経団連タイムス No.3079 (2012年3月22日)

「日本のソブリンリスク」テーマに説明聞く

−バークレイズ・キャピタル証券の土屋・森田両ディレクターから
/経済政策委員会・財政制度委員会合同企画部会


経団連の経済政策委員会企画部会(村岡富美雄部会長)と財政制度委員会企画部会(森田敏夫部会長)は5日、東京・大手町の経団連会館で合同部会を開催し、バークレイズ・キャピタル証券の土屋剛俊、森田長太郎両ディレクターから、「日本のソブリンリスク」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

(1)財政破綻論に欠けている視点

日本の財政破綻をめぐっては、悲観論、楽観論、どちらも聞かれ、それぞれ一理ある感じがする。しかし、いずれの議論も、企業の破綻と国の破綻の違いという重要な視点を欠いている。企業の破綻は、約束した借金の返済が期日までになされない場合に起こるが、国の場合は、こうした破綻は狭義の破綻にすぎない。融資条件の違反でなくとも、ハイパー・インフレや預金封鎖、大増税といった金銭的損失が発生するケースも、広義の破綻としてとらえられる。

ここで重要なのが、国の破綻の場合、そのパターンによって、負担を負わされる人が大きく異なるという点である。例えば将来、大増税が行われるパターンの場合、国債を保有しているかどうかにかかわらず、将来世代の国民が負担を迫られることになる。

(2)わが国の国債市場安定の背景

市場では、国債暴落論を支持するコンセンサスがあるようだが、現在まで国債の金利は安定的に推移してきた事実がある。その根本的な原因は、貯蓄超過だ。ゼロ金利下の日本では「流動性の罠」に陥っているため、経済理論で想定する金利変動による貯蓄・投資バランスの調整機能は働かず、恒常的に貯蓄超過が生じている。これが国債を吸収し、低金利をもたらしている。

最近の民間部門の貯蓄増加は、企業部門に起因する二つの原因がある。一つは、高齢化がもたらす長期的な期待成長率の低下に沿って、投資を抑制していること、もう一つは、新興国における生産を拡大して海外の安い労働コストを利用することで、超過収益を獲得し、借金を返済して貯蓄超過を生じさせていることである。

こうした貯蓄超過の状態を解消するには、高齢化がピークアウトし、新興国との賃金格差が縮小するなど、相当の時間を要する。国債暴落までのパスは、さらにインフレ基調への転換、政府対応の遅れなどいくつかの段階を踏むものと考えられる。

ただし、家計や企業の過剰貯蓄を引き受けている銀行部門において、国債保有に伴う金利リスクが増加し続けており、今後、暴落とまでいかないまでも、ある程度の規模のショックが生じる可能性はある。

(3)財政再建の必要性

国債の暴落は当分起きないと考えているが、財政再建は不要ではない。単純な財政収支均衡ではなく、世代間の不公平解消を財政再建の目的として掲げるべきである。それによって現役世代、若年層の将来不安からくる過剰貯蓄を抑制し、消費の増大、デフレ脱却につなげることができる。

なお、日銀の国債直接引き受けなど、財政ファイナンスを支持する議論があるが、ほぼ間違いなくハイパー・インフレに帰結する。政府や日銀は決して判断を誤ってはいけない。

【経済政策本部】
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