経団連タイムス No.3076 (2012年3月1日)

財政再建と成長に向けた戦略を聞く

−小黒・一橋大学経済研究所准教授から/経済政策委員会・財政制度委員会合同企画部会


経団連の経済政策委員会企画部会(村岡富美雄部会長)と財政制度委員会企画部会(森田敏夫部会長)は2月14日、東京・大手町の経団連会館で合同部会を開催し、一橋大学経済研究所の小黒一正准教授から「財政再建と成長に向けた戦略について」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

1.わが国財政の見通し

内閣府が1月24日に公表した「経済財政の中長期試算」によれば、2015年に消費税率が10%に引き上げられても、国と地方の基礎的財政収支赤字を2010年度対比で半減させるという目標(マイナス3.2%)の達成は、2016年度と1年遅れる見込みである。米国の研究者は、2012年に消費税率を10%にしても、少子高齢化のトレンドが反転しないまま、今の社会保障給付水準を維持するには、2017年に消費税率33%への増税が必要であるとの推計を示している。

また、過剰な公的債務は経済成長を抑制する。経済学者のロゴフとラインハートが行った44カ国のデータを元にした計量分析によれば、公的債務残高の対GDP比が90%を超えると、その国の成長率は平均して約4%低下するという関係が見られる。

2.IS(貯蓄・投資)バランスの観点から見た財政再建の必要性

内閣府の国民経済計算において、国民純貯蓄と純投資(生産設備等の増減)の差額は、経常収支と等しくなる。わが国では、政府部門の赤字幅の拡大によって、国民純貯蓄は2009年度から減少に転じている。経常収支が黒字のなかで、こうしたトレンドが今後も続けば、純投資がマイナスとなる。純投資の減少は、資本ストックの縮小に伴うGDPの低下を意味する。こうならないよう純投資をプラスに維持するならば、経常収支は赤字化する。そうなると、アメリカと同様、日本も財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」に陥ってしまう。

このように、マクロ経済全体の姿を見ても、わが国の財政健全化に向けた取り組みは急務である。

3.財政再建と成長との両立

毎年約1兆円ずつ増加する一般会計の社会保障関係費を賄うため、その他の予算が削減の対象となっている。そこで、社会保障予算を「ハード化」することで、一般会計から切り離して管理すべきである。これにより将来の成長に必要な投資(研究・開発・教育・都市開発等)に、十分な予算額を振り向けることが可能となる。

また、社会保障の世代間格差を改善することも重要である。世代間格差の改善によって、将来世代の負担が減り、消費を増やすことができるため、結果として経済成長にもプラスとなる。そのための一つの手段として、例えば公的年金の事前積立の導入が考えられる。年金の事前積立は、制度改正が不要であり、財源を確保し積立金を拡充するのみで対応できる。その際、医療・介護にも事前積立を整備し、オランダのような「管理競争」を導入することで、医療・介護を成長産業にすることが可能となる。

【経済政策本部】
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