景気関連インフォメーション

2000年2月分


第158回 景気動向専門部会・議事概要( 2月 4日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 景況および財政情勢
    大蔵省 稲垣・調査企画課政策調整室長
    1. 「全国財務局長会議管内経済情勢報告概要」
       1月19日に実施された全国財務局長会議での、各財務局長からの「管内経済情勢報告」によると、経済の現状は、「いずれの地域においても厳しい状況を脱していないが、各種の政策効果などにより、緩やかに改善している」となっている。9月29日の前回の会議では、「やや改善」としていたので、1月は若干ではあるが判断を前進させた。
       各地域において、強弱はあるが、前回に比べ何がしかの改善が見られる。個人消費については、総じて見れば足踏み状態であるが、パソコン、デジタル家電や、一服感のある軽自動車に代わり普通自動車に動きが見られる地域もあり、いずれの地域においてもチラホラ明るい材料が出てきている。住宅建設は、政策効果により大都市圏中心に分譲マンションが好調であるが、一部地域では翳りも見られる。設備投資は、ほとんどの地域で前年比で減少しているが、東北、南九州は半導体関連投資の大幅増が寄与し、前年水準を上回っている。公共事業は若干息切れ気味で、着工、出来高ともに減少している。生産活動は、ほぼ全地域で、持ち直しの動きが見られ、前回よりかなり強くなっている。企業収益は、全地域で持ち直しており、99年度下期は増益を見込んでいる。雇用は、基本的には前回と同様の認識で、全地域で厳しい状況が続いている。消費者物価も、前回と同様の認識で、全地域で安定している。

    2. 「7ヶ国蔵相・中央銀行総裁会議声明」(2000年1月22日 於:東京)
       今回、初めて日本でG7が開催された。G7は通常、当該年のサミットの議長国で開催されるのが慣例だが、日本は欧米から遠いという事情もあり、日本での開催は見送られてきた。しかし、日本でサミットが開催される今年は、アジア経済が力をつけてきた要因も背景に、ルール通り日本で開催する運びとなった。
       前回開催時(99年9月)に比べ、世界経済をめぐる情勢は落ち着いて来ており、マクロ経済のサーベイランスの部分については比較的落ち着いた議論がなされた。去年の秋は、日本経済に対して、厳しい認識があったのに加え、マスコミを中心とした事前報道が活発で、当局サイドとしては苦労したが、今年は、為替水準をめぐって若干の思惑めいた報道もあったものの、議論は順調に進んだ。
       声明の第3項目では、世界経済については、好調な米国経済、欧州、アジアの景気回復、日本経済の底を打った状況を反映し、「主要な先進国経済と世界経済全体におけるインフレなき成長の見通しは改善されてきている」と述べている。そして、各地域の経済情勢を互いに点検し、「我々の経済の間におけるより均衡のとれた成長パターンを確かなものとすることは、引き続き課題となっている」と結んでいる。
       声明文の中の第4項目は、WTOシアトル会議の決裂を踏まえ、次期WTOラウンドの早期開始を求めている。
       第5項目では、各地域の経済について認識を示している。日本経済の認識についてはやや判断が上方修正された。現在の政策を続行し、確実に成長軌道に乗ることが期待されている。
       第6項目では、円高の潜在的な影響についての懸念が各国で共有されていることが再確認された。これを受け、G7後、円については円高修正の方向に振れた。しかし、ユーロについては懸念が表明されなかったこともあり、1ユーロ1ドルを割り込んだ。

    3. 「財政構造改革を進めるに当たっての基本的考え方」および「財政の中期展望」と「中期的な財政事情に関する仮定計算例」
       これらは、2月2日の予算委員会を皮切りに、国会での予算審議が始まるに当たって、大蔵省からの財政構造改革への考え方や財政の中期展望を示したものである。
       「基本的な考え方」の中で、2000年度の国民負担率が、36.9%程度と推計されることが示されている。国民負担率は、趨勢的には上昇傾向にあるが、大規模減税等の影響で、過去のピークである1990年度の39.2%から低下している。ただし、財政赤字を考慮した潜在的な国民負担率は49.2%程度となる。
       政府の財政構造改革を進めるに当たってのスタンスについては、「わが国経済の再生を図るとともに財政の健全化を図り、様々な政策要請に十分に対応できる財政構造を構築していく必要がある」という基本認識が示されている。ただし、「財政構造改革が避けて通れない課題であることは言うまでもない。これについては、その前提として、我が国経済が、民需中心の本格的な回復軌道に乗ることを確認することが必要であり、その上で、財政・税制の諸課題について、21世紀の我が国経済・社会のあるべき姿を展望し、速やかに検討を行ない、抜本的な措置を講じていかなければならない」としている。これは総理の施政方針演説や宮澤蔵相の財政演説でも述べられた。
       中期的な財政事情については、2種類の推計を行なっている。一つは、「財政の中期展望」で、一定の仮定のもと、一般歳出を後年度負担額推計に基づき推計したもので、現在の制度を前提とすればより現実的な推計である。もう一つは、「中期的な財政事情に関する仮定計算例」であり、2005年度までの財政事情について、一般歳出の伸びを機械的に(0%、1%、2%の3ケース)置いてみて、試算したものである。両者とも、名目成長率が3.5%の場合と1.75%のそれぞれの場合につき試算した。
       この推計結果で特徴的なのは、一般歳出のうち、社会保障関係費が2002、2003年度と4%台の高い伸びとなっているが、一般歳出費総額は、2%程度と比較的緩やかな伸びとなっている点である。このような一般歳出の伸びを前提にしても、3.5%成長のケースで見て、公債残高は2000年度末の364兆円(対GDP比73.0%)から、2003年度末には448兆円(対GDP比80.9%)となる見込みである。
       金利を名目成長率に応じて想定しているため、名目成長率を1.75%に想定した場合の2003年度末の公債残高は444兆円となり、経済成長率の低い方が、利払いが少なく、累積の残高が少なという結果になる。ただ、この場合、公債残高GDP比率は84.5%と3.5%のケースより上昇する結果となり、やはり、経済成長率が高い時の方が、負担能力は高いと言えるだろう。現下のゼロ金利政策、金余り状況の下では、金利ファクターが重しになっていないが、経済成長が順調な回復軌道に乗ってくれば、金利の上昇が、今後の予算編成や財政運営にもかなりの重しになってくるであろう。80年代のレーガノミックスの例を見ても分かるように、経済成長が元に戻っても、財政赤字が自然に解消される構造にはなっていないという当たり前の結果が示されている。
       仮定計算例の方では、社会保障関係費等自然に伸びる費用を抱えて一般歳出の伸びをゼロにするという、かなり困難なケースでも、30兆円以上の国債発行が必要であるという結果が示されており、いずれにしても今後の財政運営の厳しさが示される結果となっている。

  2. 最近の雇用動向について
    労働省 山田・労働経済課長
    1. 99年の動向
       99年の完全失業率は4.7%となった。97年は3.4%、98年は4.1%であり、失業率は毎年大幅に上昇している。一方、99年の米国の失業率は4.2%であるので、初めて日本の失業率が米国を上回った。
       非自発的離職者は、98年の31万人増から99年は17万人増と、増加幅は減少している。自発的、あるいは家庭から新たに発生するその他の失業者の増加が止まらない状況にあるが、非自発的離職者の増勢は鈍化している。
       また、最近の動きとして注目されるのは、若年層の失業者は増加していることがある。15〜24歳男子の失業者は42万人にのぼるが、このうち、非自発的失業者は6万人、自発的失業者は14万人となっており、自発的失業者によるものが多い。景気の悪化に伴う雇用需要側の要因もあるが、供給側の意識変化もある。若年失業への対応が今後の大きな課題になると考える。
       99年の雇用者は、37万人減少し、2年連続の減少となった。うち、常用雇用者は60万人減ったが、臨時雇用者は22万人増えた。98年も同様の傾向にあったが、過去に例のない現象である。これは、企業の雇用のポートフォリオが変わってきていることが背景にあるのではないか。先行き不透明な状況下、マンパワーが必要な時は、非正規の人材で補充する傾向が強くなってきていると言える。ただし、常用雇用者を減らすのと同時に臨時雇用者を増やしている企業は少ない。雇用を減らしている企業は常用雇用者も臨時雇用者も両方減らし、雇用を増やしている企業は、常用雇用者の増加をできる限り抑えながら臨時雇用者を増やしているという構図になっている。
       産業別では、「卸・小売業、飲食店」、「サービス業」は97年、98年と雇用の受け皿になったが、99年は、「サービス業」の雇用者の増加が2万人にとどまるなど、これらの業種においては雇用者の増勢が鈍化した。
       所定外労働時間は、98年は大幅に減少したものが、99年は生産活動の活発化に伴い、0.9%増加した。
       賃金は、98年に史上初めて減少したが、99年も引き続き減少した。特に、特別給与が98年5.0%減、99年6.2%減と下げ幅が拡大している。しかし、ボーナスは99年夏がボトムであり、99年冬はマイナス幅が小さくなっている。さらに、今後企業の収益の改善も考えると、ボーナスは2000年度には若干の改善が期待できると見ている。

    2. 99年12月の動向
       99年12月の失業率は、4.6%と前月から0.1%上昇した。有効求人倍率は、0.49倍と前月から横這いとなった。失業率に関しては、上昇したが、基調に変化はなく、あくまで振れの範囲内の動きと捉えている。
       最近の雇用の動きで特徴的なのは、9、10、11月と3ヶ月連続で前年水準を上回っていた建設業の雇用者が、前年比33万人減となった点である。公共事業息切れの影響が出始めていると見ている。一方、12月の「卸・小売業、飲食店」、「サービス業」の雇用者は前年に比べてそれぞれ31万人、22万人増加しており、持ち直し傾向にある。特にサービス業の増加はかなり実勢を示していると見ている。サービス業の新規求人は、前年比増が続いており、今後も底固く推移することが見込みまれる。

    3. 今後の見通し
       今後の懸念材料は、学卒の就職問題である。99年の2月から3月の失業率の推移を見ると、2月の4.6%から3月は4.8%と上昇した。これは学卒未就職者が2月時点では13万人だったのが、3月には30万人に増加したことが大きな要因になっている。労働力調査は、月末1週間の状況を対象に行われるので、学卒者の動向は、3月の数字に反映される。したがって、今年3月の失業率に注目している。

  3. 最近の経済金融情勢について
    日本銀行 吉田・経済調査課シニアエコノミスト
    1. 景況
       1月の金融経済月報の判断は、「わが国の景気は、足許、輸出や生産を中心に、下げ止まりから持ち直しに転じている。こうしたもとで、企業収益の回復が続くなど、民間需要を巡る環境は、徐々に改善しつつある。もっとも、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」としており、12月から変更はない。
       最終需要項目では、公共投資、設備投資は、前月から大きな変化はない。

    2. 住宅
       住宅はここに来て、頭打ち傾向が強まっている。内訳をみると分譲の着工は堅調だが、一方で貸家の着工は10〜12月期前年比9.4%減と最近減少が目立っている。これは、分譲マンションの低価格化が進んだことで、賃貸マンションからの住み替えが増え、賃貸マンションの家賃が下落し、新規着工も落ちているという事情が背景にあるようだ。

    3. 個人消費
       家計調査によると、12月の勤労者世帯の消費水準指数が、前月比、前年比ともに約5%の大幅な減少を示した。中味を見てみると、消費性向が落ちたわけではなく、可処分所得が前年比で5%以上減少したことが響いたようだ。しかし、その一方で、毎月勤労統計調査によると現金給与総額の下げ幅は、前年比で1.6%程度と、明らかに家計調査よりも小さく、家計調査の結果についてはサンプル・バイアスによる振れの部分がかなりある可能性も排除できない。
       12月の量販店売上は、2000年問題を背景にミネラル・ウォーターや石油ストーブなどが売れたと言われていた割には、予想外の不振に終わった。このため、家計調査と量販店の販売実績からみて、歳末商戦は盛り上がらず、消費はかなり弱かったとの見方がある。しかし、実際に起きたことはもう少し複雑だったのではないかとの見方もできるように思う。この点については、輸入のところで改めて申し上げたい。

    4. 輸出
       10〜12月期の実質輸出は、前期比0.2%増と伸びが鈍化した。これは、電子部品等で国内顧客が在庫の確保に動いたことが影響し、フル操業を続けるメーカーが、輸出を一時的に絞らざるを得なかったことによるものであり、基調的な変化が生じたわけではない。

    5. 生産
       生産は、10〜12月期前期比0.8%増と伸びが若干鈍ったが、これは、パソコンや、携帯電話などが新製品の生産開始前の端境期に当ったためである。生産予測調査によると、生産は1〜3月期かなり伸びる見込みとなっており、増加基調に変化はない。ただ、2月の生産見通し0.6%増については、閏年要因も含まれている点に留意する必要がある。

    6. 輸入
       実質輸入は、7〜9月期が前期比3.9%増、10〜12月期が同14.7%増と激増している。国内の景気については、伸びが0から僅かながらプラスといった感覚しかないのに、なぜ輸入が増えているのか不思議である。製品輸入比率が60%を超えていることから、生産の伸びに連動した原材料の伸びで説明することもできず、消費財の輸入数量がかなり伸びていると考えざるをえない。
       そこで、CPIで実質化した消費の動きと、輸入物価指数で実質化した輸入の動きを見比べると、特に衣料品でその乖離が拡大していることがわかる。輸入の情報関連商品については、若者層のパソコン購入の実勢が家計調査に反映されにくいといった点がよく指摘されるが、衣料品の輸入が大幅に増加する一方で、なぜ家計調査や量販店の販売統計にそうした動きが現れないのか不思議である。
       敢えて仮説を考えてみると、第1に、単純ではあるが、輸入したものが売れず、流通在庫として溜まっていることが考えられる。しかし、商業販売統計の月末商品在庫率を見るかぎり、そのような傾向は窺えないし、流通業界からもそのような悲鳴は聞かれない。第2は、両統計のカバーする範囲が違うとする考え方である。通関統計は全ての輸入品を捕捉しているが、販売統計は特定業態に関する調査であるし、家計調査はサンプル調査で単身世帯が入っていないなど調査対象が限定的である。輸入品は、カテゴリー・キラーと呼ばれる新しい流通業態を通して販売され、家計調査の対象外の層により購入されたと考えれば辻褄は合う。第3の仮説は、デフレータに問題があるという考え方である。輸入は、日銀の輸入物価指数を使用して実質化している。一方、家計調査は、消費者物価指数を使用している。輸入物価指数では、中国からの輸入衣料品は前年比で1割弱下落しているのに対し、12月の全国消費者物価指数の衣料品は前年比0.4%しか下落していない。消費者物価にバイアスがあると断定こそできないが、昨夏来の円高による値下がりが十分に補足できていないことも十分考えられる。無論、今冬は衣料品の売れ筋がウールから合繊に移っている点が、衣料品の販売単価を押し下げている面もあり、この点は物価指数の責任ではないので、割り引いてみないといけない。
       仮にデフレータがおかしいということになると、実質で見た消費はもっと伸びていたことになるが、そうすると今度は、物価が下落しているのはデフレではないかという疑問が当然でてくる。この点、確かに物価指数の下落という点だけに着目すれば、「定義によりデフレ」との見方もできる。しかし、物価下落がどういう性格のものか、という点にまで踏み込んで考えると、事はそう単純ではない。まず、衣料品の単価下落が円高によるものだとすると、これは消費者にとっては「円高差益が早期に還元された」という意味で大きなメリットであり、実質所得の増加によって他の消費を増やす余裕が生じたことになる。他方、流通業界から見ると、販売している商品の価格下落は売上高の減少を招く。マージン率一定の下では収益が確実に圧迫され、それが更なるリストラを誘発するかもしれない。
       さらに、状況を複雑にしているのが、カテゴリー・キラー等の流通新業態の動きである。彼らは、流通を介さずに製造と販売を直結することや、効率的な在庫管理技術によって売れ筋商品のみを大量に売り捌くというノウハウを持っている。このため、既存の業態よりも安価で商品を販売しても、なお高い利益率が維持できるのである。すなわち、これは、流通業界において大きなイノベーションが起きているということに他ならない。そうした新業態は、新規出店に意欲的であり、設備投資と雇用創出の両面で経済にプラスに寄与している。他方で、旧来型の商売を続ける既存業態は、シェアを奪われ、店舗の縮小や、雇用・賃金の抑制を余儀なくされることになる。このように、円高の影響に加え、流通業界の新陳代謝という構造変化が起きる中で物価が下落するようなケースでは、トータルとして景気に対するプラス方向の作用が勝っているのか、マイナス方向の作用が勝っているのかの判断は非常に難しい、というのが偽らざるところである。

    質問
    日銀がインフレ・ターゲットを研究するという新聞報道があったが、これについてはどうか。

    吉田 日本銀行シニアエコノミスト
    報道の真偽について確認する立場にはないので、直接申しげることは何もない。ただ、一般論として言えば、「インフレ・ターゲット」という言葉が一人歩きしてしまう前に、それが何を意味するかという点について、関係者が認識を共有しておかないと、無用な誤解や混乱を招くのではないかと心配している。例えば、
    1. インフレとは、物価指数でみたインフレのことなのか、それとも株価や地価等の資産インフレのことなのか、
    2. 仮に特定のインフレ率を念頭に置くとしても、それは比較的高いインフレ率を狙う「調整インフレ」的なものなのか、あるいは、海外に見られるようにゼロに近いインフレを目指すものなのか、
    3. 一口にターゲットといっても、それは、毎月毎月のインフレ率が一定範囲内に収まるよう、なりふり構わず目的達成に向けて努力するといった杓子定規なものなのか、あるいは、中長期的な努力目標的性格のものとして、それを軸に中央銀行と世間のコミュニケーションをより円滑化していくことを主眼とするものなのか、
    等々によって、「インフレ・ターゲット」という言葉の意味するところは大きく変わってくる。また、金融政策は効果が現れるまでにタイムラグがあるため、過去の数字をみて行動したのでは手遅れになるという点を挙げて、足許のインフレ率よりも中央銀行自身によるインフレの先行き見通しを重視した方がよいとの考え方もある。従って、「インフレ・ターゲット」論者の皆さんは、まずそれぞれの旗幟を鮮明にしたうえで議論に参加することが生産的ではないかと思う。

(文責・経済政策グループ)


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