経団連タイムス No.3076 (2012年3月1日)
シリーズ記事

昼食講演会シリーズ<第14回>

−「『はやぶさ』が挑んだ人類初の往復の宇宙飛行、その7年間の歩み」
/宇宙航空研究開発機構シニア・フェロー 川口淳一郎氏


経団連は2月6日、東京・大手町の経団連会館で第14回昼食講演会を開催し、153名の参加のもと、宇宙航空研究開発機構(JAXA)シニア・フェローの川口淳一郎氏から「『はやぶさ』が挑んだ人類初の往復の宇宙飛行、その7年間の歩み」と題した講演を聞いた。講演概要は次のとおり。

■ 新しいことへの取り組み

はやぶさは独創的なプロジェクトであり、イオンエンジンによる推進、自律的な小惑星への着地、サンプル採取、探査機の大気圏への再突入、など前例がないことばかりに取り組んだ。

JAXA宇宙科学研究所には「こうすればできる。60点取れば合格。合格し続ければよい」と考える伝統がある。はやぶさも「こんな問題があるからできない」ではなく、「こうすればできる」とできる方法を探して積極的に挑戦してきた。

■ 人材の育成、チームのマネジメント

人材育成で難しいのは、人は失敗して初めて「無知の知」に気付くことである。自ら体験しなければ学べない半面、失敗がトラウマになって研究から去ってしまう人もいる。また、技能を継承するためには、先輩が早めに身を引きつつ後輩と共同でプロジェクトに取り組み、技術や経験を伝承し、より高めていかなければならない。

はやぶさチームには、集まったエンジニアにそれぞれ取り組みたいことがあったため、各人の希望を統合して1つのシナリオにすることでモチベーションを維持できた。意思決定は会議で行い、エンジニアの意見が反映されていることが見えるようにした。意思決定が不透明で、自分が提案しても受け入れられないと感じるようになれば、エンジニアは提案しなくなるので、新しい良いアイデアが生まれにくくなる。

また、情報を早く求めるあまり判断を誤ってはいけない。例えば、サンプルが採取できたかどうかを確認するセンサーを付けるというアイデアがあったが、サンプル採取装置の軽量化を優先し、結局付けなかった。

■ オンリーワンの技術

日本は格付け文化から脱しなければならない。最高ランクであっても、2番では駄目なのだ。オンリーワンの技術であれば、格付けされることもない。高い塔を立てなければ、新たな水平線は見えてこない。

アメリカでは、海外からの留学生は卒業したらアメリカで就職して研究に従事し、イノベーションの担い手となっているが、日本は閉鎖的な社会であるため、留学生は卒業したら日本で就職せずに母国に戻ってしまっている。

日本は「製造から創造へ」と踏み出さなければいけない。自信と希望を持って「日本人はできる」と信じ、日本人のポテンシャルを最大限に発揮できるようにすれば、日本は復活できる。インスピレーションから来る新しいアイデアによって変革を生み出し、イノベーションによって新しいものを創り出していかなければならない。

【総務本部】
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