景気関連インフォメーション

1997年1月分


第124回景気動向専門部会議事概要

  1. 安原経済企画庁課長
    1.  景気動向指数の先行系列は、8月に一時的に50%割れしたが、9月、10月には50%を上回った。遅行系列は10月に64.3%であったが、景気回復が緩やかであるため、継続的に50%を上回ることは難しい状況である。
       先行系列は、9月にマイナスが4つあったが、10月にはそのうち実質機械受注が大幅に増加し、建築着工床面積も増加し、プラスになった。マネーサプライも横ばいで0となったため、マイナスを続けているのは日経商品指数のみとなった。
       一致系列では、9月にマイナスであったもののうち、百貨店販売額が7ヶ月ぶりにプラスに転じた。これは婦人服を中心に衣料品が良く売れたためである。有効求人倍率は若干改善が足踏みしていたが、このところ上昇している。一致系列では、大口電力使用量のみがマイナスであった。
       以上のように、特に一致系列の復調傾向が明瞭になってきた。総括判断は、「景気動向指数の動きは、景気に回復の動きが続いていることを示している」とした。先月までは、「景気動向指数の基調的な動きは、景気に回復の動きが続いていることを示している」と、若干留保した表現になっていた。9月、10月、11月と良い数字が出ているため、「基調的な」という部分を取った。月例経済報告は昨年11月に判断を進めており、それに呼応した動きが景気動向指数にも出てきている。

    2.  機械受注は、設備投資の先行指標として最も注目されている「船舶・電力を除く民需」が10月には前月比44.2%増と非常に高い伸びを示している。この伸びは、本統計が昭和62年度から現行の280社ベースになって以来、最高の伸びである。1兆3649億円というレベルも、バブル期に1兆3039億円を記録したのを抜いて、史上最高水準になった。全般に設備投資が好調と言われているが、10月の機械受注統計はそれを裏付ける数字となっている。
       製造業、非製造業ともに高い伸びとなっており、特に非製造業は、8226億円と史上最高水準になった。製造業は、バブル期の水準に比べ8割弱の水準であり、今回は、非製造業を中心に増えていると言える。
       「船舶・電力を除く民需」が前月比44.2%増という大きな伸びを示した背景には、これまで景気が順調でなかった時は9月に半期末の駆け込み受注が見られていたが、昨年は受注が好調であったことにより9月の駆け込み受注がなく、その分10月の落ち込みが減ったために、嵩上げされたことがある。また、10月には電子計算機の受注が多かったが、これは9月までに契約すればその後のリース期間中に3%の消費税が適用されることから、消費税引き上げ前の駆け込み受注が多く、9月契約分が10月にずれ込んだためと見られる。従って、前月比44.2%増という数字はかなり嵩上げされた数字であり、その分11月には間違いなく減少するとみられる。しかし、先月に作成した見通しでは、10−12月の「船舶・電力を除いた民需」は前期比19.3%増という高い伸びになっており、先月の段階では見通しの達成は難しいと見ていたが、10月の高い水準をみると、19.3%に近い水準になるのではないかと思われる。設備投資は堅調さを裏付ける数字になっている。

  2. 高橋通産省課長
    1.  11月の季調済生産指数は99.6、前月比では▲1.9%と3ヶ月ぶりのマイナスとなったが、原指数は前年同月比4.0%増と5ヶ月連続のプラスとなった。出荷も同じような傾向であった。在庫は引き続き改善の方向が出ている。在庫指数は前年比2ヶ月連続のマイナス、在庫率指数は、3ヶ月連続で前年比マイナスが続いている。
       全体の生産指数は前月比▲1.9%であるが、マイナスの寄与は輸送機械工業が1番大きく▲5.1%、一般機械工業が2番目に大きく▲3.8%、電気機械工業が3番目に大きく▲1.7%であった。これらの業種は、10月に大きなプラス寄与であった業種である。輸送機械では普通乗用車、小型乗用車などの乗用車がマイナスの寄与になっている。11月の輸送機械工業がマイナスとなったのは、違和感があるかもしれない。乗用車を中心とする輸送機械工業は11月も好調であり、例えば乗用車は前年比では10%超である。ただし10月の前年比は17%程度であったため、前年比の上昇幅が縮まった分前月比が低下したと見られる。
       電気機械工業は固定局通信装置のマイナス寄与が大きいが、これも10月に大きく伸びた反動であり、レベル的には高い。電気機械工業の中では、半導体集積回路のうちウェイトの高いモス型集積回路が大きな低下寄与になっており、やや懸念される。半導体集積回路は、3ヶ月ぶりに前月比でマイナスになっている。半年位の不透明期を経て、9〜10月に市況が下げ止まってきたような兆しが見えたが、11月に再度マイナスになった。在庫調整は進んでいるようであるが、今後プラス要因が考えられず、不透明感が払拭されそうにない。

    2.  10月予測調査の11月見込みは▲1.7%であったが、実績は▲1.9%と下方修正された。12月は前月予測が▲0.2%と微減であったが、今回調査では0.8%と上方修正になった。1月の見込みは5.1%となった。これは、電気機械工業の10.8%、輸送機械工業の14.7%の寄与が大きい。輸送機械工業は、乗用車の消費税率引き上げ前の駆け込み需要を見込んだ生産増の計画であるとのことである。電気機械工業では、情報機器関連、通信関連が増えている。これは、必ずしも消費税率引き上げ前の駆け込み需要のみのためではない。

    3.  11月の総合評価は、前月比ではマイナスになったものの、やや増勢が鈍化しただけであり、決して悪くなったわけではない。12月がプラスに振れ、1月が消費税絡みで大きくプラスという中で、敢えて「緩やかな上昇」という慎重な表現を使った。これは、現在の状況が良いことは織り込み済であり、この先に向けて必ずしも不透明感を払拭する程の力強さについて自信が持てなかったためである。このため、数字が良い割には、慎重な評価をした。
       その後株価が下落し、IIPは折角良い数字だったのに残念だと思っている。

  3. 北村大蔵省課長補佐
    1.  法人企業統計季報は、3ヶ月に1回調査している。7−9月期の実績は、売上高が全産業で前年同期比4.4%増となった。伸び率は、4−6月期の5.5%に比べて鈍化しているが、11期連続の増収になっている。経常利益は前年同期比12.7%増となった。経常利益の伸び率も4−6月期に比べると鈍化しているが、9期連続増益になっている。企業収益は引き続き改善している。設備投資は、全産業で前年同期比8.2%増と、4−6月期に比べ伸び率を高めており、平成7年4―6月期以降6期連続で増加を続けている。
       売上高は、O-157の影響等もあり食料品業が2期連続マイナスになっている。電気業は3.8%の減収となった。
       経常利益は、輸送用機械が前年同期比101.1%と大幅な増益となった。売上高経常利益率は2.0%となっており、9期連続で前年同期比プラスになっている。これは、価格下落圧力という収益圧迫要因のある中、売上高の増収、金融収支の改善、減価償却費の抑制により改善した。
       設備投資は、前年同期比8.2%増となり、平成3年1―3月期の10.9%増以来の高い伸びを示した。高い伸びの業種は、輸送用機器の22.5%、卸小売りの14.8%、サービス業、リース業などである。
       在庫投資は電気機械、化学、鉄鋼の在庫がかなり減少したため、▲77.4%となった。
       手元流動性は11.0%となり、1年前の12.4%に比べて低下した。これは、分母である売上高が増加している一方で、有利子負債の返済に現金が当てられていることもあり、減少した。自己資本比率は21.5%と、緩やかな改善傾向にある。

    2.  景気予測調査の景況判断(平成8年10−12月期)では、大企業は前期に比べて全産業で8.8%の上昇超となり、5期連続の上昇超となった。中堅企業は3.2%の上昇超、中小企業は7.0%の下降超となっている。中堅企業は2期連続の上昇超、中小企業は平成3年の10―12月期以降21期連続で下降超となっている。このように、企業規模別に跛行性がみられるが、先行きについては、大企業、中堅企業は上昇超、中小企業も下降超ではあるが下降超幅は縮小してきている。景況感は総じて緩やかに改善していると判断している。売上高および経常損益は、平成8年度下期・通期共に増収・増益という見通しが出ている。経常損益は平成8年度下期・通期共に若干下方修正された。経常損益の改善の要因としては、売上数量の増や、人件費の減を指摘している経営者が多い。雇用は、製造業を中心に過剰気味超が続いているが、非製造業は不足気味となっており、業種による格差が顕著に現れた。

  4. 門間日本銀行調査役
    1.  最近3ヶ月間に出た指標は景気回復の底固さを示唆するような強めの数字である。その最たるものは、鉱工業指数である。総合判断は抑えたとのことであるが、数字自体は強めである。1月見込みの5.1%は、92年2月の5.5%という予測以来の高い伸びである。消費税の駆け込みという特殊な要因はあるものの、非常に高い数字である。生産指数で強い数字があるということは、最終需要でも高い数字があるということになる。
       まず、乗用車の新車登録台数は、9月の前年比8.8%が低く感じられる程、10月以降前年比2桁増が続いている。乗用車は生産への波及効果が高い財であり、乗用車だけではなく、関連した生産財や部品なども増加していることになる。
       輸出入は、潮の流れが予想外に早いテンポで動いている。9月3日付で「対外収支動向について」というペーパーを出したが、結論は純輸出の減少テンポが鈍化していくと書いた。実際は、7−9月頃から減少は止まり、10−11月はかなりのテンポで増加している。96年7−9月期の前期比伸び率は、輸出が1.6%、輸入が1.0%であり、輸出と輸入の前期比伸び率が逆転した。10、11月の平均では、輸出の伸びの方が高い。昨年の半ばまで純輸出は景気の足を引っ張っていたが、景気を後押しする要因になってきた。純輸出はサービスが入っておらず、生産指数に与える影響が大きい。このため、乗用車と並んで生産を押し上げる要因になっている。
       機械受注は、10月の数字が実勢を上回っていることは認識しているが、1月から10月分をくくり、1−10月の前年比を見ると12.7%増である。12.7%という数字は、89年に暦年で15%を超える数字があったが、それに次ぐ伸びである。バブル期の設備投資が伸びた時期に次ぐ位の伸び率になってきている。機械受注はかなり高い数字である。

    2.  足元の景気の底固さを示す指標が、消費税が導入される1−3月までの動きか、それ以降も続くのかが問題である。
       純輸出は、1昨年来の円安の効果は、これまでの経験ではタイムラグを伴い、長続きしていたため、しばらく続くと思われる。
       自動車は1−3月期に非常に高い数字で、4−6月期にその反動が出ることが予想される。しかし、自動車については、消費税が引き上げられる4−6月期も好調な動きが続くとみられる。その要因は4つある。
      1. 所定外給与と特別給与が増加しており、雇用者所得が増加傾向にある。
      2. バブル期に大量購入された車の車齢が7年〜8年という買い替え期にあることから、ストックサイクル上も買い替え需要が出やすい状況にある。
      3. メーカーサイドから、需要を表に引き出す動きが活発に行われている。円安等により自動車メーカーの収益が全般に良くなっているが、その収益を販売促進費にまわすことや、RV車など現代の消費者の嗜好にマッチした商品の投入を進めるなどにより、積極的に潜在需要を掘り起こそうとしている。
      4. 低金利で20代〜40代前半の年齢の低い層が自動車ローンを組みやすい。
      以上の4つの要因のため、消費税の引き上げ後も自動車の基調的な販売の地合いは悪くならないのではないかと考えている。
       現在の設備投資を支えている要因は、(1)企業収益の改善、(2)ストック調整の進展、(3)情報通信関連分野の拡大、である。機械受注の1−10月の12.7%の伸びのうち、5%強の寄与を通信が占めている。これは、移動体通信の関連が多いと思われる。移動体通信のみで今年の設備投資を1%程度押し上げると試算しており、このような新しい分野が高い伸びを支えている面がある。今後の持続性が問題になるが、企業収益は円安の効果が残っており、生産が増えて内需、純輸出の数量増で企業収益が嵩上げされるため、当面見通しは明るい。ストック調整は、現在進行中であり、設備がすぐに過剰になってくることは考えにくい。情報通信については、移動体通信の全国的な拡大が終わり、来年度はあまり伸びないと言われており、別の情報関連のものが出てこないと、続いていかない。ただし、この分野は価格下落、技術革新の速い分野であり、企業側の投資に関する潜在需要もある分野であるため、何か出てくると期待することは過大な期待ではないと思われる。現在の設備投資を支えている要因が今後持続していくことは考えられる。

    3.  このような景気の現状であるにもかかわらず、なぜ株価が弱いのかを考えてみたい。市場で言われている要因は、(1)行財政改革が進まない失望感、(2)米国経済が非常に活力があるのに対し、日本は閉塞感を払拭できない、いわゆる米ドル資産選考、ということである。このことは、実は同じことを言っているのではないかと考える。日本株の中でも、日本の会社であるが米国の会社のようなものであると認識されている国際優良株は高値を更新し、さらに上がっている。一方、純日本的で、日本の病巣と思われているものが集中的に現れている業種、すなわち不透明・規制的などのキー・ワードで説明しうるような業種の株が売られている。米国買い・日本売りは、行財政改革に対する失望と同じことであると考えている。景気は目先は良い指標が出てくると思われるが、中期的に見た場合の先行き不透明感を株式参加者が注目していると認識している。

  5. 鳥生労働省課長
    1.  完全失業率は10月に3.4%に上がったのが11月には3.3%と元に戻った。有効求人倍率は10月に引き続き上昇した。就業者数は58万人増加し、雇用者数も10月にやや鈍化していたが、11月には60万人増加した。製造業の雇用者数は一時に比べ下げ止まっているが、10月、11月に若干減少した。増加しているのは、卸売・小売業・飲食店、サービス業であるが、製造業も昨年、1昨年のような減少ではなくなっている。全体としては、雇用者の伸びは伸びている。
       完全失業者は212万人と前年同月に比べ6万人減少しているが、前年の水準を下回ったのは4年7ヶ月振りである。非自発的離職の失業者は10、11月と2ヶ月連続して前年の数字を下回っている。失業率は下がりにくくなっているが、中身は良くなっている。
       新規求人は、前年の水準をかなり上回っている。全ての産業で前年水準を上回る状況が続いている。在職求職者のウェイトが最近高まっており、求人倍率そのものの改善の速度は速くはないが、徐々に改善してきている。雇用保険の需給資格決定件数は、稼働日の関係などで波はあるものの、比較的落ち着いた動きを続けている。

    2.  現金給与総額は1.5%増と比較的堅調な伸びを示しており、所定外給与も比較的高い伸びを見せている。冬のボーナスについて主要企業の冬季一時金に関する労働省労政局による調査では、2.8%という数字であった。昨年の冬は1.9%であったため、1%ポイント増加している。夏の3.3%に比べ伸び率は若干鈍化しているが、調査対象産業が違うこともあり、企業収益の動向を反映して比較的堅調に伸びている。
       労働経済面全体としては、失業率が3.3%という数字は高水準で、依然として厳しい水準が続いているとの判断は変えていないが、景気の動きを反映して、求人倍率上昇、雇用者数増加など、明るい動きが見られる。今後の景気回復により、更に改善していくことを期待している。

(文責・経済政策グループ)


日本語のホームページへ