月刊・経済Trend 2011年12月号別冊 寄稿〜震災後、企業はどう取り組んだか

日本通運

社長
渡邉健二
(わたなべ けんじ)

東日本大震災では日本通運グループも、仙台塩釜港、仙台空港、気仙沼、大船渡・相馬など、東北エリアの支店・事業所・営業所などで地震と津波により、大きな被害を受けた。従業員もグループ全体で9名の死者・行方不明が生じたほか、200台を超すトラックなどが被災した。

緊急支援物資輸送の取り組み


緊急救援物資輸送車両

救援物資集積所荷役

当社は国内外に多数の拠点を有し、陸海空にわたる輸送ネットワークを持つ総合物流企業であることから、災害対策基本法では、電気・通信・鉄道など公益的な事業を除けば、純民間企業としては唯一の指定公共機関である。これまでも阪神・淡路大震災や新潟県中越地震などの大災害に対して、緊急支援物資輸送の実施など、災害支援活動を行ってきた。

東日本大震災に際しても、発生当日に本社に災害対策統括本部を、仙台支店に現地災害対策本部を設置して、3月末までにトラックで延べ4,170台、4月に入っても同2,640台の緊急支援物資輸送を行った。

最も早かったのは11日23時過ぎに、都内の帰宅困難者向け毛布の輸送であった。次いで12日未明から全国各地のパン工場から被災地向けに、大型トラック15台でパンを輸送した。

阪神・淡路大震災の際もそうであったが、被災地の支店・営業所では自らも被災しながら、被災者のために日夜の別なく緊急救援物資を届け続けた。また、流失したトラックや機材の代替として、全国の支店・営業所から応援のトラック・機材を送り込んだ。

その他、寸断された鉄道コンテナ輸送をトラックで代行輸送をし、まだ沈船・がれき等が残る仙台塩釜港に内航コンテナ船で飲料水・食料品を運送、被災した仙台空港に代わって山形空港を利用して医薬品を輸送するなど、日通グループの陸海空の輸送ネットワークを挙げて取り組んだ。

なお、今回の震災では、自衛隊の救助活動等迅速な諸対応が、被災地の復旧を大変効果的に支えたと強く感じている。今後の大災害に備えるという観点から、その重要性を改めて認識した。

震災ロジスティクスとしての教訓

今回の東日本大震災における緊急支援物資輸送を振り返ってみて、幾つかの教訓が得られたように思う。

◇道路ネットワークの早期復旧と通行規制の効果

物流ネットワークやサプライチェーンが寸断される一方で、ライフラインとしての物流の重要性が改めて認識されたように思われる。

自動車(道路)、鉄道、海運(港湾)、航空(空港)の各輸送モードのなかでは、自動車、ことに道路ネットワークの復旧が早かった。東北高速道は内陸部を縦貫していたので、3月12日には緊急車両のみ通行可能となった(23日まで一般車両の通行を規制)。また、国土交通省の「櫛の歯作戦」により、東北道・国道4号線から太平洋岸への道路が早期に啓開された。これが緊急支援物資輸送に大きな効果をあげた。

一般車両の通行規制には批判も出たようだが、今後、想定される首都圏直下型地震等の大災害時などには一時的な規制はやむを得ないものと考えられる。ちなみに、前述の都内帰宅困難者向け毛布輸送は、都内の大渋滞のため、間に合わなかった。

◇緊急支援物資の事前備蓄と輸送体制

現在の災害対策基本法等では、各自治体が食料・水・毛布・医薬品等を備蓄することになっているが、今回のように津波で自治体や備蓄拠点自体が被災してしまうと機能しない。そこで、例えば、高速道路のIC近くに近隣自治体で共同で備蓄する等の対策が必要と考える。

また、今回、全国から被災地に向けて大量に緊急支援物資が送られたが、国が手配したもの、被災自治体が相互支援協定に基づいて連携自治体に要請したもの、企業が無償提供して独自に輸送手配したもの、個人が集めて送ってきたもの等、多数のルートで被災地に大量に送られた。

その結果、ほとんどの物資集積所がパンクしてしまい、集積所から避難所へのスムースな配送ができない例が数多く発生した。ただし、被災後数日を経て、物流業者が物資集積所の運営を受託してからは、比較的スムースに運営されるようになった。

この輸送体制等の問題については、現在、内閣府や国土交通省で検討されているようであるが、もう少し国がイニシアティブを持った体制づくりを望みたい。

◇急がれる大規模災害に対する法整備

大規模災害に対しては、一般的な「災害対策基本法」と、地域特別版としての「東海地震対策法」がある。この現行法では、地方自治体が災害対策の主役とされている。前述した備蓄同様に、避難先も同一市町村内とされる等、今回のような広域災害には限界がある。

地方分権・地方主権などの意見はそれとして、国民の生命・財産などに関係する緊急事態には、国がもっと強いイニシアティブをとり、迅速に手を打つことが必要である。

前述した、首都圏直下、東海、東南海、南海などの予想される大規模地震災害に対して、適切な法整備が喫緊の課題となるのではではなかろうか。

国民生活を支えるインフラとしての物流・ロジスティクス

3月11日の発生以来、既に8カ月が経過したが、現地の復旧・復興は遅々として進んでいないと言っても良いだろう。これは、阪神・淡路大震災など、これまでの大規模災害と比べても、非常に残念でならない。

物流・ロジスティクスは、産業と国民生活を支えるインフラである。日通グループは、今回の震災を教訓として、さらに防災力を高めるとともに、円滑な物流・ロジスティクスの提供を通じて、復旧・復興を支援していきたい。

(10月21日記)

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