経団連タイムス No.3071 (2012年1月26日)

欧州駐在大使との懇談会開催

−日EU EPA推進、欧州債務危機の現状など聞く


あいさつする米倉会長

経団連は12日、東京都内で欧州駐在大使との懇談会を開催し、日・EU経済連携協定(EPA)の推進、欧州債務危機の現状などについて説明を聞くとともに意見交換をした。経団連からは、米倉弘昌会長、渡文明評議員会議長、岩沙弘道、西田厚聰、勝俣宣夫、大塚陸毅、斎藤勝利、中村芳夫の各副会長らが出席した。説明の概要は次のとおり。

■ 「日・EU関係の現状と課題」
八木毅・外務省経済局長

現在、日EU EPA交渉の大枠を定めるためのスコーピング作業を行っており、今月下旬の協議において作業を終了したいと考えている。政府調達と非関税措置が論点となっている。政府調達について、EUは鉄道分野の調達と地方自治体へのアクセス拡大等に強い関心を有している。非関税措置については、EUが提示した30余の項目について日本として対応のロードマップを示すよう求めてきている。行政刷新会議の規制・制度改革分科会で検討するなど、日本政府として真摯に取り組むことによって、EU加盟各国が欧州委員会に交渉権限を付与するよう働きかけ、できる限り早期に交渉開始に合意したい。

■ 「EUの動向」
塩尻孝二郎・EU代表部特命全権大使

ギリシャに端を発した債務危機は、いまや欧州全体の国債市場、金融機関に対する不安に拡大、世界経済にも多大な影響を及ぼしている。EU経済の成長率は鈍化し失業率も高まっており、見通しは厳しいものの、ブリュッセルでは、「欧州統合は前進し続ける」という声が多く聞かれる。ユーロ危機の打開に向けて、昨秋の包括的戦略、昨年末の財政規律強化のための政府間協定に関する合意等、累次の対策が講じられており、財政健全化に軸足を置いた取り組みにはEUの強い意志が感じられる。しかし、市場からは対応が遅過ぎるとの批判もあり、当面綱渡りの状態が続く見込みである。

日EU EPAに関しては、日本と幅広い分野で手を組む必要があると思わせることが重要であり、また、欧州経済界を説得する必要がある。この点、昨年7月の訪欧ミッション以来、経団連が促進している産業界同士の対話が有益である。交渉開始に向けて正念場を迎えることから、引き続き経済界の協力をお願いしたい。

■ 「ドイツの情勢」
神余隆博・駐ドイツ大使

ユーロ圏を牽引してきたドイツは、経済好調で失業率も低く、国内に危機感はない。しかし、今年の経済成長見通しは1.0%程度と若干陰りが出始めている。メルケル首相は、ユーロ危機克服に向けて、フランスとの協力関係をベースに他の加盟国の財政規律をドイツ並みに強化すべく努力しているが、それが行き過ぎると傲慢との反発を招きかねない。ユーロ危機から回復しなければ、政権にとって打撃であり、慎重な運営が必要となっている。

日本とのEPAには、自動車業界を除けば産業界は賛成または中立である。自動車業界も規格・基準の調和を進めること等、条件闘争的な姿勢を示すようになってきている。

■ 「フランスの情勢」
小松一郎・駐フランス大使

経済・雇用情勢が悪化傾向にあるなか、4月の大統領選挙に向けて社会党のオランド候補は、サルコジ大統領の経済失政とともに欧州債務問題への対応を対独追従と批判している。これに対し、仏独は運命共同体であり、各種施策を講じたうえでのユーロ共同債の導入等は否定されておらず、フランスの主張も配慮されているという説明も聞かれる。大統領選挙の主要論点は財政健全化と経済成長の両立であるが、与野党問わず内向き志向、保護主義への傾斜が懸念される。

フランス政府は牛肉輸入解禁に向けた日本政府の取り組みを認識しつつ、日本とのEPA交渉の開始には、政府調達市場における鉄道分野の一層の開放等が産業界を説得する材料として必要と主張している。

■ 「イタリアの情勢」
河野雅治・駐イタリア大使

ギリシャ危機が飛び火して信用不安が高まり、ベルルスコーニ政権は崩壊、モンティ政権が発足した。テクノクラート(国会議員ではない専門家)で構成される新政権は増税や年金改革など国民に負担を強いる緊急対策を断行したものの、これまでのところ高い支持率を得ている。今後、新政権が取り組むべき根本的な課題は、脱税対策や労働市場改革等の経済構造改革である。モンティ首相は欧州主義者であり、EU内でのイタリアの復権を狙っている。

日本とのEPA交渉の開始について、自動車業界が懐疑的ではあるが、イタリアとしては、EUとして決定するなら従うという姿勢に変わってきている。産業間対話が重要である。

■ 「スペインの情勢」
佐藤悟・駐スペイン大使

経済は不動産バブル崩壊とユーロ危機のダブルパンチを受け、深刻な水準にある失業率をはじめ厳しい状況にあるが、債務残高等の指標は独仏より良好である。昨年末に誕生したラホイ政権は、強固な政治基盤を背景に緊縮財政や構造改革に着手、それを国民も支持しており、EUレベルで踏み込んだ対策が講じられるならば、当面の危機を乗り越えられよう。

従来、日本とのEPA交渉開始を支持している。多数のグローバル企業があり、例えば中南米はじめ第三国市場における日本企業との提携を希望している。

懇談会には欧州駐在大使約40名が出席した
【国際経済本部】
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