松本法律事務所弁護士の関戸麦氏を講師に迎え、「日本経団連エグゼクティブ法務戦略セミナー」を開催した。同セミナーは経営法務の知識の取得とその戦略的活用を目的として、企業法務に携わる役員を対象に7回シリーズで行われるもので、第6回となる今回のテーマは「訴訟」である。関戸氏の説明は次のとおり。

■ 企業をめぐる民事訴訟の動向

最近の判例の傾向として、手続きの公正さを重視しており、その結果として取締役の責任が問われるケースが拡大している。これまでは、違法行為や利益相反行為がなければ、取締役の責任は基本的に認められなかったが、最近は、会社の損害を最小限に止める方策を検討しなかったこと等をもって、責任を認める判断が出ている。

■ 民事訴訟対応のポイント

民事訴訟においては、勝訴を目指すことはもちろん、それにとどまらず、時間、労力、費用等の負担を抑え、紛争全体の効率的な解決を図ることが重要である。そのために、経営トップには、次の10のポイントを認識してほしい。

  1. 勝負どころは限られている=帰すうの分かれ目となるポイントを適切に把握し、そこに集中的に資源を投入すべき。
  2. 訴訟は最初が肝心=裁判官は早期に心証形成をする傾向がある。また、最初に方向性を誤ると、大きなダメージとなる。別の弁護士からセカンドオピニオンを得るのであれば、訴訟の後半ではなく、最初に得るべき。
  3. 不利な事実・証拠をつくらない=「代金返還請求をしながら支払いを続ける」「訴訟を遂行しながら和解金を受領する」といった行動は避けるべき。
  4. 有利な証拠を提出できるかたちで残す=記録文書等には、有利な事実と、営業秘密や不利な事実が混在しないように留意し、証拠として有効に利用できるようにすべき。
  5. 訴え提起は慎重に=訴訟は容易には終わらず、反訴のリスクもあることから、調停等の訴訟以外の選択肢も検討すべき。
  6. 形式論と実質論=裁判官は、理論的なことだけではなく、情に訴える部分や、一般人が抱くバランス感覚を重視することに留意すべき。
  7. 世論と感情の重要性=マスコミやブログの論調が、裁判に影響を及ぼす可能性を認識すべき。また、謝罪は、不利な証拠となり得る一方、効果的な紛争の回避・解決の手段になり得ることを認識すべき。
  8. タイミングの重要性=例えば和解は、裁判官が不利な心証を開示した後では難しくなる。タイミングの重要性を認識すべき。
  9. 訴訟の対象は紛争の全てではない=訴訟のことだけでなく、紛争全体の解決も意識すべき。
  10. 関係者への配慮=事実を話すことができる環境の醸成や、紛争解決に貢献した社員の評価などの配慮は、紛争の効果的な解決に資することを認識すべき。

■ 不祥事対応のポイント

隠蔽と評価されることの回避が重要。積極的に隠蔽しなくても、放置するだけで隠蔽とみなされる。不祥事を起こさないことが大前提であるが、仮に生じた場合には、ごまかさず、不祥事であると正しく認識することが出発点として重要である。また、不祥事対応に際しては、企業の自浄作用を発揮することが重要であるが、訴訟等が後に生じ得ることにも留意する必要がある。第三者委員会を設ける場合には、調査の目的や対象、結果公表のタイミング等を慎重に検討する必要がある。

【経済基盤本部】
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