![]() |
教育問題委員会で講演する濱田総長 |
経団連は1日、東京・大手町の経団連会館で教育問題委員会(川村隆委員長、石原邦夫共同委員長)を開催し、東京大学の濱田純一総長から、東京大学の秋入学への移行に関する検討状況について聞いた。
冒頭、川村委員長は、「グローバル人材育成の観点から、東京大学が秋入学への移行を打ち出したことを支持している。秋入学への移行によって生ずる半年間のギャップ・ターム期間に、社会貢献活動や企業での就業体験などを積むことは、グローバル人材に求められる素質を育むうえで有効であり、産業界としても必要な協力はしていきたい」と述べ、秋入学移行への期待を表明した。
濱田総長は、川村委員長のあいさつに謝意を表すとともに、秋入学への移行を提案した背景として、東京大学の国際競争力強化の必要性に加え、「将来のリーダーを育成していくためには、現在の受験準備のための教育から抜けきれない大学教育や、断片的な国際化への取り組みでは不十分である。日本の若者に、世界の若者と堂々と対峙し、また協調していける力を身に付けさせたいという強い思いがあった」と述べた。そして、社会の仕組みが複雑になり過ぎて、なかなか物事が動かない現状を打破するためには、秋入学という、やや大きな仕掛けをすることで思い切った転換を図りたいと考えたこと、日ごろ学生に「タフになれ」「リスクを取れ」と言っている手前、総長としてもリスクを取ろうと考えたことなどの思いを披露した。
続いて濱田総長は、昨年4月より、秋入学への移行について検討してきた東京大学の懇談会がさる1月20日に発表した「中間まとめ」のポイントを説明した(図表参照)。そして、現状で海外留学をしている東大の学部生の割合は0.4%と非常に低調だが、学生が内向き志向なのではなく、学生へのアンケートでは、『積極的に留学したい』と答えた学生が学部4年生の36%を占めている。学生が留学しない理由として、経済的問題と語学力の問題のほかに、大学の年間スケジュールや就職活動が指摘されており、まず、このスケジュールの問題を解決したい」との考えを示した。
また、ギャップ・タームの過ごし方としては、大学の研究室活動への参加やフィールドワーク体験などの「知的冒険・挑戦」の分野、国内外でのNPO活動への参加や企業でのインターンシップなど「社会体験」の分野、高校で学べなかった分野に関する補習などの「大学での学びに向けた基盤づくり」の3つの分野があるとし、「学生がギャップ・タームを有効に活用できるかどうかは、秋入学が成功するかどうかのカギを握っており、今後、学内に検討チームを立ち上げて、在校生の協力を得て、体験活動に関する実証実験などを行いたい」と述べた。
入学時期のあり方について検討してきた東京大学の懇談会が、1月20日に発表した「中間まとめ」のポイントは以下のとおり。
|
濱田総長は、経済界と今後議論をしたいポイントとして、第1に、ギャップ・タームの有効な使い方やそれを可能とする仕組みづくり、第2に、夏卒業となるので、採用時期を通年採用など、より柔軟なものに転換していくことの2点を指摘。加えて、「秋入学への移行を通じて、大学が変わることで、外により開かれた社会をつくりたい。課題は山積しているが、大学もチャレンジし、次の時代に向けたブレーク・スルーを実現するので、経済界にもご支援、ご協力いただきたい」と述べた。
続く意見交換では、経団連から、グローバル人材の育成は企業経営の喫緊の課題であり、秋入学への移行を歓迎すること、外国人教員比率の引き上げや留学生の受け入れ促進など、大学自体の国際化をさらに推進すべきこと、大学教育のカリキュラムや入試制度についてもあわせて検討すべきこと、ギャップ・タームにおける家計負担の問題を検討すべきことなどの意見が出された。