景気関連インフォメーション

1997年9月分


第131回 景気動向専門部会・議事概要(9月4日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通しについて(官庁報告)〜

  1. 「最近の経済金融情勢について」
    早川・日本銀行経済調査課長
  2. ここ1〜2ヶ月で出た経済指標は、ややdisappointingなものが多い。元々、97年上期というのは、消費税引き上げ、特別減税の廃止といった家計部門に負担のかかる状態が予想されていたので、当然家計支出は、ある程度の弱い数字が出てくることは想像していたが、予想していたよりも数字が弱いことは事実である。特に、小売の販売統計等を見ると、4月あたりのマイナス幅に比べるとマイナス幅が縮まってきてはいるが、なかなか明確にゼロあたりに戻ってこないし、またそれ以上に、住宅投資・乗用車販売などの大物に関する数字の弱さが目立っている。特に7月あたりに思ったよりも悪い数字が出た。

    このような中で、経済をどのように見ればよいかということだが、上に上がっていこうとする力は、基本的には円安を含めて海外需要がいいということによる輸出の増加と、企業収益に支えられた企業部門の好調である。そして下に押し下げる力は、財政再建に伴う財政面からの下押し効果であり、これには公共投資減少、消費税引き上げ・特別減税廃止等が働いていて、3月まではマイナスのインパクトは公共投資減少くらいであり、消費税前の駆け込みなどのプラス効果もあったが、4月以降は、消費税引き上げと、特別減税廃止の影響から、このあたりまでは弱い数字が出るのは当然である。

    この後、どのように展開するかというのは、両者の力のバランスに依存する。ご承知の通り、金融市場あたりでは、一頃長期金利が2%割れになるなど、経済の弱い方に目が向く傾向にある。こういった数字を踏まえて、景気が腰折れ、失速といった議論が出てくるのだろう。しかし、出てきた数字はそこそこ弱いとは思うが、景気が大崩れするというリスクは依然としてかなり小さいだろうと私自身は考えている。それは、第一は、財政面から出てくるマイナスの効果というのは、確かに財政再建のもとで公共投資の減少基調は来年以降も続くが、公共投資が一番大きく減る局面というのは、96年下期に既に過ぎ去っている。増税によるマイナス効果もこの上期頭に集中している。景気の足を引っ張る要素は、今後は減衰していく方向にあるということである。第二は、設備投資についてみると、企業収益に支えられた設備投資の回復の動きが大きく変わる図式は依然としてない。確かに足元の数字は今一つではあるが、企業収益の増益基調は、とりわけ製造業を中心に考えると、これでも崩れていない。4〜6月の生産が横ばい、あるいは7〜9の見通しでも横ばい圏内を出ないが、生産が横ばいの中で、利益率が内需よりもおそらく高いであろう輸出が増加していることを考えると、企業収益の減益要因になるとは考えにくい。また、以前からのリストラによる収益下支え効果も続いている。この意味で、企業収益の基盤も確かである。第三に、個人消費は百貨店や車の販売だけで見てはいけない。出がけに7月の家計調査を見てきたが、これはそこそこの数字になっていた。百貨店などを見てイメージする個人消費とは、少し違う。基本的にいうと、マクロで見ると、以前からそうだが、日本の消費は、百貨店統計の数字が上下するわりには、特に消費性向のところは安定している。所得が伸びている限り、何かが伸びている。多分今現在は、サービスなどが少し伸びているのだろう。実際にサービス統計というものがないのでわからないが、例えば数少ないサービスの支出に関する統計の一つである旅行の数字などは、そこそこ伸びている。マクロの消費は、百貨店の数字を見てイメージするよりはしっかりしているのだろう。よって、基本的に経済全体が今、非常に大きく崩れるという根拠は現にないと考えている。マイナスの力が弱まっていけば、プラスの力が表面に出てくるという筋合いにあるだろうと思う。

    しかし、他方、比較的早期にいろいろな数字がよくなってくるかと考えてみると、なかなかそうはならない面もあるだろうと考えている。例えば、生産が4〜6月に横ばいになったが、これは輸出増と在庫の積み上げで内需減少がカバーされているわけだが、そうはいっても、在庫の積み上げは、やややりすぎた感がある。今現在、マクロで見て、在庫が非常に大きな過剰な状態になっているという認識はないが、部分的にいくつかの産業で在庫過剰を抱えていることは間違いない。例えば自動車、エアコンなどは多い。経済全体としては在庫過剰ではないが、部分的に在庫過剰が存在している。そうすると、最終需要面から見ると、個人消費などは、なんだかんだいっても4〜6月に比べると、前期比はそこそこ増えてくるはずである。しかし、やはり部分的にせよ過剰在庫を多く持っている産業があると、夏から秋にかけて、部分的なミニ在庫調整のようなことは当然発生してくると考えるべきであろう。昨年も春から夏にかけて、半導体、紙、鉄といったものでミニ在庫調整があった。今年も夏から秋はミニ在庫調整だろう。ただ、在庫調整という言葉は、個別産業での在庫調整と、本当に景気が悪い局面で全産業にわたって在庫が積み上がった時の在庫調整とは、相当性質が違うということには注意していただきたい。全産業の場合には、ある人が減産して自分の在庫を減らそうとすると、その行為自体が他の人にとっての需要の減退になって、在庫が減らない、ということが起こって、なかなか在庫が減らなくて苦労するということである。しかし、いくつかの産業の場合には、数ヶ月のオーダーで当該の産業が生産調整をやれば調整がすむという性質のものである。とはいえ、ミニ調整局面では、最終需要がそれなりに回復しても、やはり生産はもたつく。現在の状況を考えると、おそらく当面、若干ミニ調整をやって、その間生産活動が足踏みする、ということだろう。そうなってくると、経済を押し下げる力は働いてはいないが、押し上げる力はどうしても弱くなってしまうということであろう。これまで経済の循環を支えてきた力というのは、やはり製造業部門を中心とした力である。この部門が、半年程度足踏みすると、当然その間、前向きの循環が弱まってしまう。

    結論としては、景気がただちに悪くなると考える理屈はないが、予想していた以上に家計支出が、上期に弱くなってしまった結果、下期に向けて浮かび上がっていく力がその分どうしても減殺され、ややもたついた展開が予想される、というのが常識的な評価ではないか。

  3. 「鉱工業生産指数について」
    通商産業省 中西・統計解析課長
  4. まず、4〜6月期の鉱工業生産活動活動に関する分析のサマリーを紹介すると、今回まとめた特徴は3点であり、第一は、第一四半期から第二四半期にかけての指数変動の波が、かなり特異な動きをしたということである。在庫がはけて、その反動で4〜6月の伸びが大きくなっている。背景として、出荷が1〜3月に非常に高くなったことを受けて4〜6月に反動で下がっている。そういう中で生産は横ばいになって、それほど落ちてない状況である。このようなことは、過去の生産等の指数の波を見ていると、あまり例が無い。消費税の制度変更がこのようなところに出ているのではないか。4〜6月の生産は、国内出荷の落ち込みがあったが、輸出と在庫により支えられた、といえる。

    なお、前回消費税導入時と違いが見られたのは、今回は、消費税導入決定から実施までの期間が長く、あらかじめ駆け込み需要に対する準備ができたこと、前回は、一部品目で物品税が廃止され、消費税導入後の方が耐久消費財の需要が盛り上がった等の状況の違いがあることが指摘できる。

    特徴の第二は在庫についてだが、在庫が大幅に上昇したのは、品目別にはエアコン、乗用車等の寄与が大きかった。そして在庫上昇の要因は品目別には以下の3つの要因が複合しあっていると考えられる。一つ目は、消費税引き上げに伴う駆け込み需要で減少した在庫復元の動き、二つ目は、今後の需要増加に対応した在庫積み増しの動き、三つめは、出荷の低下等による在庫の積み上がりの動きであると考えられる。冷蔵庫は一つ目、普通乗用車は二つ目、エアコンは一つ目と三つ目の要因が複合したもの考えられる。

    在庫上昇は、品目別にばらつきが見られ、一部の乗用車、エアコン等は積み上がったが、4〜6月期においては総じてみれば、まだ積み上がってしまったという感じはなく、総括的には積み増しと判断するのが適当であると考えた。

    特徴の第三は、輸出向け出荷の上昇であり、これは、堅調な海外需要に加えて、消費税の駆け込み需要から鈍化した伸びが当期には反動で上昇したことが挙げられる。

    7月のIIP速報のポイントについて紹介すると、4月から6月まで3ヶ月続けてきた「緩やかな上昇傾向」という基調判断を「横ばい傾向」に変更した。理由は3つある。一つ目は、予測調査の結果を踏まえて作った7〜9月期の生産指数が前期比で横ばいと予想されること、二つ目は、在庫が4月以降4ヶ月連続で上昇したことと、積み上がりの品目が広がりを見せていること、三つ目は、予測調査の結果、実現率と予測修正率がともに2ヶ月連続で下方修正され、生産の今後について下振れ傾向が出てきたことがあげられる。7月の実現率は、電気機械、積み上がり傾向のエアコン等が下方に大きくきいている。8月の予測修正率は、機械工業、輸送機械、自動車の関係、電気はエアコンの関係が下方修正に大きく寄与している。全業種で下方修正ということは、平成5年2月以来である。加えて、実現率・予測修正率がともに2ヶ月連続で下方修正というのは、約2年前の1ドル80円の頃以来である。
    これらを総合的に考えて、生産についての判断を「横ばい傾向」でまとめた。

    次に、第三次産業活動指数が本日公表されたところなので一言説明すると、4〜6月期は、前期比でマイナス2.6%で、10期ぶりの低下である。業種別には、卸売業・小売業・飲食店がウェイトが高いので、この低下が大きく効いているが、その他のサービス分野についても、幅広く低下が見られる。また、第3次産業活動指数とともに、全産業活動指数というものも作成しているが,これらはQEの動向とも整合的であるようなので、今後活用いただければと思う。

    最後に、7月の商業販売統計速報についてであるが、小売は前年比マイナスであるが、卸売業が回復している。これは、輸出に関する卸売業が含まれているからであることに言及しておきたい。

(文責・経済政策グループ)


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