景気関連インフォメーション

1996年9月分


  1. 最近の注目指標のポイント
    〜日銀短観(96年8月調査)〜
    1. 業況判断:
    2. 主要企業・製造業は、前回調査時の予測に反し、1年ぶりに前回調査より悪化した。主要企業・非製造業ならびに中小企業も、前回調査時点の予測を下回った。

      業況判断=「良い」−「悪い」、( )内は前回5月調査時点の予測
      95/895/1196/296/596/896/12

      製造業▲18▲14▲12▲ 3▲ 7(  0)  0
      素材▲21▲19▲15▲ 6▲13(▲ 2)▲ 6
      加工▲15▲10▲10▲ 1  0(  1)  7
      非製造業▲28▲22▲18▲ 9▲ 4(▲ 3)▲ 3

      製造業▲30▲30▲25▲19▲17(▲14)▲11
      非製造業▲19▲17▲13▲ 6▲ 7(▲ 4)▲ 5

    3. 設備投資:
    4. 主要企業、中小企業ともに前回調査に比べ上方修正された。

      前年度比、%
      93年度94年度95年度96年度計画
      5月調査段階



      全 産 業▲11.3▲ 8.3  1.2  6.6  6.0
      製 造 業▲20.6▲13.3  7.8  7.6  6.7
      非製造業▲ 6.2▲ 6.0▲ 1.6  6.2  5.7



      全 産 業▲17.7▲ 3.8▲ 7.1▲ 5.6▲10.8
      製 造 業▲24.4▲ 6.0▲ 4.1▲ 6.8▲10.9
      非製造業▲14.5▲ 2.9▲ 8.3▲ 5.0▲10.8

  2. 第120回景気動向専門部会の概要(9月2日開催)
    1. 安原経済企画庁課長
    2.  6月の景気動向指数(速報値)は、先行指数が70%と3ヵ月連続して50%を越え、一致指数も55%と4ヵ月ぶりに50%を上回った。遅行指数は42.9%と3ヵ月連続で50%を下回った。
       一致指数では、採用系列11指標のうち、4指標が生産関連の指標(生産指数(鉱工業)、原材料消費指数(製造業)、大口電力使用量、稼働率指数(製造業))である。一致指数が3月から3ヵ月連続で50%を下回ったのは、上記4指標全てが3〜5月に3ヵ月前と比較してマイナスとなったことが大きな要因であった。これはカレンダー要因(2月の閏年、3月の稼働日数の減など)の影響によるものであり、生産指標の動向について緩やかな回復基調にあるとの見方は変えていない。
       6月の一致指数は、上記4指標のうち、生産指数(鉱工業生産)、大口電力使用量がプラスに転じ、原材料消費指数(製造業)が横ばいとなったことから、50%を上回った(10指標のうち、プラス:5、横ばい:1、マイナス:4)。 先行指数は、3月に一時的に50%を割ったものの、4月以降3ヵ月連続で50%を上回っている。
       以上から、景気動向指数は景気回復を示しており、景気回復基調に変化はないとみている。最近の経済指標を前提にすると、7月の先行指数、一致指数ともに50%を上回ると予想される。
       具体的には、一致指数では、生産指数(鉱工業生産)、大口電力使用量、所定外労働時間指数(製造業)、投資財出荷指数(除輸送機械)、有効求人倍率(除学卒)の5指標が実績でプラスとなっている。また、生産の動向から他のいくつかの指標がプラスになる可能性も高く、その結果、50%を上回るであろう。先行指数では、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、新規求人数(除学卒)、新設住宅着工床面積、新車新規登録・届出台数(乗用車)、日経商品指数(17種)、マネーサプライ(M2+CD)の6指標が現状で既にプラスとなっており、50%を上回るのは確実である。

    3. 早川日本銀行課長
    4.  8月の日銀短観は、業況判断DIが製造業で4ポイント悪化、非製造業で5ポイント改善となった。製造業では1年ぶりに悪化となったが、これをみると景気回復の足どりは鈍いという感は否めない。
       ただ、製造業のDIの悪化は驚くほどのものではない。通常、製造業のDIは、前期の収益状況を反映するものであり、4〜6月期は鉱工業生産がマイナスとなったことから、業況判断DIは改善しないと予想していた。生産の弱さが製造業の業況判断に素直に現れたと考えている。
       4〜6月期の鉱工業生産は前期比0.3%減、出荷は0.1%減であった。財別出荷をみると、設備投資、個人消費等に関係する最終需要財は、4〜6月期に2.0%増と、95年10〜12月期以降増加傾向が続いている。一方、生産財は95年10〜12月期に1.5%増となった後、96年1〜3月期は0.1%と微減、4〜6月期は2.6%減となった。鉄鋼、紙・パ、半導体等の在庫調整の結果、生産、出荷が抑制されたとみている。以上から、製造業の業況判断DIの悪化は、加工産業では1ポイントの改善となる一方、素材産業で7ポイント悪化、特に紙・パ、鉄鋼が16ポイントの大幅悪化となったことが原因である。電機産業は、通信、家電が伸びていることから、半導体市況の悪化を打ち消した形で変化なしとなっている。
       在庫調整による生産の鈍化の裏に最終需要の伸びの鈍化があるかどうかが重要である。仮に、企業が最終需要の悪化を予想していれば、12月の見通しも良くないはずであるが、製造業では12月は0と7ポイントの改善を予想している。また、最終需要が悪ければ、製造業と非製造業で差がないはずであるが、製造業が悪化する一方で非製造業は改善している。こうしたことから、今回の製造業の業況判断DIの悪化は、最終需要の鈍化ではなく在庫調整によるものであると思われる。
       在庫調整が4〜6月期に終わったわけではないが、今後その調整圧力が弱まってくれば、7〜9月期の生産は改善してこよう。7月の鉱工業生産は前月比4.1%増、8、9月の予測指数を含め、7〜9月期は前期比1.1%増と予想されている。
       中小企業の業況判断DIは製造業、非製造業ともにほぼ横ばいであった。
      製品需給在庫判断等についても、8月はほとんど改善していないが、12月にかけては改善を見込んでいる。
       売上・収益計画については、製造業、非製造業ともにほとんど修正されていない。ただ、4〜6月期の生産、出荷の鈍化が売上のマイナス要因となること、半導体関連が下方修正要因であることが若干懸念される。一方、売上・収益計画の為替レートの前提は102円であるが、現状は108〜109円程度の円安となっており、上方修正要因であろう。
       設備投資計画は、主要製造業で7.6%の増加(95年度:7.8%)、非製造業で6.2%の増加(同1.6%減)であった。中小企業の5.6%減という計画は95年度の7.1%減と比べてマイナス幅は縮小しており、改善傾向にある。
       設備投資関連の経済指標は、機械受注、一般資本財出荷、建築着工床面積が前年比でほぼ2ケタの伸びを示している。ただ、7〜9月期の機械受注は前期比8.2%減、特に製造業が4〜6月期に続いて、7〜9月期もマイナスとなっていることが気がかりである。半導体関連の下方修正の動きが反映されつつあることも考えられる。
       その他、生産設備判断DIは過剰感がやや縮小、また、雇用の過剰感もいくぶん縮小している。失業率は依然高いが、雇用調整は改善方向にあると思う。
       海外生産・設備投資動向は、海外生産が前年比13%増、海外設備投資が14%増となっている。為替は円安傾向が定着しているが、ただちに企業の海外生産シフトが止まる状況にはない。
       以上から、今回の短観については、製造業の業況判断DIの悪化は、生産財における在庫調整の影響が主な原因であり、ただちに景気の悪化あるいは景気の腰折れを懸念されるような内容ではない。全般に経済指標は緩やかな回復が続いていることを示している。ただ、景気が加速してくる状況にはない。財政状況が厳しい中、公共事業は今年度はマイナスとなり、消費税の引き上げも控えている。こうした中で来年までに景気をどれだけ加速させることができるかが問題である。株式市場の悪化は来年の景気に対する不安感の反映であろう。

    5. 東田野村證券次長
      〜日銀短観の調査結果をどうみるか〜
    6.  日銀短観については、主要企業製造業の業況判断DIが、前回調査の▲3、予測0から▲7へと悪化したのは、市場にとってはネガティブ・サプライズであった。その段階でマーケット・センチメントを弱化させたことは否めず、景気腰折れを想定した弱気の見方も現れている。
       ただ、短観内容を検討した後は、悪化の主役は素材業種(▲6から▲13)が中心で、加工業種はほぼ横ばい(▲1から0)、また非製造業(▲9から▲4)は5月時点予測にほぼ沿った改善を示していることから、全産業にわたって足元の景況感が悪くなっているわけではないとの見方であった。また、96年度の設備投資計画は緩やかながら上方修正され、昨年並みの増加ペースが維持されている。
       7月の鉱工業生産(速報)も考慮すると、7月実績は前月比4.1%増(季調済)と堅調であり、予測指数が8月1.2%減、9月1.1%増であり、これが実現すれば、7〜9月期は前期比1.1%増となり、緩やかながら回復感が維持されているといえる。
       素材産業の在庫調整を除けば、足元の景気がそれほど悪化しているとは思えない。景気腰折れシナリオに傾斜し、3%割れの債券を買い、日経平均で2万円すれすれの株式を売るのは早計であろう。とは言うものの、短観の業況判断12月予測(▲7から0)のように順調に回復軌道に戻ると考えるのもやや楽観的であろう。これは、
      1. アジアの減速が続く中、素材の市況テコ入れが生産調整の継続なしに維持できるのか
      2. 相次ぐ自動車のモデルチェンジが期待通りに販売増に結びつくかどうか
        (自動車業況判断8月:0から12月:14)
      3. 半導体市況の製造装置への広がりがどのように影響するか
      など不透明要因が残っていることによる。足元の景気はそれほど悪くないが、先行きはまだ不安定という中途半端な状態が続くだろう。
       以上から今後の株式市場を判断すると、昨年7月から今年6月の上昇相場の崩れだけに、ロングポジションの整理には時間がかかろう。中間期末月の需給悪予測のところに、モルガン・スタンレーのインデックス売り(8/23〜28日、3,561万株(業者間売買の約4割弱))が需給のエアーポケットを作り、加えて米金利上昇期待の高まりとニューヨーク株価波乱の兆しがマーケット・センチメントを悪化させた。
       超低金利の上昇気流に乗りながらも、景気回復力の先行き不透明感からエンジン推力が落ちた状態にあると思われる。20,000円前後から23,000円前後の中期もみ合いボックスとの想定は変えていないが、自力での上昇力は相当に低下しており、マーケット・センチメントを勇気づける材料が必要だろう。

〔文責 経済本部経済政策G 小川〕


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