景気関連インフォメーション

1996年10月分


第121回景気動向専門部会・議事概要(10月3日開催)

  1. 安原経済企画庁課長
    1.  7月の景気動向指数は、先行系列77.8%、一致系列80.0%、遅行系列28.6%となった。先行系列は4ヵ月連続、一致系列は2ヵ月連続で50%を越えており、基調的には景気回復の動きが続いていると判断している。
      先行系列では、原材料在庫率指数(製造業)、新設住宅着工面積、新車新規登録・届出台数(乗用車)の3指標がプラスに転じる一方、実質機械受注(船舶・電力を除く民需)、建築着工床面積(商工業・サービス)といった設備投資の先行指標がマイナスとなった。ただこれは、4月の水準が非常に高かったためであり、7月の機械受注は前月比13.6%増、建設着工も依然高い水準にある。設備投資の増加基調に変わりはない。
       一致系列は、3月から5月にかけて3ヵ月連続で50%を下回った。これは、生産指数(鉱工業)、原材料消費指数(製造業)、大口電力使用量、稼働率指数(製造業)の生産関連指標が軟調であったことが影響している。6月には、生産指数(鉱工業)、大口電力使用量がプラスに転じ、7月には原材料消費指数(製造業)、稼働率指数(製造業)もプラスに転じた。また所定外労働時間指数(製造業)も3ヵ月ぶりにプラスとなった。ただ、消費関連指標(百貨店販売額、商業販売額指数(卸売業))は依然マイナスが続いている。

    2.  機械受注の民需(船舶・電力除く)は7月に前月比13.6%増(季調済)と高い伸びを示している。また、実績額も、今回の回復期の中では平成8年4月に次いで高い水準であった。製造業・非製造業ともに5、6月と前月比でマイナスとなった後、7月はプラスに転じている。特に、製造業が7月に前月比3.2%増となったのに比べて、非製造業は同21.6%増と高い伸びとなっている。また、非製造業の7月の実績額は、調査対象を 280社に拡大した昭和62年以降最も高い水準である。これまでは製造業に比べて非製造業が出遅れていたが、製造業の機械受注の伸びが頭打ちとなる中で、非製造業が全体を引っ張る形になっている。
      機械受注の外需は、1〜6月にかけて、四半期ベースで前期比マイナスが続いていたが、7月は前月比50.9%増と非常に高い伸びを示した。中東、アジア向けのプラントが集中したという特殊要因もあるが、円高是正の効果が現れているものと思う。7〜9月期の見通しも高い伸びとなっており、持ち直しの傾向が強まっている。非製造業を業態別にみると、寄与度はその他非製造業が最も高く、2番目が電力、3番目が通信業(4〜6月期に高い伸びとなった後、7月も前月比18.2%増)となっている。
       半導体製造装置の受注総額は平成7年中は高い水準であったが、平成8年6月に前年比マイナスとなり、7月は前年比15.2%減とマイナス幅が拡大している。この内、民需は6月に前年比21.5%減と大きくマイナスになった後、7月は同5.7%減とマイナス幅が縮小している。一方、外需は6月までは高い伸びを示していたが、7月は同24.3%減とマイナスに転じた。国内メーカーが半導体製造装置について設備投資を繰延べるといった動きは、機械受注統計上はまだ出ていないが、8月以降こうした傾向が現れてくるのではないかと考えている。

  2. 立石通産省課長補佐
  3.  8月の鉱工業生産指数(季調済)は前月比1.9%減、出荷指数は同1.8%減であった。8月の生産指数の伸びは、7月時点の予測値(前月比1.2%減)よりも0.7%の下方修正であったが、これは、7月の確報値が速報値から0.8%上方修正されたことによる。
     在庫指数、在庫率指数はそれぞれ、前月比0.6%増、0.9%増とやや悪化しているが、後述のとおり、基調としては在庫調整が進んでいると判断している。
     生産に対するマイナス寄与は、第1に電気機械工業(前月比3.6%減)、第2に輸送機械工業(同6.5%減)、第3に金属製品工業(同1.9%減)となっている。電気機械工業のマイナスは、パソコンが24%減と3ヵ月ぶりに減少したことが主因であるが、6、7月の増産の反動で前月比でマイナスとなったものの、前年比は33.9%増と依然高い伸びを示している。他方、半導体集積回路は、市況悪化から在庫調整が本格化している。輸送機械工業では、乗用自動車が前月比16.3%減、小型乗用車が同5.6%減といずれも3ヵ月ぶりにマイナスとなった。新型乗用車は秋口以降増産の予定であるが、新車登録台数は9月はプラスに転じたものの、8月まで4ヵ月連続で前月比マイナスとなっており、こうした中で今後国内の需要をいかに喚起していくかがポイントであろう。
     出荷に対するマイナス寄与は、生産と同様に電気機械工業(前月比2.5%減)、輸送機械工業(同3.1%減)、金属製品工業(同3.9%減)の順になっている。
     全体として、在庫は、在庫循環図上の積み増し局面にある。財別では、最終需要財は全体の動きと同様に在庫積み増し局面にあるが、生産財は在庫積み上がり局面にあり、最終需要財に比べてやや在庫調整が遅れている。ただ、鉄鋼業中心に在庫調整は進んでおり、また生産財の在庫積み上がりの内容は、新製品需要に伴う中間投入財の在庫であり、全体として在庫調整は進展していると考えている。
     生産予測調査では、乗用車の生産増加が見込まれることなどから、9月が前月比0.1%増、10月が同3.2%増となっている。一方、8月の実現率、9月の予測修正率はいずれも1.5%減の下方修正であるが、9月予測を前提にすれば、7〜9月期は前期比1.5%増となり、9期連続のプラスとなる。緩やかな上昇基調との判断は変えていない。

  4. 平沼大蔵省企画官
    1.  4〜6月期の法人企業統計では、売上高、経常利益、設備投資がいずれも前年比でプラスとなっており、改善の状況にある。
       売上高は全産業で前年比5.5%増と10期連続の増収である。製造業では電気機械、化学など、非製造業ではサービス業、建設業など、多くの業種で増収となっている。
       経常利益は、全産業で前年比34.4%増と8期連続の増益である。平成6年10〜12月期以来の高い伸びとなった。製造業では9期連続、非製造業でも4期連続の増益である。
       設備投資は、全産業で前年比7.3%増である。特に、半導体、液晶関連の投資増から、電気機械で同20.6%増となっている。

    2.  管内経済情勢報告は、各財務局が7月までの経済指標をベースに9月上旬まで企業にヒアリングを行い、とりまとめたものである。
       各財務局の報告をもとに、最近の経済動向をみると、個人消費は、百貨店販売の店頭需要、パソコン、家電等が好調であること、海外旅行が引き続き順調に推移していること等から、総じて緩やかな回復にある。また、設備投資は概ね回復傾向、住宅建設は依然高水準で推移していること等から、景気は緩やかな回復の動きを続けているとしている。平成8年度の設備投資計画については、11財務局のうち10の局で上方修正されている。他方、懸念される材料としては、在庫調整の遅れから鉄鋼の減産、情報機器の生産水準の低下等が指摘されている。
      関東財務局では、個人消費は家電、乗用車の回復、百貨店販売が回復傾向にあること等から緩やかながら着実な回復としている。また、新設住宅着工は好調であり、設備投資も回復している。雇用情勢は、完全失業率は高い水準にあるものの、有効求人倍率が改善するなど、労働力需給に改善の動きがみられるとしている。
       東北財務局では、生産活動は緩やかなものである、雇用情勢は依然厳しい等やや弱い見方となっている。一方、東海財務局では、消費、住宅建設、設備投資、生産の動向などについてしっかりした見方となっている。雇用情勢については、関東財務局と同様となっている。福岡財務局では、生産活動は緩やかな上昇、設備投資は前年並の水準、個人消費、住宅投資は他と同様となっている。

  5. 早川日銀課長
  6.  景気は基調的な部分の動きとその上の需要の短期的なあや、在庫の動き等から生じるさざ波の部分があると考える。基調部分がはっきりしていれば、さざ波に気がつかずトレンドが見えるが、今回の回復は基調部分の回復が非常に緩やかであり、したがってさざ波部分が目立つことから、「行きつ戻りつ」と表現されるのではないかと思う。
     先ず、さざ波の動きをみると、昨年秋頃から年初にかけて強めの部分が出た。つまり、デフレスパイラルが懸念されている中で、利下げや経済対策が行われたことから、景気がやや上向いてきた。この結果、病み上がりの時期に、これまで抑制されてきた需要(pent-up demand)が盛り上がった。需要面では、利下げが住宅需要の喚起につながり、また、地下鉄サリン事件、阪神大震災の後、マインド面での安心感から個人消費が立ち直ったこと、在庫面でも、経済対策やウィンドウズ95への期待から鉄、半導体、紙等のストックの積み上げが行われた。つまり、過剰な期待により強めのフェーズが出た。一方、今年の夏にかけては、過剰な期待感の反動から、在庫調整、減産につながっている。8月の短観でも、主要企業製造業で業況判断DIがやや悪化したが、生産財分野の在庫調整の影響が大きかった。
     一方、基調部分の動きについては、大企業製造業の増益及び設備投資の回復が非製造業、中小企業、家計部門に広がっていくかどうかによると思うが、短観での非製造業の業況判断DIの改善、中小企業の設備投資の改善など、前向きの動きが続いている。ただ、夏のボーナスは春の大企業の妥結状況に比べて、全体では今一つであり、これが個人消費の弱含みの主因であろう。以上から、景気は行きつ戻りつという中で、基調部分はあくまで緩やかな回復を続けていると判断している。
     先行きについて、今後はさざ波の部分で明るい材料がみられるかもしれない。生産は7〜9月期が前期比1.5%増と予想される。需要サイドは、個人消費が力強さに欠ける一方、住宅投資は消費税引き上げ前のかけこみ需要の反動が懸念されていたが、もうしばらく高水準を維持するとの見方が増えている。外需も輸出減・輸入増による国内生産の鈍化が懸念されていたが、輸入の伸びがやや鈍化し、外需が景気回復の足を引っ張る度合いは弱くなろう。9月の新車登録台数も大きくプラスとなっており、また来年1〜3月期には、消費税引き上げ前のかけ込み需要も期待される。こうしたさざ波部分の明るい動きが、基調部分の回復にどれほどつながっていくのかが今後のポイントであろう。

  7. 鳥生労働省課長
  8.  完全失業率は3.3%と依然高水準にあるなど、雇用は依然厳しい状況が続いているが、有効求人倍率の改善、就業者数、雇用者数の増加など、改善の動きが強まっている。
     雇用者数は8月は前年に比べて69万人増と増加幅が拡大している。製造業の雇用状況は、1〜3月期、4〜6月期ともに前年並であるが、サービス業、卸・小売業、パートタイマーの伸びが堅調となっている。労働需要はある程度回復してきていると思う。完全失業率は、労働需給の改善に伴い労働市場への参入の増加から、5、6月は3.5%と高かったが、7、8月はやや低下しており、特に学卒未就職者の減少から若年層の失業率が低下している。一方、非自発的離職者数は8月に前年比9万人増であり、男子高齢者(55〜64歳)の失業率の上昇が懸念される。雇用調整が長期化しており、今後の動向に注視する必要がある。
     新規求人は8月に前年比11.6%増と高い伸びを示しており、堅調な動きを続けている。有効求人倍率は求職者の伸びが高く、0.72倍から0.71倍とやや足踏み状態にあるが、求人も堅調であり、今後低下することは考えにくい。所定外労働時間は4〜6月期は足踏み状態であったが、7、8月にかけて上昇しており、景気に沿った動きとなっている。
     他方、6、7月の現金給与総額の伸びが低い。6〜8月で前年比1.7%増と、春先の大手企業の夏期給与の妥結状況が3%前後であったのと比較して、所得の伸びがそれほど大きくないようである。
     以上から、雇用情勢には明るい動きもみられ始めているが、非自発的離職者の増加にみられるように、大企業を中心とした雇用過剰感が依然強いという懸念もあり、今後の動向に注視する必要がある。

〔文責 経済本部経済政策G 小川〕


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