景気関連インフォメーション

1997年5月分


第128回 景気動向専門部会・議事概要(5月9日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通しについて(官庁報告)〜

  1. 通商産業省 中西統計解析課長
  2. 鉱工業生産指数(IIP)の3月の速報について簡単にコメントする。IIPの基調判断は、強いトーンが4ヶ月続くことになった。背景として、生産が好調であること、今回特に3月は出荷が非常に大きく伸びていることがあげられる。あわせて顕著なのは、在庫の改善状況がかなり大幅な数字を記録していることである。
    若干細かく見ると、生産については(1)指数水準が6ヶ月連続で100を超えたということ、(2)四半期でならしてトレンドを検証すると、1-3月の生産は3期連続上昇であり前期比で2.1%のプラスであること、(3)予測調査が、今回4月、5月と続けてプラス、しかも4月は前回調査と比べて約2倍上方修正されたことがあげられ、見通しが強いといえる。
    四半期ベースで見た指数の水準は、この1-3月期の水準、これは102.7という値になったが、これは平成2年の基準指数では、最高値(平成3年1-3月期と同じ)である。3月の前月比がマイナスとなったのは、季節調整で下のほうへ少し押し下げてしまったということ、そもそも1月が5.6%という大変高い伸びをした反動がまだ尾を引いたということであると判断している。
    出荷は、やはり生産と同様の傾向である。四半期で見ると、9年の1-3月期が105.2という水準であり、この水準は平成2年の指数では単独トップである。
    在庫は、3月末の在庫水準、前月比、前年同月比とも平成2年の基準指数で下げ幅が最も大きくなった。若干、消費税の影響等で3月は出荷及び在庫の動きは従来よりも大きくなったのだろうと考えている。
    今後の生産動向は、4月、5月の予測調査が連続して上昇してプラスである。統計的に5月の指数の水準を6月も横ばいということで試算すると、前期比で0.3%のプラスである。ちなみに4月1.9%伸びると、4月の水準が102.3、更に5月1.1%伸びると、指数の水準が103.4、6月も103.4ということにすると、4-6月の数字が103.0で前期比0.3%のプラスとなる。
    在庫については、在庫循環図にプロットすると、この1-3月期は、右下の方へかなり深く点が移動しており、局面としては「意図せざる在庫減」という局面が継続している。よって当面生産の状況はかなり底固いと思う。

  3. 大蔵省 北村調査企画課経済動向調査官
  4. 先月4月23日に開かれた全国財務局長会議の結果からその概要を報告する。大蔵省の全国財務局長会議は、年3回概ね開かれており、直前は1月22日に開かれたもので、その後約3ヶ月ぶりの開催であった。全国的な景気動向の総括的な判断については政府の「月例経済報告」等で毎月発表している通り、「ゆるやかな景気回復」が続いている。全国財務局長会議では、沖縄を含め全国に11ある各財務局の判断を本省で集約した。1月の会議と今回4月との比較では、「なお、一部の地域においては景気の回復力が着実に強まっている状況にある」という点を加えたところが目新しい点である。
    今回の4月の会議の特徴を2,3あげると、まず地域別の判断は、東海地域では、回復から拡大への地歩を固めており、拡大に向けた一歩手前の状況までに景気動向が高まっている。個人消費の着実な拡大、設備投資の増加傾向等が要因であるが、やはり自動車生産の増産が各業種に対してプラスの効果を及ぼしている。これに次いで、福岡地域、沖縄地域が着実な回復の動きを続けている。それ以外の8地域は、「緩やかな」という形容詞がついている。
    1月以降の特徴的な動きとしては、やはり設備投資の回復傾向が続いているということであり、8年度の見込額については増加が9地域、横ばいが1地域(東北)、減少が1地域(九州)であり、8年度は地域的にもかなり増加の地域が目立つ。9年度は、これはまだ係数未確定の企業の分が含まれているが、この時期で増加が5地域、減少が6地域なのでかなり底固いと判断している。1年前の同時期も同様であり、期中にかなり上方修正されたという経緯がある。
    その他、生産が上昇傾向にあるという報告が多い。とりわけ自動車に見られる輸送機械、電気機械、鉄鋼の生産が好調であるという報告が7から9地域にわたっている。また、今回は消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動についての報告が多かった。
    駆け込み需要については、家計調査3月分にもある通り、百貨店の販売額で特に3月の下旬、最後の週あたりで家具・宝飾品などの高額商品を中心に相当見られた。ただ、その強さは、平成元年の消費税導入時より弱い。従って反動も弱い、あるいは比較的早期に回復するだろうという見方が財務局のヒアリングでは多かった。

  5. 日本銀行 早川経済調査課長
  6. 最近の金融市場の動きは、株価が少し上昇、長期金利も少し上昇してきた。為替はここ2,3日少し円高ではあるが、これを無視すると少し流れが変わってきた感じがする。日銀では、昨年秋頃からこの半年くらい、実体経済の見方については比較的中身がしっかりしてきていて、確かに財政面からの景気抑制効果は出てくるけれども、何とかそれを凌いで回復基調が続くのではないかという判断ができるような状況になってきたと思っていた。しかし、金融市場の見方はこれとは大きく違っており、長期金利はほぼ一貫して低下し、株価の方も年末から年始にかけて大きく下がった。最近は、年の始めくらいからの景気およびおそらく金融システムの安定性に関する行過ぎた悲観論が少し後退してきて、若干の修正、コレクション過程にあるのではないかと思っている。日銀と市場の見方が少し近づいてきたのではないか。
    実際の指標に則して説明する。ここ1年ばかりは、経済が上がってきたとはいえレベル的にそう高い水準ではない時に、財政面からかなり大きな景気抑制効果がかかってきて、果たしてそれでまわっていけるのだろうか、ということがずっと大きなテーマであり続けたと思うが、その効果については、基本的には96年度下期から97年度上期の1年間にその財政面からのマイナス効果が現れ、しかも、大雑把にわりきると、96年度下期は公共投資減少局面であり、97年度上期は消費税率上昇をはじめとする増税のインパクトが現れる時期である。この意味で、公共投資の減少に伴うマイナス効果はすでにこれまでに経済に相当程度吸収されてきており、今後は消費税率引き上げをはじめとする増税の効果がどうかという方に問題は絞られてきている。現在消費税率が引き上げられて約1月たったが、消費関連はとりわけ3月末にかけて、多くの人たちが予想していたレベルを上回る規模で駆け込み需要が発生した一方で、4月以降は当然その反動が出ている。そのこと自体はプラスでもマイナスでもない。例えば家計調査では、消費水準指数で見て1-3月は前期比が4.8%増となっており、GDP統計に引き直しても、おそらく1-3月の成長率は相当高くなった。逆にいえば、4-6月にはそれなりの反動が出てくるということも間違いないであろう。
    では、駆け込みの反動の中で経済の実態、その基調的な部分をどう見ればよいかということであるが、一番大事なことは、最終需要の振れに対して生産・所得のところがどのように動いていくかというところである。経済というものは基本的に最終需要が生産の増加を促し、生産の増加が所得の増加を促して、所得の増加が再度最終需要にフィードバックするというかたちで回っているので、最終需要に大きな変動が出た時に、所得循環というか所得形成のところにどのような影響が出るかというところが一番大事である。例えば実際に、最終需要の一時的な減速であってもそれが所得形成を大きく押し下げてしまって、その結果として次なる最終需要の押し下げに働いていけば、本当にそこで景気が息切れしてしまうということもありうる。こういう時に最も注目すべきなのは所得形成である。ただし、所得形成といっても収益や雇用の数字はこの時点ではわからないので、生産の動きが一つの重要なヒントになる。4-6月に関しても、若干6月どうなるかにもよるが、ならしてみれば生産水準は横ばい圏内でいくだろう。7-9月、10-12月、1-3月と結構伸びた後の横ばいであるので、その事実を前提にすると、生産所得の所得形成のところでのメカニズムは切れていない。それを前提にすれば、もはや財政面から足を引っ張る効果の一番大きいのはもう通り抜けつつあるので、夏以降、もう一回自立的な経済の力で上を向いていく可能性が一段と高くなっていると評価することができるだろう。
    従って、一番の問題は、どのようにして最終需要が、個人消費に見られるように大きな振れを作っているのに、生産・所得形成のところが滑らかに行きうるのかということである。これは、一言でいうと、マクロで見た場合には、輸出と在庫の二つが生産のスムージングを行っているのだと私は理解している。
    輸出については、日銀の統計の実質輸出では、去年の7-9月に1.7%増え、10-12月に5%増えた後、1-3月には0.7%ではあるが減った。これが大体GDPベースの、GDPでは財貨・サービスであり、ここではサービスは入っていないが、大雑把に言ってGDPの実質輸出に近い概念である。これを見ると、1-3月は減った。おそらくは、もともと輸出企業については、稼働率等で見た1-3月の生産水準はかなり高い水準にあるところにきている上、駆け込み需要があった結果、内需がどうしても強い。収益、採算だけ考えれば輸出した方が儲かる企業が多いのかもしれないが、マーケットシェア等を意識すれば、内需が強いときは内需を優先しなければならないので、国内向けの出荷を増やせば輸出の方は少なくとも一時的には減少しやすいというのが一つの環境だと思う。また、なかなか企業の方にそうだと言ってもらえないが、おそらく多くの輸出企業は、1月あたりで96年度の収益計画を達成することがほぼ明らかとなったので、年度末にたくさん儲かる輸出をしなかったのではないかと私は確信している。実際に通関統計等を見ると、3月の中下旬のところで輸出が減って、4月の上中旬のところで輸出が増えている。現地在庫に影響しないで収益を96年度から97年度にキャリーするということが行われたと私は考えている。従って、1-3月の生産というのは実はどちらかというと駆け込み需要を含めた意味での内需に比べてやや控えめであるが、それはこうした事情がそこにあるという風に理解している。
    また、在庫に関しては、とりわけ個人消費のうち半耐久、非耐久、家電製品も含めてそうだが、3月のかなり終わりになって、予想を上回る規模で駆け込み需要が発生した。このような場合、通常はメーカーの生産は間に合わないので在庫が減少する。現時点で流通在庫の統計はないので、現時点で見ることができるのは、鉱工業統計の製造業の製品在庫の数字だけであるが、これはかなり大きな減少になっている。おそらくはそれ以上の規模で流通在庫が減少しているはずである。最後の3日間くらいに急に売れたというのがメーカー段階での出荷にすぐつながったとは思えないので、常識的には流通でまず在庫が減っているはずであるので、おそらく流通、メーカー込みにしたところの在庫というのは、最後の最終需要が盛り上がった分に見合って減少しているはずである。
    そうすると、4-6月については確かに国内最終需要について見れば、1-3月のGDP統計がおそらく表すであろうように、相当大きな伸びになっているだけに当然その反動がでるわけだが、それは(1)若干輸出でキャリーしている部分がかなりの程度埋め合わせてくれる、(2)在庫復元の動きが出てくるので、結果として、生産活動は横ばい圏内で行けると思う。
    収益については輸出の出荷を期末をまたいで96年度から97年度に収益を送っていると思うので、所得形成面から考えると、4-6月は家計もそれほど悪くないと思うし、企業収益は相当いいはずであるので、所得形成面の循環が切れてないとすれば、最終需要が増税に伴って一時的に減速するとしても、それが下期以降の経済の足を引っ張るという理屈は非常に考えにくくなってきている。
    あとは上向くときの傾き、どれくらいの角度で上がってくるのかというところがわからない。おそらくその鍵を握っているのは設備投資の動向であろう。この設備投資については、いい材料から評価すれば、これまでずっと消費税引き上げを中心とする財政面のマイナス効果が企業にとって非常に大きな不確実性として存在してきたけれども、それが少しずつ薄れてきた結果、現在株価上昇が起こっている。であるとすると、不確実性が下がっていくほど、経済学的にはリスクプレミアムの低下に従い設備投資を促す力が働いてくるので、そういうもとで企業の設備投資計画がどのように上方修正されるかというのが鍵になってこよう。他方、悪い方から見れば、中小企業非製造業のところが弱いだろう。設備投資に占める規模も大きいのでこの辺がどの程度足を引っ張るか、この二つの力の綱引きが回復の角度を見る鍵となっているのではないか。

    若干補足すると、大企業・中小企業・製造業・非製造業という4つのブロックで考えると、少し前までは明らかに大企業製造業のところだけがよかったのだが、今は大企業非製造業も中小企業製造業もよくなってきており、最後の一つのブロックの中小企業非製造業だけは明らかに弱い、と認識している。
    景気回復メカニズムの関係から、円安輸出により、製造業大企業は一段とよい。94年にも製造業大企業がよかった時があったが、あの時は大企業はリストラ真っ最中であり、他への波及効果がなかった。最近は、リース、ソフトウェア、広告等非製造業まわりへの波及が見られるようになってきた。自社の稼働率上昇から、中小企業への発注も増加してきた。ただ、こうした動きは中小企業非製造業へはなかなかつながっていかない。広告等はやや大きいところに行ってしまうので、波及ルートが弱い。この1つの弱さと残り3つのブロックの回復により、今後の景気回復の傾き度合いが決まってくると考えている。

  7. 労働省 鳥生労働経済課長
  8. 雇用については、全体としては改善の動きは見られるものの、状況は厳しいという判断を変えるところまではいっていない。ただ中身はよくなってきている。具体的には、就業者と雇用者の増加幅がかなり拡大してきているのが改善の動きの最たるものであろう。1-3月で就業者は103万、雇用者100万となっている。雇用情勢は最近上向きである。ずっと減少していた製造業が最近増加してきているのも大きな要因の一つである。労働需要が最近高まってきているのは確かである。求人倍率については横ばいだが、これは安定所の業務統計なので建設業関係の求人のウェイトが高く、公共事業の影響を受けるからだと思う。雇用の中身は、男性より女性が、常用よりパート、臨時期間工等が伸びている。常用が安定するまでには回復していないということもいえる。学卒内定比率は上昇してきている。夏以降の景気がどうなるかにもよるが、明るい兆しであると思う。賃金は所定内賃金があまり伸びていないようにも見えるが、これはパートのウェイトが高まったせいで伸びが鈍化しているのだと思われる。また所定内賃金よりもボーナス重視のところも製造業を中心としてあり、全体としては、名目賃金は、どの程度かはさておき、伸びるものと思われる。

(文責・経済政策グループ)


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