日本経団連タイムス No.3024 (2010年12月14日)

「東アジア共同体の条件と中日法学交流」

−季・上海交通大学凱原法学院長が講演


日本経団連は11月29日、東京・大手町の経団連会館で、上海交通大学凱原法学院の季衛東院長の来日の機会をとらえ、講演会「東アジア共同体の条件と中日法学交流」を開催した。季院長は、京都大学で博士号を取得したほか、神戸大学で教鞭を執った経験もある。
季院長の説明概要は次のとおり。

法律家間の相互理解の促進を

■ 東アジア共同体の創設における法規範の役割

地域統合に向けては、経済的相互依存関係の深化や自由貿易の促進にとどまらず、価値や規範の共有が不可欠である。この点、欧州各国はキリスト教という宗教を共有し、共通の価値観の基盤を持っている。しかしながら、東アジア諸国においては、宗教や政治体制に相違があり、これらに共通の価値観の基盤を求めることは困難である。
そこで、多様性を抱える東アジアを束ねるカギとして、共通の法規範の存在を指摘したい。まず、東アジア諸国は律令制の法伝統を共有している。また、西欧型近代法体系の流入に伴う、近代法典編纂の経験をも共有している。これらを東アジア共同体における基盤と位置付けることができるだろう。

■ 日中関係改善に向けた法律家間の相互理解促進

日中両国も、このような制度変遷の体験を共有している。東アジア共同体の創設に向けては、この地域の主要国である日中間の関係の深化が不可欠である。
残念ながら、現在、日中関係は不安定な局面にある。一方、過去を振り返ると、近代法に関する知的交流が盛んな時期は、日中関係も良好であった。これを踏まえ、東アジア共同体の礎をより強固なものとするとともに、日中関係の安定を確保するためにも、両国の法律家間での相互理解の促進が不可欠である。
さらに、東アジア諸国は、対話や協調を通じて、この地域の制度設計を行うことができる状況にある。そこで、両国の法律家は、東アジアの新しい秩序を構築するとの気概を持ちながら、交流を深めていく必要がある。

■ 上海交通大学凱原法学院による取り組み

上海交通大学凱原法学院としても、日本の関係各方面と協力しながら、法律家間の相互理解の一助となる取り組みを進めていきたい。具体的には、両国学生への留学助成やインターンシップ機会の促進、会社法制等に関する共同プロジェクトの実施、東京大学や早稲田大学の法学研究科との学術交流および学生交換などを検討している。
特に注力したいのは、企業法務講座の開設である。具体的には、日本企業の法務部門の責任者より、当院の学生に対して、企業法務の理論と実践を指導いただきたいと考えている。当院の来年度の開設講座とし、さまざまな業種の企業の方に来席いただき、幅広いトピックを扱いたい。企業法務について日本企業の経験から学ぶところは多く、同分野に関する中国初の人材育成プログラムとなるだろう。
こうした取り組みを含め、引き続き、日本の経済界の協力をお願いしたい。

【経済基盤本部】
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