御手洗日本経団連会長
月刊・経済Trend 2007年1月号
新春対談

「美しい国」、「希望の国」の
実現をめざして

安倍総理
日本経団連会長
御手洗冨士夫
みたらい ふじお
内閣総理大臣
安倍晋三
あべ しんぞう

2006年9月に安倍内閣が発足し、「美しい国」づくりを標榜して国の政策が展開されはじめた。日本経団連でも5月に御手洗会長に交代し、「希望の国、日本」をめざしている。新しい年を迎えるにあたり、お二人に「美しい国」、「希望の国」づくりに向けた意気込みを伺った。

八塩(司会)

2006年の総括と2007年をどのような年になさりたいか、年頭に当たっての所感を兼ねてお願いいたします。

経済成長の波に乗った
2006年

安倍

昨年は、ワールド・ベースボール・クラシックで日本が優勝し、大きな感動をよびました。また、トリノ・オリンピックでは、フィギュアスケートで初の金メダルを獲得し、大きな勇気を与えてくれました。2006年の明るい幕開けになったと思います。
小泉前総理が就任した5年半前、日本経済は非常に厳しい状況にありました。不良債権が山ほど溜まっており、国の借金も未曾有の額で、株価も厳しく景気も停滞していました。小泉総理が構造改革、歳出改革を断行した結果、不良債権は正常化し景気も回復、経済成長の波に乗ることができました。その結果、今回のいざなぎ超えにつながりました。同時に、2007年以降の課題もたくさん含んでいます。

御手洗

安倍総理率いる内閣は、構造改革路線を継承しておられ、経済界は大変心強く思っています。私は、10月にEU本部、ドイツ、フランス、英国を訪れて政府、経済界の首脳と懇談しましたが、安倍総理に対する強い期待を肌身に感じてきました。また、安倍総理は就任直後に中国・韓国を訪問され、まさに有言実行の人として、新しい時代の幕開けを感じています。

2007年は憲法についても
議論を深める

八塩

2007年はどのような年になさりたいですか?

安倍

現行憲法の制定以来60年が経ちました。私は「美しい国づくり」を内閣の課題に掲げていますので、2007年は憲法についても議論を深めていきたいと思います。そのための手続法である国民投票法案についても議論をして、美しい国づくりを一歩でも二歩でも進めていきたいですね。

「希望の国、日本」のめざす
ところは安倍総理と同じ

八塩

御手洗会長も「希望の国」という言葉を使っていらっしゃいますが、「美しい国」と通じるところがあるのではないでしょうか。

御手洗

たしかに、「美しい国」と「希望の国」には相通ずるものがありますね。私は、昨年5月24日に日本経団連会長に就任しましたが、経済回復基調をより確かなものにして日本経済をさらに発展させていきたいと思い、めざすべき姿のキャッチフレーズとして「希望の国、日本」を掲げました。「希望の国」とは、国民みんなが豊かで幸せな暮らしを送ることができる国です。すなわち、平等に挑戦の機会が与えられ、不幸にして失敗した場合には再挑戦が可能で、セーフティネットがきちんと用意されている。そして、国際的にも尊敬され親しまれる国です。これを実現するには持続的な経済成長が不可欠です。「希望の国」は、安倍総理の理想とされているところとベクトルが合っていると思います。

八塩

失敗してもまた復活できるというお話がありましたが、これは安倍総理のおっしゃっている「再チャレンジ可能な社会」につながりますね。

安倍

一生懸命努力した人、知恵を絞った人が報われる社会であってほしいですね。失敗も成功もあるでしょうが、大切なのは結果をつくらないことではなく、固定化しないことです。がんばった人が報われる社会は活性化されますし、何回でも挑戦する機会がある社会では人々の人生は豊かに、生きがいあるものになってくると思います。
人口が減少する局面においても経済社会が成長するためには、イノベーションとオープンな姿勢が大切です。2007年も大きな変化のある年になると思いますので、グローバル化が進むなか、アンテナを張りながら迅速な対応を心がけたいと思います。特に成長著しいアジアの発展をいかに日本に取り込んでいくかが今後の一つのカギになるでしょう。日本はアジアや世界に対して、社会的・経済的により開かれた存在でなくてはなりません。

経済回復基調を
より確かなものにしたい

八塩

2007年はどのような年になりそうだとお考えでしょうか。

御手洗

経済が回復したと言いましても、実態はまだまだ脆弱であり、これを確かなものにするためになすべきことはたくさんあります。2007年は、グローバルな競争の激化や急速に進む少子高齢化による人口減少社会の到来に向けて、いよいよ本格的に対応していく年でもあります。課題を一つ一つ克服して、更なる経済成長をめざしていきたいと考えています。

政治は経済に敏感で
なくてはならない

八塩

経済と政治の連携も重要だと思いますが、いかがでしょうか。

安倍

政治は経済に敏感でなくてはいけないと思います。成長し続けることが美しい国の条件ですから、国が進めようとしている政策に対する経済界の反応をよく聞いて、政策の方向づけをしていかなくてはなりません。同時に、国の政策を経済界に理解してもらうことも必要です。
また、外交面では、どの国でも経済外交を大きな外交の要素にしています。APECのあったベトナムには御手洗会長はじめ130名を超える経済界の方々に同行していただきました。このことは両国関係の発展、地域の発展に大きく寄与したと思います。

五つの改革が不可欠

対談の様子
八塩

経済界としても政治に期待するところが大きいと思いますが、いかがでしょうか。

御手洗

まず政治があって、経済がある。これからも政治のリーダーシップのもとに、美しい国づくりのための環境整備をしていただき、その中で経済成長をめざしていくということになると思います。安倍総理には経済環境を整えるという意味で、今後10年程度を視野に入れますと、五つの改革を行っていただきたいと考えています。それは、新しい成長エンジンの創出、アジアのダイナミズムを取り入れていく通商戦略の策定、社会保障の見直しや規制改革など政府の役割の再定義、道州制の導入や労働市場改革、公徳心の涵養など社会の絆を固くすることの五つです。日本経団連では、こうしたことを「新ビジョン」として年頭に取りまとめますので、ぜひご覧いただきたいと思います。

構造改革をしなければ 雇用も守れない

八塩

改革が必要な点はたくさんあるようですが、たとえば規制改革についてはいかがでしょうか。

安倍

経済的な規制は相当解決しているのですが、たとえば社会保障、教育、労働、農業など、いわゆる社会的な規制についてはまだまだこれからなんですね。私は、国民にとって規制改革が利益になるか検証し、メリットになるのであれば、国民の納得を得ながらリーダーシップを持ってこれを進めていきます。国民へのインパクトや痛みを勘案しつつも、進めるべき規制改革については思い切って決断をしないといけません。
なぜ構造改革が必要かというと、激化するグローバル化の中で、日本は国際競争に勝ち抜いていかなくてはならないからです。国際競争に勝たないと、国内の雇用も守れなくなってしまうのです。
たとえば、私は農業分野の輸出で一兆円達成を目標に掲げています。まず、日本の農産物は高すぎて輸出できない、売れないという固定観念をなくすことが重要です。いまや世界中で日本食ブームなので、日本の食材の付加価値は高まるはずです。農家のかたがたは、品質の良い農産物を作ることには優れていても、営業やネットワークづくりは不得手な場合があるので、企業人がそこに参画して知恵を出していけば新しい未来が開けていくと思います。

企業はつねにコンペティティブ・
エッジを持て

八塩

グローバルな世の中になってきて、日本も国際競争力をつけなくてはいけないとなりますと、そのためにやるべきことはたくさんありますね。

御手洗

今や日本企業は、業種にかかわらず世界中の企業と競っています。重要なことは新しいものを生み出すイノベーションです。企業はつねにコンペティティブ・エッジ(競争の優位性)をつくりそこに足場を築いていかないと、市場から消え去る運命にあります。したがって、イノベーションに向けた研究開発、設備更新などへの投資が欠かせません。
また雇用の面でも、日本は新興諸国の安価で豊富な労働力との競争にさらされています。雇用の空洞化を阻止する意味でも、イノベーションによる生産性の向上が不可欠です。
そして、こうした企業の自助努力を後押しし、国際競争力を高めるために、政府には税制改革などのお願いをしているところです。

国際競争に勝ち残るための
税制を考える

八塩

税制は国をつくるうえで大変重要ですが、どのように改正していこうとお考えでしょうか。

安倍

税制については、公平・公正・簡素という基本的な考え方があります。さらに私は、日本が競争力を持ち、持続的に成長し続けるエネルギーを持った国であるための税のあり方を考えたいと思います。政府税調にはその方向で検討してもらっています。そうでないと日本経済は衰退し、雇用も失われることになりかねません。
イノベーションへの投資は非常に大切です。中国やインドと同じ土俵で戦っていてはだめなので、やはり日本は高付加価値分野で勝負しないといけません。企業にはこれからも新しいアイディア、新しい分野に積極的に投資をしていただいて、国も貴重な投資が適切な分野にいくような環境づくり、支援をしていかないといけないと考えています。

積極的に政策提言していく

御手洗

安倍総理におかれましては、引き続き政策重視・政府主導の政治運営をぜひとも進めていただきたいと思います。そして私は、日本経団連を政策集団として一段と強化し、持続的な経済成長に向けた政策提言を積極的に行うことにより、政治と経済が車の両輪となって、美しい国、希望の国が実現されるよう努力していきたいと思います。

内外に向けてメッセージを
発信していく

安倍

経済のグローバル化が進んでいく中で、政治も内外に向けてメッセージを発信していきます。19年度予算を通じて、財政再建に向けた決意や、日本は信頼に足る国であり成長し続ける国、決して物事を先送りしないということを世界にアピールしていきたいですね。
たとえば、道路財源は昭和29年にできた制度ですが、50年以上、指一本触れてきませんでした。今回これを初めて見直すということで風当たりも相当強いのですが、「自ら反みて(なお)くんば、千万人と雖も吾往かん」という決意で、2007年は臨んでいきます。

八塩

本日のお話を伺っておりまして、お二人のめざす方向は同じという印象を受けました。マスコミ人として、私もお二人のメッセージを社会に伝えていきたいと思います。本日は貴重なお時間をどうもありがとうございました。

司会:八塩圭子 〈司会〉
八塩圭子
やしお けいこ
(2006年12月7日 首相官邸にて)

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