日本経団連タイムス No.3023 (2010年12月2日)

パディラ元米商務次官との懇談会を開催

−中間選挙後の政治動向など聞く


日本経団連は11月19日、東京・大手町の経団連会館でクリストファー・パディラ元米商務次官との懇談会(座長=本田敬吉アメリカ委員会企画部会長)を開催した。会合では、中間選挙の結果を踏まえた米国の政治経済動向の現状と見通しなどについて説明を聞き、意見交換した。概要は次のとおり。

■ 中間選挙の結果と2012年大統領選挙の展望

オバマ大統領率いる民主党は下院で過半数を失い、上院の議席数も大幅減となった。これは、オバマ大統領が当選した2008年に民主党に投票した無党派層が今回は共和党を支持したためである。大都市部、一部の郊外では民主党が支持されたが、地方・農村の大半では共和党が強い支持を得た。また、両党への支持が拮抗する州で票が共和党に流れた。

拮抗する州で民主党の党勢が回復できなければ、2012年のオバマ大統領再選はないだろう。民主党は今回、男性有権者の間で苦戦し、教育水準が低い層と大学院卒以外、また、年収5万ドル未満以外といった中間層の支持をすべて失った。また年配有権者は圧倒的に共和党支持であり、民主党支持が上回る若者は、08年の選挙の際と異なり、投票所に足を運ばなかった。再選にはこうした中間層の支持を回復する必要があり、ビジネス界としては中道路線へのシフトを期待する。メディアで注目されたティー・パーティー(Tea Party=TP)については、当選したのは推薦候補の3分の1、共和党上院議員の2割にすぎないが、勢いはある。TPと共和党重鎮の党内対立が生じれば、大統領再選への展望も開ける。

■ 向こう2年間の政策分野別の展望

下院が民主党左派と共和党保守派に二極化したことから、向こう2年間の政権運営は、総じて協力よりも対立の可能性が高い。今後、大統領が中道路線にシフトし、ビジネス界・共和党と協力していく決断をするか否かが注目される。

税制では、巨額の財政赤字解消にあたり法人税引き上げが必要との意見もあるが、政治合意が成立する可能性は低いだろう。

労働政策では、議会の支配権を失った民主党・大統領が、行政権限を行使し、労働者に有利な厳格な規制の導入を進めるだろう。ただし立法措置が成立することはないと見られる。

金融分野では、消費者金融保護庁長官に就任したエリザベス・ウォーレン氏が、金融危機の際、金融機関、金融業界を厳しく批判した人物であり、実務経験もないことが懸念される。ビジネス界は規制強化に裁判で対抗していくことになるだろう。

気候変動問題では、新規の法案が成立することはなく、ガソリン税の引き上げ等を除き、具体的措置が取られることはないと思われる。

米韓FTAやTPP(環太平洋経済連携協定)など、共和党から支持のある貿易政策は超党派で取り組める分野であるが、先のG20ソウル・サミットでは、米韓FTAの最終合意が実現できず、貿易政策全体のモメンタムが失われる懸念がある。米韓FTAが実現できなければ、TPPが実現する可能性はない。

<意見交換>

続く意見交換では、(1)TPP推進の意図(2)日本のTPP参加を米国が支持する際の条件――について質問があり、パディラ元商務次官から、(1)米国がアジア太平洋経済に関与し続けるようにすることがTPPの主眼であり、中国への対抗ではない(2)日本の参加に条件をつければ、牛肉、郵政など個別の問題に忙殺され、TPPそのものが進まなくなってしまうおそれがあり、これは望ましくない。来年のAPEC首脳会議までに、既存の9カ国間で枠組合意をつくり、これを用いて日本や他の参加希望国との交渉を開始すれば良いと考える――との回答があった。

【国際経済本部】
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