月刊・経済Trend 2011年12月号別冊 寄稿〜震災後、企業はどう取り組んだか

日本たばこ産業

常務執行役員
佐伯 明
(さえき あきら)

言葉を失う被害のなかで


JT北関東工場(栃木県宇都宮市)

JTグループでは、地震発生直後、社長を本部長とする全社災害対策本部を速やかに立ち上げ、社員・家族の安否及び事業所の被災状況確認、事業の継続と復旧、被災地への支援、を取り組みの大きな柱とした。

まず、震災発生直後の最優先課題として、社員・家族の安否及び事業所の被災状況確認にJTグループ全体で取り組み、早期にほぼ全員の安否を確認した。

事業所では、国内たばこ事業の各拠点が特に深刻な被害を受けた。具体的には、たばこ製造6工場のうち2工場が被災したことに加え、原材料の製造拠点も甚大な被害を受けており、いずれも操業不可能な状態となった。最大のたばこ工場である北関東工場(栃木県宇都宮市)は建屋や製造ラインの損傷が激しく、床も波打っている部分があるなど、初めて立ち入った際には言葉を失うほどであった。

会社化以降、はじめての苦渋の決断


北関東工場での生産の様子

事業の継続と復旧について検討したところ、製造拠点の被災に加え、材料サプライヤーも数多く被災し、50ほどにのぼるたばこの材料を十分に調達できなくなっていたため、製造可能なたばこの数量も銘柄数も大幅に低下していることが判明した。また、配送拠点の被災に加え、ガソリン不足や道路網の寸断も重なって、輸送が非常に難しいこともわかった。

こういった状況では、製造できたたばこをその都度販売することも考えられたが、そのような対応では、お客様の買われ方次第で急に欠品を起こすことが容易に想像できた。お客様からみても、自分の愛喫ブランドが販売中なのか欠品中なのか、次の入荷はいつなのかわからなくなってしまい、明らかに市場の混乱をひき起こしてしまう。「早い者勝ち」のお得意様に販売していたのでは、お買い求めできないお客様も出てこられると想定された。

そこで、製造できる数量が限られているなかでも、安定的かつ確実に全国に商品をお届けするために、3月30日から一時的にたばこの供給を全面的に停止するという、1985年の会社化以降初めてとなる苦渋の決断を行った。

その後、生産体制が復旧するにつれて出荷を再開し、販売店様からの受注に関する限定も段階的に解除したが、言うまでもなく、たばこを製造し、お客様のお手元にお届けすることがグループの中核事業であるたばこ事業の存在意義であり、最も重要な社会的責任である。たばこはお客様が銘柄を指定して楽しまれるので、全ての銘柄で在庫切れを起こさないことがたばこ会社の使命である。その責任及び使命を果たせなかったことは非常に心苦しく、お客様に対しても大変申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

お客様を第一に考え、誠実に行動する


商品出荷の様子

これらの判断は、JTグループ全社員の行動指針である「JTG−WAY(JTグループWAY)」に基づいて行った。なかでも、その第一に定めている「お客様を第一に考え、誠実に行動します」を重視した。

安定的な商品供給体制を早期に復旧させるため、本社では、グローバルベースでの代替サプライヤーの探索や海外たばこ工場からの原料調達など、あらゆる検討を重ねた。一部原料については海外子会社に増産を依頼し、航空便で日本に輸入して手作業でラインに投入することで原料不足を解消した。

一方、製造現場でも、震災前と変わらぬ品質の商品を製造しながら、製造ラインを早期に復旧させるべく、社員が自ら考え、様々な対応を行った。

たばこ工場では、前工程で原料を処理し、後工程で製品化するが、北関東工場では、一ラインずつ、後工程が想定以上の早さで復旧した。すると、そのラインを稼動させられるよう、他工場で原料を処理して北関東工場に輸送し、まだ同工場で復旧していない前工程を他工場同士が協力して代行するという緊急のサポートを行った。

安全を第一優先としながらも、お客様にいち早く商品をお届けしたいという思いで高い現場力を発揮し、前工程が復旧する前に北関東工場での生産を再開することができた。

同様に、被災した他工場や配送拠点でも想定を上回る早さで復旧が進み、8月1日からは通常通りの出荷体制に戻った。

JTグループ一体で被災地支援を継続

私たちは、一人ひとりがそれぞれの持ち場で全力を尽せば、必ずこの難局を乗り越えられると確信し、行動してきた。それが、お客様、お得意様また励ましをいただいた方々への唯一の答えだからである。

これからも一貫して、お客様を第一に考え、誠実に行動していく。

BCPの観点からは、製造拠点や材料サプライヤーのさらなる分散化等、大災害へのさまざまな対策を中長期的に検討し、お客様満足度の一層の向上に努めていく所存である。

なお、被災地への支援については、海外取引先からのお申し出も含む義援金の拠出や社員募金の寄付に加え、飲料・食品の商品提供、子会社であるテーブルマーク社による炊き出しの実施、社員によるボランティアの推進、被災エリアの農作物を社員食堂で使用する等、JTグループ一体となって実施している。こうした幅広い支援をしっかりと継続していく。

(10月3日記)

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