月刊・経済Trend 2011年12月別冊・寄稿～震災後、企業はどう取り組んだか／全日本空輸

震災翌日から輸送力確保に取り組む

航空運送事業は公共性の高い輸送インフラであり、特に大規模災害にあっては、緊急輸送等の観点から大きな役割を担っている。2011年3月11日の東日本大震災の際は、仙台空港を中心とした施設の損壊、燃料・機用品・資材の不足、首都圏における電力の問題などのなかで、「心をひとつに、がんばろうニッポン」のかけ声のもと、公共交通機関としての責任を果たすべく対応を図った。

震災発生後、当社グループではただちに危機対応本部、オペレーション特別対応本部を立ち上げ、情報の収集と対応を急いだ。まず、仙台空港が空港としての機能を事実上喪失したことが明らかになったため、当面の間、周辺空港に臨時便を運航して東北の航空ネットワークを維持することを決定した。そして震災翌日の3月12日以降、福島空港から羽田、大阪、札幌、中部への臨時便運航や庄内・秋田空港発着定期便の機材大型化などによって輸送力を確保した。また、便の就航がなく基地体制がなかった山形空港においても早急に体制を構築し、伊丹・中部への臨時便を運航することで輸送力強化を図った。仙台空港は4月13日から民間航空機の離発着が可能となり、羽田への臨時便を皮切りに、空港状況に応じて臨時便を順次増便した。仙台空港が復旧して定期便の正常運航が始まる7月25日までに、東北地区に飛んだ臨時便は1562便に及んだ。

4月13日　仙台空港を出発する臨時便

仙台空港出発便を見送る社員

仙台空港に設置された仮設カウンター

被災地の支援活動への協力

東北への航空輸送の維持・強化を図る一方で、被災地の支援活動に対する航空会社としての協力の体制もいち早く整備した。政府ならびに地方自治体からの要請に応じた救援物資の輸送や救出・医療支援者の渡航については、国内線、国際線の全路線を対象として無償で輸送協力を実施、期間中に約18トンの物資と約7,000人の渡航者を運んだ。また経団連による「救援物資ホットライン便」には秋田県や自衛隊等とともに協力、経団連会員企業等から寄せられた救援物資約63トンを羽田空港から秋田空港まで無償で輸送した。

航空輸送以外では、義援金や支援物資（毛布、シーツ、アメニティ、ジュースなどの機用品）、お客様に協力をいただいた義援マイルの提供を行った。グループ社員によるボランティア活動も順次展開され、イントラネットを活用した事例共有を図りながら、当社グループならではの復興支援を行った。

除雪車を使った給湯サービス「こころの湯」

給湯活動に利用した航空機用除雪車とスタッフ

グループ社員ボランティアによる復興支援活動のひとつに、航空機用除雪車による給湯サービスがある。航空機用除雪車はタンクとボイラーを積載しており、6,000リットルの水を1時間弱で90℃まで温めることができる。給湯サービスは、除雪車のこの機能を使って、給湯ができなくなった避難所でお風呂を沸かすというものである。新潟県中越地震の際に実施して好評だったサービスであるが、今回は宮城県南三陸町の避難所で実施した。「こころの湯」と名付けたこのお風呂サービスは、約2ヶ月の活動期間にのべ2,200名を越える方々にご利用いただいた。

企業市民として責任を全う

震災の被害のなかで公共インフラとしての責務をいかに果たすか、あるいは当社ならではの復興支援とは何であるか、この数ヶ月はそれを模索する日々であったが、それは当社グループが負っている責任をあらためて認識する機会ともなった。企業市民として責務を全うしながら、社会からの期待や要請に事業活動を通じて応え、持続的な社会形成に貢献しながら社会とともに成長する。これが当社グループの目指す姿であり、震災という不測の事態においても変わることはない。

震災から半年あまりが過ぎた。企業活動の縮小によるビジネス流動の減退、個人消費低迷や自粛ムードの広がりによる旅行流動の減退、訪日旅行者や国際物流量の減少等が懸念されたが、全体としてビジネス需要は大きな影響がなく、旅行や訪日需要も回復してきている。一方で被災地の方々は、依然として厳しい状況のなかにある。当社グループとしては、事業を通じた活動と企業市民としての活動の両面から継続的な復興支援を行いながら、あったか、あかるく元気な企業活動を通じてお客様に価値を届けることで、社会とともに成長していく企業グループでありたいと思う。

（10月6日記）