早川日本銀行課長
業況判断DIは、製造業については前回の予想よりも改善した(主要企業:▲1→2、中小企業:▲12→▲8)が、これは円安による輸出効果、自動車の好調の波及効果等が主な要因である。一方、非製造業については前回よりも悪化した(主要企業:▲1→▲6、中小企業:▲8→▲9)。これは公共投資の減少に伴う建設業の悪化が背景にある。主要企業非製造業のDIの悪化は、実勢というよりも一時的要因あるいはマインド先行の面が強いと考えている。先行きについては、消費税率引き上げの影響等から慎重な見方となっている。
製品需給・在庫・価格判断DIは全体にかなりの改善を示した。例えば、製品需給DIは▲17と依然供給超となっているが、過去の経験に照らし合わせると好況期の水準に近いと思われる。在庫、価格判断ともに総じて好転している。
次に、売上収益は、主要企業、中小企業とも、また製造業、非製造業ともに96年度は増収・増益で着地した見込みである。売上高は総じて上方修正されているが、経常利益は、製造業の加工業種では円安の影響等から上方修正されている一方で、素材業種では円安による交易条件の悪化から若干の下方修正となっている。97年度(計画)についても増収・増益が予想されているが、中小企業の非製造業については、売上高は0.9%増に過ぎず、経常利益の6%増も決して強い数字ではない。それ以外のグループは売上、収益ともしっかりした計画となっている。その結果、主要企業製造業の売上高経常利益率は、97年度4.44%とかなり高い水準が見込まれている。
設備投資計画は、97年度は主要企業では製造業、非製造業とも2.7%増となっている。ただ、今回調査時点を2月から3月に変更しており、昨年の2月調査と5月調査の間程度の数字であり、大体昨年並みの出足と考えている。中小企業については、製造業が▲10%、非製造業が▲21.4%という計画となっているが、通常、マイナスの数字を打ち出す傾向があり、昨年のパターンを踏まえれば今後上方修正されようが、97年度の伸び率が96年度を上回るほどの伸びとなるかどうかは現時点でははっきりとは言えない。中小企業製造業の▲10%は昨年の5月短観と同じレベル、非製造業の▲21.4%は昨年の2月短観と同じレベルであり、製造業はやや強め、非製造業はやや弱めと思われる。製造業の生産設備判断DIでは、中小企業でかなりの過剰感の縮小がみられる。
雇用については、主要企業では過剰感が着実に縮小しており、全体に改善傾向が現れている。
以上が今回の短観の結果であるが、全体を概括すると次の2点となる。
第1に製造業と非製造業との間でコントラストがはっきりとしつつあることである。これは、
- 円安の影響が製造業にはプラスに働く一方、非製造業にはそれほどプラスとならないこと、
- 最終需要としては、生産誘発効果の高い輸出、設備投資(とりわけ機械投資)、自動車等の個人消費などが好調である一方で、公共投資の落ち込み、住宅投資のピークアウトなどから建設業中心に非製造業のマイナス面が大きいこと、
などが背景にあるといえよう。
第2に、全体として非製造業の業況判断DIのみが出遅れているようである。これは、一つには指標としてはいい結果が出ているもののマインド面で弱いことがある。また、DIの先行きの悪化は、中小企業非製造業以外は「良い」と回答した企業数が減る一方で、「悪い」とする企業も増えておらず、先行きを慎重にみたいというマインド面が現れた結果といえる。
なお、為替レートの前提は97年度113.56円としている。