景気関連インフォメーション

2000年7月分


第163回 景気動向専門部会・議事概要( 7月10日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. サミット蔵相会合について
    大蔵省 武内・総合政策課企画官
  2. 7月8日に福岡で行われたサミット蔵相会合について報告する。本会合は、7月21〜23日に開催される九州・沖縄サミットの準備の一環として開催されたものである。G7と異なり、中央銀行総裁は出席せず、日本からは宮澤蔵相と黒田財務官が出席した。また、ロシアに関する議論に際しては、ロシアのクドリン副首相兼大蔵大臣が出席した。
    本会合では、蔵相から首相に報告が予定されている、

    1. IT革命の金融・経済への影響、
    2. 国際金融アーキテクチャーの強化、
    3. 国際金融システムの悪用・濫用に対する行動、
    4. 貧困削減と経済開発、
    の4つのテーマについて議論が行われた。この他、世界経済とロシア経済に関する議論が行われた。

    1. 世界経済・ロシア経済について
    2. 世界経済の見通しは良好という基本的な認識で一致した。さらに、この見通しを実現し、力強い成長を中期的に持続させるためには、健全なマクロ経済政策と構造政策を実施していくことが引き続き重要であるという点で認識の一致を見た。
      ロシア経済については、昨年来のロシア経済の更なる改善を歓迎するとともに、ロシアがその高い経済的・潜在的成長力を活かして経済構造改革の実施を積極的に継続し、マクロ経済の安定化と成長を達成することの必要性が強調された。また、ロシアが構造改革に焦点を当てた強力な経済プログラムを実施するにあたっては、ロシア当局が、まずはIMFと合意に達することが重要であることが出席者の間で確認された。

    3. IT革命の金融・経済への影響
    4. IT革命のマクロ経済面への影響と、政策にもたらす意義、及び、金融取引や税制に関連する問題について議論が行われた。

    5. 国際金融アーキテクチャーの強化
    6. 昨年のケルンサミットへの報告書が蔵相から出ているが、それ以来、様々な方策が実施されてきた。本会合では、改革プログラムをさらに進展させる方策について、議論が行われた。

    7. 国際金融システムの悪用・濫用に対する行動
    8. グローバル化した金融システムは、資金の高い流動性を特徴としているが、ここで重大な懸念となっている金融犯罪等について、これまで取られてきた措置について検討し、将来の課題について議論が行われた。国際的な資金洗浄(マネーロンダリング)対策に後ろ向きであると特定された国・地域については、自国の金融機関に特別の注意を払うよう、各国当局が協調して要請することを盛り込んだプレスリリースが出された。

    9. 貧困削減・経済開発
    10. 開発途上国も、グローバリゼーションの恩恵を受け、持続的な貧困削減と経済発展を達成することの重要性が再確認された。拡充された重債務貧困国イニシアティブの実施の進捗状況を検討するとともに、引き続き迅速かつ効果的な実施の促進を図ることの必要性について確認された。

    11. 日本経済について
    12. ワーキングランチの際に、日本経済については宮澤蔵相より説明があった。また、米国のサマーズ長官から米国経済・世界経済について、フランスのファビウス蔵相から欧州経済について説明があった。宮澤蔵相からは、日本経済は2000年の1〜3月期には高い成長を達成し、日銀短観を見ても企業活動がよくなっていることが窺えるが、これが消費活動に結びついているかどうかはまだ不確定なところが残っていること、各種指標を見ていると経済はよくなっているが、もし、4〜6月期の数字が予想に反して悪ければ、景気の刺激が必要かもしれないこと、ITについては日本でも火がついてきているので、今後の日本経済の成長の原動力になりそうであることについて説明があった。なお、各国から日本経済に関しての質問は特になかった。

  3. 最近の雇用動向について
    労働省 山田・労働経済課長
    1. 最近の動向
    2. 先月の会合で、雇用問題も峠を越えたと指摘したが、5月の雇用関係の統計数値もその認識の延長線上にある。 失業率は、3月4.9%、4月4.8%、5月4.6%と低下が続いている。有効求人倍率も5月は0.56倍と横ばいだったものの悪化はしなかった。特に、5月の新規求人数は堅調であり、企業の求人意欲はしっかりとした動きを示している。なお、失業の中身を見ると、非自発的離職者数は、3月、4月、5月と前年に比べて減少しており、長期的なスパンで見ても、徐々に少なくなってきている。これは、企業からの掃き出し的な失業が落ち着いてきたことを示している。
      これに対して、雇用の動きは、今まで求人の動きに追いついていなかったが、5月は雇用者数が前年差32万人増と久しぶりに増加した。また、今まで臨時雇用者が増加する一方で、常用雇用者は減少していたが、5月は常用雇用者数も僅かながらであるが、増加した。このように雇用も良くなってきているとも見られるが、労働力調査は振れが大きく、単月での判断はリスクが大きいので、予断は許さない。

    3. 今後の見通し
    4. 企業の雇用需要はかなり本格化しているが、雇用の足取りは、5月に若干改善したものの、依然として重い。今後、求人の動きと雇用の動きの乖離が縮小し、雇用がいつ改善に向かうかが課題である。新規学卒の雇用はここ2年減少が続いていたが、来春は若干増加する見込みであるとの調査結果もあり、今後企業の雇用需要が実際の雇用にどう結びつくか、注視する必要がある。

    5. 賃金
    6. 日経新聞の調査によると、この夏のボーナスは久しぶりに前年比増となるとのことであるが、これは企業の収益環境の改善を反映している。所定外労働時間の増加に対応し、所定外給与も伸びている。所定内給与については正確な判断はできないが、所得環境は99年の夏を底に少しづつよくなり始めていると言える。このような給与の動きが今後の消費動向にどう結びついていくかが一つの鍵である。

  4. 最近の経済金融情勢について
    日本銀行 吉田・経済調査課シニアエコノミスト
    1. 景気判断
    2. 6月の金融経済月報では、「わが国の景気は、持ち直しの動きが明確化している。民間需要面でも、設備投資の増加が続くなど、一部に回復の動きがみられる。」とした。5月の月報では「緩やかな設備投資の増加」としていたが、「緩やかな」を削除することにより、景気判断を僅かながら前進させた。

    3. 短観(6月)
    4. 今回の回答率は95.2%、中でも大企業は97.3%と高い回答率となっており、この場を借りてお礼を申し上げる。なお、事業計画の前提となっている為替レートは、2000年度通期で104.09円となっており3月短観に比べ若干円高となった。また、年度下期が103.87円と下期をやや円高においている。

      1. 業況判断
        業況判断は、製造業/非製造業、大企業/中小企業のいわゆる「4区分」のすべてにおいて改善しており、先行きも改善を見込んでいる。特に大企業製造業は、+12%ポイントと足許の改善が顕著である。
        業況判断の水準を見ると、大企業製造業は、+3%ポイントとなり97年9月短観の+8%ポイント以来のプラスとなった。一方で、2000年度の大企業製造業の売上高経常利益率は4.26%の見込みである。業況判断は、売上高経常利益率に相似して動く傾向にあったが、近年の企業経営はフローで見た売上高経常利益率のみならず総資産対比のROE、ROA等も重視しつつあるので、この傾向が続くかどうか注目していた。しかし、今回も「売上高経常利益率が4.0%を超えると業況判断がプラスになる」という経験則が大企業製造業には、あてはまった。
        大企業製造業の堅調さは、3月短観から6月短観にかけて、「良い」との回答が13%から19%に増加したことにも表れている。
        全般的に、製造業の方が非製造業より業況判断の改善が顕著である。特に電気機械、精密機械、一般機械、非鉄金属等が堅調で、IT関連のハードウェア及びその部品メーカの改善が著しい。中小企業でも同様の傾向がある。

      2. 売上・収益計画
        99年度は大企業製造業、中堅企業製造業が増収となった以外は減収となった。2000年度は押し並べて増収に転じる計画になっている。99年度の売上高の修正率を見ると、大企業製造業は、特に輸出を中心に上方修正されているのに加え、2000年度計画も上方修正されており、力強さを示している。
        経常利益は、リストラの効果で99年度は全般に増益となった。2000年度も増益の計画となっているが、ここでも非製造業に比べ、製造業の伸びが高い。

      3. 設備投資計画
        設備投資計画は、99年度全規模全産業で9.2%減となった。2000年度は、大企業では、製造業が11.3%増、非製造業が0.7%増、全産業が4.6%増となっている。
        中小企業の設備投資計画は、年度の前半段階の調査では減少の計画となる統計上の癖がある。これは、計画が未定の会社が設備投資計画をゼロとして回答するからである。今回調査では、中小企業の2000年度計画は、製造業が1.7%減、非製造業が9.4%減、全産業が7.6%減となっているが、過去の6月調査結果の平均値は、製造業が15.6%減、非製造業が12.9%減、全産業が13.2%減となっており、これと比べると、今回の調査結果はかなり強いと言える。
        なお、中小企業の2000年度の設備投資が予想に反して弱いとの指摘がある。前年比の数字はそのように見えるかも知れないが、同時に99年度実績が、3月調査に比べ大幅に上方修正されている点にも着目する必要がある。今回の修正率は製造業5.0%、非製造業11.8%、全産業10.1%と、過去の修正率の平均(製造業2.1%、非製造業2.5%、全産業2.3%)に比べてかなり大きい。年度末の土壇場で設備投資が上積みされ、次年度への「発射台」が高くなったことで、2000年度の伸び率が低めに出たということであろう。
        大企業の海外設備投資計画は2000年度6.6%増となっている。ただし、海外設備投資比率は、99年度26.04%から2000年度は25.21%と低下した。ここに来て、設備投資は国内に軸足を置いたものへと変わってきている。
        金融機関の設備投資計画は2000年度19.4%増となっている。これが実現すれば3年ぶりの増加であり、銀行では、90年度以来10年ぶりの増加となる。

      4. 雇用
        雇用は全般的に改善しているが、中小企業は製造業、非製造業とも足元悪化している。季節的要因の影響かもしれないが、売上・収益の見通しをみても、全体的に中小企業非製造業の回復の弱さが目につく。

    5. その他
    6. 予測指数をもとに推計すると、生産は、4〜6月期が前期比1.4%増、7〜9月期は同1.4%増となり、増加基調は維持されている。ここでもIT関連のデバイス生産が全体を牽引している。
      住宅着工戸数は、1〜3月期に住宅金融公庫融資の募集のタイミングが重なり、着工が集中、年率127万戸と増加した。4〜6月期は反動減を予測していたが、下げ幅は意外に小さかった。これは、公的資金を使わない住宅建設が増えているからと思われる。これらは平均面積が拡大傾向にあり、年配の世代が、親子2世帯住宅への建替えをしているためと見られる。この民間資金分による住宅着工戸数の動きは、消費マインドの動きとよく一致している。ただし、今後も民間資金分の住宅着工が増え続けるかどうかは定かではない。
      また、ここに来て自動車の高級車が売れ始めている。住宅と同様、値嵩の耐久財の消費に変化が起きているのかもしれない。

    7. 日銀の金融政策決定のプロセス
    8. 7月17日の金融政策決定会合を控えて、日銀が金融政策を変更するとの観測がある。ところで、半年ほど前に、新聞報道で決定会合の前に金融政策が決まったかのような報道がなされたが、金融政策の決定は、決定会合での委員の投票で決まるのであり、「決定会合以前に方針が決まっている」というようなことは一切ない。それゆえ、仮にその種の報道があっても誤解されないようお願いしたい。
      また、9名の審議委員のうち、総裁と副総裁の3名を除く6名の委員はパートタイムであるとの誤解をしている人が今でも一部にいるようだが、6名の審議委員は常勤であり、日銀に毎日出勤している。どの委員も、それぞれの見識と判断で毎日真剣に金融政策を考えておられる、ということをこの場を借りて改めて申し上げたい。


(文責・経団連 経済本部)


お知らせ

経団連の景気動向専門部会(部会長:角田経済本部長)は、2000年7月をもって、廃止いたしました。
なお、景気動向に関しては、今秋を目途に、経済情勢専門部会(部会長:角田経済本部長)を発足させる予定です。


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