景気関連インフォメーション

2000年5月分


第161回 景気動向専門部会・議事概要( 5月 9日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 鉱工業生産指数(2000年3月分)について
    通産省 陣山・統計解析課長
    1. 生産
    2. 生産は前月比1.0%減と3ヵ月ぶりに減少したが、これは主として閏年要因に基づく反動減の影響による。前年比では4.7%増となっている。
      業種別には、輸送機械工業、一般機械工業、窯業・土石製品工業が減少した。輸送機械では、鉄道車両、鋼船の生産減の寄与が大きかった。鉄道車両は、例年の年度末に比べ、今年度は生産が増えなかった。鋼船の生産減は2月の生産増の反動減である。一般機械では、蒸気タービン部品、半導体製造装置の生産減の寄与が大きかった。蒸気タービン部品の生産減は、2月に国内電力会社向けの生産が増加した反動減である。半導体製造装置の生産も2月の生産増の反動で減少した。窯業・土石製品工業ではセメント、板ガラスの生産減の寄与が大きかった。セメントは閏年要因と生産調整で、板ガラスは生産工程における色替えの頻度高まりで、それぞれ生産が減少した。
      四半期別には、1〜3月期は3期連続で前期比、前年比とも増加した。99年度は前年度比3.2%増となった。

    3. 出荷
    4. 3月の出荷は、前月比0.7%減、前年比は4.7%増となった。
      業種別には、輸送機械工業、化学工業(除.医薬品)が減少した。輸送機械では、普通乗用車が輸出の船積み待ちの影響で減少した。化学(除.医薬品)では、スチレンモノマーが定修で減少した。
      1〜3月期は、前期比3.0%増と3期連続で増加した。99年度は3.4%増となった。

    5. 在庫
    6. 3月の在庫は、前月比0.7%増、前年比2.7%減となった。業種別では、電気機械工業、輸送機械工業、化学工業(除.医薬品)の在庫が増加した。電気機械では、アクティブ型液晶素子、モス型半導体集積回路等の在庫が積極的に積み増しされている。輸送機械では普通乗用車、小型乗用車の船積み待ち在庫が増えた。
      1〜3月期末の在庫は前期比1.8%増、前年比2.7%減となった。99年度末在庫は、前年度末比2.7%減となった。

    7. 製造工業予測調査
    8. 製造工業予測調査によると、4月の生産は前月比1.0%減、5月は同1.3%増となっている。4月は電気機械工業、輸送機械工業、化学工業(除.医薬品)が減少する見込みである。5月は、電気機械工業、化学工業((除.医薬品)、その他工業が増加の見込みである。3月の実現率、4月の予測修正率はともに、上方修正された。

    9. 基調判断
    10. 3月の生産減は閏年要因により2月の生産水準が高かったことによること、前年比は増加していること、ならして見ると緩やかに上昇基調にあること等から、生産は緩やかな上昇傾向にあるとの判断を変更していない。

  2. 最近の雇用動向について
    労働省 山田・労働経済課長
    1. 失業率の推移
    2. 3月の失業率は、4.9%と前月比横ばいとなったが、小数点第2位まで見ると、2月は4.85%、3月は4.92%となっている。3月は5%に達するのではと心配していたが、何とか踏みとどまった。ただし、男女別に見ると、男性は5.2%と史上最高を記録した。女性は4.6%となった。
      2月は、非自発的失業者が増え、昨今の状勢からは考えにくい動きを示したが、3月は自発的失業者が前年比11万人増となった一方、非自発的失業者が同2万人減となった。男子では、15〜24歳の若年層の失業率が12.5%と高く、自発的失業者の増加が大きい。3月の結果及びこれまでの推移からみて、2月の数字は若干イレギュラーなものではなかったかと見ている。
      四半期別に見ると、失業率は99年4〜6月期4.7%、7〜9月期4.7%、10〜12月期4.6%、2000年1〜3月期4.8%となっており、10〜12月期に若干下がった後再び上昇した。一方、企業からの離職のフローの動きを示す雇用保険受給資格決定件数は前年比減が続いている。以上のことは、企業から人が排出される動きは再燃していないものの、失業から就業に結びつかず、滞留期間が長引いていることを示している。

    3. ミスマッチの顕在化
    4. 一方で新規求人数は、3月、前年比9.8%増と強くなってきている。製造業が同13.2%増、うち電子が42.3%増となっている。サービス産業も同19.3%増となっており、うち情報サービスが同28.1%増、医療・福祉サービスが同24.4%増となっている。以上のようにIT、介護・福祉サービスでの雇用需要増が顕著になっている。
      しかしながら、雇用者数は、10〜12月期が前年比21万人減、1〜3月期が同22万人減となっている。昨年10〜12月期までは、前年比ベースの下げ幅は縮小してきたのだが、このところ足踏みしている。
      このように、雇用需要は旺盛だが実現される雇用者数は足踏み状態にあり、雇用のミスマッチの様相を呈している。

    5. 今後の見通し
    6. 今後、経済全体は明るい方向に向かうので、いずれは雇用需要の増加に引っ張られ、雇用自体も増加に向かうと思われる。一方で、若者の就業意識の変化、年齢のミスマッチ等による構造的摩擦的失業が、諸々の雇用対策にも関わらずすう勢的にじりじりと上昇している。今後、景気要因に基づく雇用需要増と、構造的要因に基づく失業の増加要因とが、綱引きする状況が予想され、今後、失業率が5%台に乗るかどうかという議論についても、そうした両面をみていく必要がある。

    7. 賃金の動向
    8. 3月の賃金の動向を見ると、特別給与が前年比24.5%減と大幅に減少したが、これは公務員の年度末手当の大幅減によるものである。所定内給与は、1月以降前年比増が続いているが、サンプル変え要因の影響が大きいと省内では見ている。

  3. 最近の経済金融情勢について
    日本銀行 吉田・経済調査課シニアエコノミスト
    1. 景気判断
    2. 4月の金融経済月報では景気判断を、3月から前進させた。具体的には、景気について「持ち直しに転じている」を「持ち直しの動きが明確化している」に、民間需要について「自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」を 「設備投資が緩やかながら増加に転じるなど、一部に回復の動きがみられ始めている」に修正した。

    3. 設備投資
    4. 設備投資が増加に転じていると判断した根拠は以下の3点である。

      1. 季節調整をかけると、法人企業統計季報の設備投資額は99年7〜9月期以降わずかではあるが増加に転じている。
      2. 機械受注、建築着工床面積等の設備投資関連指標が明らかに増加している。
      3. 日本政策投資銀行を始めとする各種設備投資調査、日銀短観を見ると、2000年度の設備投資計画は、大企業製造業では、エレクトロニクス関連に牽引され前年度比プラスが確実な情勢である。電力や通信大手の投資抑制もあるため、大企業非製造業にはそれほど期待できないが、中小企業の2000年度設備投資計画は、この時点の計画としてはマイナス幅が過去平均と比べかなり小さく、2000年度の最終的な仕上がりとしてはプラス圏を展望できる情勢にある。ただ、経済の二極化が進むなかで、設備投資計画は業種・企業により斑模様を呈しているのも事実であり、今後の設備投資の広がりや持続性については、なお注意深くみていく必要があろう。

    5. 個人消費
    6. 個人消費を取り巻く所得環境としては、雇用者数と賃金の動向が重要である。

      1. 雇用者数に関する労働省の説明については、「雇用は良くなるとは断定できないが、これ以上悪くなることはない」と解釈してよいのではなかろうか。
      2. 賃金は定例給与が下げ止まり、所定外給与は生産活動の回復に伴い増加に転じている。ボーナスも最悪期は過ぎたとみられ、今後これがいつどの程度プラスに転じるかが鍵である。夏のボーナスは、多くの大企業ではすでに決着済みとみられるが、中小企業を含めた全体像については、まだ見えてこない。
      なお、各種アンケート調査によると、消費マインドはこのところ改善してきており、金融ショック前の水準に戻している。しかし、これが消費性向の上昇という形で個人消費の回復に寄与しているのかどうかははっきりしない。今後そうなる可能性はあるが、消費性向の上昇を個人消費の回復シナリオの前提におくことは避けておいた方がよいと考えている。

    7. その他の項目
    8. 輸出は昨年末頭打ちとなったが、1〜3月期は再び増勢を取り戻した。補正予算執行の影響で、3月の公共工事請負金額は急増した。住宅投資は、基調としては減少傾向にあると見ている。3月の新設住宅着工件数が持ち直したのは、住宅金融公庫融資申込み件数の減少に伴い、設計審査の進捗率が高まったためであり、あくまで一時的なものと見ている。

    9. 株価
    10. 先月米国株価が一次大幅に下げたが、さらなる下落には繋がらなかった。その後日本株については、日経平均でみると戻りが鈍いようにみえるが、これは銘柄入替の影響によるものである。そうした影響のないTOPIXでみれば日本の株価が海外に比べ弱いということではない。

    11. 金利
    12. 政府や日銀の景気判断が前進する中で、長期金利は、昨年来1.7〜1.9%のボックス圏内で推移しており、両者の関係をどう整理するかという点は難しい。1つの仮説として、債券市場関係者が「日本の潜在成長率は相当低く、インフレも来ない」とみているとすれば、実質金利、名目金利ともに将来そう上昇しないので、1.7〜1.9%の水準で「買い」は妥当との見方ができるのかもしれない。しかし、本当にそういう理解でよいのかどうかはわからず、実体経済と金融市場の認識の間にギャップが生じているとの見方も捨てきれない。


(文責・経団連 経済本部)


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