景気関連インフォメーション

1998年3月分


第137回 景気動向専門部会・議事概要(3月2日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 「最近の経済情勢等について」
    小口・大蔵省大臣官房調査企画課企画官
  2. 「7ヶ国蔵相・中央銀行総裁会合声明(98年2月21日)」について説明する。今回の声明は、大別して二つの部分から成る。第一の部分は、世界経済動向のサーベイランスであり、第二の部分は、アジア危機に対応した部分である。
    第一の部分では、G7諸国を(1)米・英・加、(2)独・仏・伊、(3)日本に分けて動向を整理したが、日本が個別に取り上げられたことが大きく報道された。日本の経済情勢については、各国から様々な意見があったが、最終的には「IMFの見方では」とした上で、「今や、1998年における経済活動を下支えするため、財政刺激の強い理由がある。(仮訳)」との表現が盛り込まれた。日本からは、2兆円特別減税、法人税引き下げ等の税制改正、97年度補正予算、30兆円の金融システム安定化策等を講じていること、また今後については、来年度予算を成立させることが最優先の課題との説明を行った。
    第二の部分では、長時間の議論の末、混乱の渦中にある国の積極的な改革と、IMF等国際機関の支援が最善の対策であり、またこれをG7としてもサポートしていくことを表明した。
    わが国に対しては、景気刺激策に関する要望も強いようだが、政府としては、金融システム安定化のための30兆円の公的資金投入、既に成立した補正予算の効果等とともに、現在、進められている来年度予算案の成立の重要性について説明している。金融システム安定化法案の審議等の影響で、予算案の審議スタートが三週間ほど遅れている。これをできるだけ早く成立させて頂きたいというのが、現在の政府の強い希望である。

  3. 「最近の雇用動向について」
    村木・労働省労働経済課長
  4. 先週の金曜日に、男性失業率 3.7%ということが大きく報道された。景気が思わしくない中で、雇用不安に対する世間の懸念を敏感に捉えた記事なのだろう。
    雇用動向には、いくつか気になる点がある。確かに男性の状況は良くない。有効求人倍率もじりじりと悪化してきている。先行指標といえる新規求人倍率も同様で、先行き厳しい状況である。求人倍率の悪化は、求人側、労働需要の弱さを反映している。また、所定外労働時間がマイナスを続けていることも気になる。
    ただ、全体の水準としては、ここのところ失業率は 3.5%程度で推移しており、経済情勢の悪化が、ここに来て急に雇用に厳しく効いてきているわけではない。また、前回の失業率のピークであった87年1月と比較すると、

    1. 若年層・高齢者層の失業率が高まっていることが全体の失業率を高めている、
    2. 中年層、世帯主失業率はあまり違いがない、
    という事実から、日本の世帯を支える中堅の世代の首が次々に切られているというようなイメージを抱くのは間違いである。
    年度末にかけて、失業率が4%を超える水準になることは想定されるか、というと、ひとえに景気がどうなるかに依存する。年度末にかけて、更に景気が暗くなった場合には、企業の雇用過剰感がもう一段悪化し、失業が増加することもありえる。特に、今後注目なのは、建設業関連からどの程度失業者が出、それがどの程度サービス業等で吸収できるかということだろう。

  5. 「最近の経済金融情勢について」
    早川・日本銀行経調査課長
  6. ここ2ヶ月の間に出てきた数字で、昨年11月以来の金融破綻やアジア経済の悪化によって発生したショックが確認できるようになってきた。
    第一に、消費についてである。11〜12月分の家計調査により、貯蓄率が上昇していることがはっきりした。将来不安が消費マインドを悪化させ、貯蓄率上昇につながっている。これは12月の消費動向調査にある消費マインド指数が大幅に悪化していることからもわかる。なお、消費マインド指数は、昨年3月と12月に悪化している。3月の方は、消費税引き上げ直前であり、物価上昇を控え、耐久消費財購買意欲が下がったのは、当然であろう。一方、今回悪化した理由は、明らかに雇用である。しかもこれは、拓銀等一連のショックによって引き起こされた、perceptionとしての雇用悪化である。ちなみに現実の数字は、年明け1〜2月に入り、改善はしていないが、一段と悪化したという状況にはなく、横ばいである。
    第二に、輸出入についてである。全般的にいえば、輸出は依然として増勢、輸入はほぼ横ばいである。数字を国別に見ると、アジア経済悪化の影響がわかる。ASEANへの輸出が夏場以降弱含み、韓国への輸出も12〜1月に急速に悪化している中でまだ輸出増勢なのは、欧米向けが健闘しているからである。輸入については、アジア各国は通貨切り下げにより国際競争力が強まっているが、外貨ファイナンスができないために、原材料部品が調達できず、輸出に繋がっていないようだ。従って、現時点では、アジア危機はわが国純輸出に対しては影響を及ぼしていない。とはいえ、これは一つのフェーズである。今後、アジア諸国にファイナンスがつけば、アジアからの輸出増勢局面があるはずである。また、アジア各国の輸出入データを見ると、輸出はそれほど落ち込んでいない。これは、日本以外への輸出を増加させる傾向にあることを示している。この意味では、G7等で日本が文句を言われるのは仕方ない面がある。
    第三に、設備投資動向についてである。従来、日本経済を牽引してきたのは、輸出と設備投資であったが、設備投資は明らかに昨年9〜12月の間におかしくなってきた。機械受注統計調査の10〜12月は前期比増の予想だったが、締めてみると減少に転じた。法人企業動向調査も、9月調査時点では10〜12月、1月〜3月とも前期比増の見通しであったものの、12月調査では、10〜12月、1〜3月、4〜6月と3期連続のマイナスに転じた。どうも昨年秋から年末にかけて変調、つまり個人消費と同様の消極化が、企業マインドにも起こっている可能性がある。なお、98年度設備投資計画についてだが、日債銀調査を見る限り、それほど弱い数字ではない。機械受注統計調査や法人企業動向調査の先行指標系列が弱いことと、設備投資の年度計画がそれほど悪くないことをどのように解釈するかであるが、私は、金融破綻やアジア危機により、企業が設備投資に慎重になり、足元の発注では、先延ばしできるものは延ばしておこうという動きになったため、先行指標が弱く出た。しかし、現時点では中期的な設備投資計画を取り消すところまでは行っていない。そして、今後の景気動向、経済対策次第では、設備投資計画も本格的に弱含む可能性がある、と見ている。
    第四は、生産についてである。理由は不明であるが、1月はそこそこ増加したが、1〜3月は、微増ないしは微減であると思われ、弱含みという表現が正しいだろう。
    第五は、労働需給についてである。日銀も、新聞で伝えられているほど悪いとは認識していない。ただ、そもそも労働需給を見る時に、失業率はあまり景気感応的な指標ではない。景気が良い時も下がらなかったし、悪化してもそう上がっていない。求人倍率を見る方が適切なのではないか。
    その他、卸売物価指数については、第一に、在庫調整局面にあること、第二に、石油等の国際商品市況が低迷していることから、弱いと見ている。しかし、卸売物価指数の下落が、即ち全体的な物価の下落とは考えていない。現在、消費者物価指数も幾分下がっているが、内容を見ると、ガソリンと農産物の物価下落が効いているのであって、それ以外が下がっているわけではない。なお、95年にデフレリスクが叫ばれた時があったが、この時は川下、即ち安い最終財が輸入で直接入ってくるという形であった。よって消費者物価指数は下がったが、卸売物価指数はあまり下がらなかった。今回は、川上から川下へ伝播する形であり、消費者物価指数が急激に下がる状況にはない。企業としては、前者の方が収益をsqueezeされる。とはいえ、価格指数については、下がる方向に注意して見ていく必要があるとは考えている。
    最後に「貸し渋り」についてだが、第一に、「貸し渋り」が発生していることは間違いない。第二に、マクロで信用収縮が発生しているとは考えていない。マネーサプライの伸び率も7年振りの高水準である。銀行貸出しも一段と減少しているということはない。ミクロで「貸し渋り」があり、マクロで信用収縮がない理由は、「資金偏在」だろう。大企業の多くは、「貸し渋り」が起こるという情報のもと、資金借り入れを久々に増加させ、関連企業分も手当てしようとして動いている。これは、オイルショック時のトイレットペーパー騒ぎに似ている。トイレットペーパーの量自体は決して減少していないが、持っている人と、持っていない人がいるということだ。大企業のこうした行動は、ミクロ的には正しいのだろうが、もう少し冷静になってほしい。なお、沢山持っている人が、沢山使う状況にないことも、付け加えておく。

(文責・経済政策グループ)


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