1996年7月24日
(社)経済団体連合会
経済社会の構造改革を図る上でコンピュータなど情報通信技術の活用(情報化)は不可欠です。しかしながら、現状は様々な制度や慣行が情報化を想定していないために、あるいは、情報化に対応したルールが整備されていないために、情報化が進展しないという問題があります。そこで、情報化を推進する上で現行諸制度が抱えている問題点を把握するため、経団連の情報通信委員会でアンケート調査を実施したところ、概要以下のような要望が寄せられました。
中には、すでに政府で対応を検討しているものなどが含まれておりますが、経団連に期待することなどを含めてご意見をいただければ幸いです。
- 保存義務づけ書類の電子データによる保存の容認
以下のような法律で民間企業に保存が義務づけられている書類については、政府の「高度情報通信社会推進本部」が「できる限り速やかに」電子化を実施する方針を打ち出しております。最も要望の多かった税法上の書類についても、国税庁に研究会が設けられ、電子保存を認めるにあたっての具体的な条件・基準について検討が開始されております。
経団連としては、そのような要件の設定にあたっては、企業の自己責任原則を前提として、多くの企業で利用が可能となるよう、要件のハードルをできるだけ低くするなど、民間が利用しやすい形で着実に実施されるよう働きかけていく必要があると考えています。
【具体例】
- 税法上の書類(仕訳帳、総勘定元帳等)
- 労基法上の書類(雇入・解雇に関するもの等)
- 雇用保険法上の書類(被保険者に関するもの等)
- 健康保険法上の書類(健康保険に関するもの、診療報酬明細書)
- 厚生年金保険法上の書類(厚生年金保険に関するもの等)
- 商法で保存が義務づけられている株主総会・取締役会議事録 等
- 申請・申告手続き等の電子化・ペーパーレス化
以下のような申請・申告手続きの電子化についても、政府の「高度情報通信社会推進本部」では、「できる限り速やかに」電子化を実施することとしております。
その際、官側の受理システムの整備が必要となるわけですが、財政上の制約等を理由に電子化を遅らせるようなことがあってはならないと考えます。むしろ、この分野にこそ予算を重点的に配分し、地方公共団体も含めてシステム整備を進め、民間企業、一般国民がその効用を実感できるようにする必要があると考えています。
【具体例】
- 税務申告(法人税法)
- 給与支払報告書の提出(地方税法)
- 源泉徴収票の提出(所得税法)
- 不動産・商業登記申請(不動産登記法、商業登記法)
- 雇用保険・社会保険関係届出(雇用保険法、厚生年金保険法、健康保険法)
- 有価証券報告書の提出(証券取引法)
- 建築確認申請(建築基準法)
- 道路占用許可申請(道路法)
- 住民票の広域交付(住民基本台帳法、自治体オンライン接続禁止条例)
- 行政調査(統計法、統計報告調整法) 等
- 情報通信機器の法定耐用年数の短縮等
ここへ来て企業の情報化投資にも漸く弾みがつきつつあります。その中で、各企業は以下のような税務上の会計処理に係わる問題に直面しているようです。例えば、パソコンは、現在、法定耐用年数が6年となっているわけですが、技術革新を背景とした最近の新製品の開発サイクルは非常に短く実態に合っていないので、例えば3年に短縮してほしいとの要望があります。
【具体例】
- 情報通信機器(パソコン等)の法定耐用年数・リース期間の短縮
- 少額減価償却資産(パソコン等)の損金算入限度額の引き上げ
- ソフトウェア開発費用の償却期間の短縮 等
- 遠隔サービス等の活用
以下は公共サービス等の分野で情報通信技術(通信回線)を活用できる範囲を広げてほしいという要望です。これらの中には、すでに政府の規制緩和推進計画に盛り込まれているものもあるわけですが、現行の法制度の下で実施可能か否か明確でない、あるいは担当の省庁は現行法制度の下で実現可能と考えているにもかかわらず、それが必ずしも周知徹底されていないものがあるようです。
経団連としては、規制緩和推進計画に盛り込まれているものは、着実な実行を働きかけていく一方、現行法の解釈が明確でないものなどは、各省庁の考えをオープンにしていただくような機会を設ける必要があると考えています。
【具体例】
- 遠隔診療、遠隔病理診断、処方箋交付、カルテの電子化(医師法、健康保険法)
- 遠隔教育(学校教育法)
- 遠隔証人尋問(刑事訴訟法)
- 在宅勤務(労働安全衛生法、労働基準法)
- テレビ会議による取締役会(商法) 等
- 電子商取引のための環境整備
以下は最近注目されている電子商取引を推進していく上で種々の環境を整備してほしいという要望です。これは単に法律・制度の問題に止まらず、民間の商慣行にも係わる問題であると思います。電子商取引は契約や決済などの面で通常の取引とどのように異なるのか。異なるとすれば、どのように対処していけば良いのか。そうした点について社会的なコンセンサスを作りながら、環境整備を図っていく必要があると思います。
すでに関係省庁がそれぞれの観点から検討を開始しつつありますが、経団連としては、民間の創意工夫が活かされる形で電子商取引が育っていくにはどうしたら良いのか考えていく必要があると思います。
【主な指摘事項】
- 各種標準化・相互運用性の確保
- 契約の成立時期、データの変更・撤回・無効・取消に関するルール作り
- 無権限者による取引の防止
- 電子決済の推進(電子マネーの実用化等)
- 事故・障害時の責任分担に関するルール作り
- 認証機能の確立(安全性・信頼性の確保等)
- 商品販売、サービス提供(医薬品販売、米販売、旅行業務等)に係わる規制緩和 等
- マルチメディア時代の知的財産権制度の確立
以下はデジタル化、ネットワーク化が進展する、いわゆるマルチメディア時代に相応しい知的財産権制度を確立する必要があるという指摘です。新しいアイデアを生み出すインセンティブとして著作権などきちんと保護していく一方で、それらの権利保護された技術やコンテンツの利用をどのように促進していくか、その間のバランスが必要であると思います。
【主な指摘事項】
- デジタル化、ネットワーク化の進展する中での著作権保護
- 著作権処理の効率化 等
- アンケート調査について
- 調査対象:
- 経団連会員企業・団体(995社、123団体)
- 調査期間:
- 3月下旬〜5月中旬
- 回答数:
- 198社、15団体(回答率:19.1%)
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