景気関連インフォメーション

1998年6月分


第140回 景気動向専門部会・議事概要(6月2日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 「最近の経済情勢等について」
    大蔵省 小口・大臣官房企画調査課企画官
  2. 3月末に与党が総合経済対策の基本方針を発表し、4月24日には総事業規模16兆円を超える対策が取りまとめられた。この間、4月にG7、OECD閣僚理事会、5月にはサミットが開催され、一連の国際会議の場で日本の内需主導型景気回復に向けた取組みを説明し、各国の支持を得た。サミットの議長声明では、「日本政府の大規模な経済政策パッケージ及びその実施に向けた進展を、強く歓迎する」との文言が盛り込まれている。
    マクロ政策のパッケージが公表されたため、主要国の関心は構造問題への対応に移ってきている。日本自身も、力強い景気の回復を実現するために構造問題に取組む方針を説明してきている。
    特に、不良債権処理による金融システムの強化が重要。この問題については、政府・与党が一致団結して取組むことが確認されており、5月22日には金融再生トータルプラン推進協議会が設置された。28日には中間とりまとめが発表されている。
    不良債権問題については、「適正な引当・償却の実施」、「ディスクロージャーの徹底」が基本方針で、特に最近、「不良債権を銀行のバランスシートから切りはなすこと」が焦点になってきている。今回の中間とりまとめでは、臨時不動産関係権利調整委員会の整備、債権放棄に係る税務上の取扱い、競売手続の迅速・円滑化、サービサー創設、共同債権買取機構の機能拡充など、計8項目を重要課題としている。現在は、政府・与党において具体策を早急に詰めている段階である。

  3. 「鉱工業生産指数(98年4月分)について」
    通産省 中西・統計解析課長
  4. 3月分の確報から、指数を95年基準に切り替えた。旧基準と比べて、月次のアップダウン・変化の方向が、特に大きく変わったわけではない。また従来から、統計の生データを多く掲載して欲しいとの要望があったので、今回発表分から業種別に原指数の時系列データ等も加えるように拡充した。今回の改訂では、新世代統計システム(統計調査のオンライン化)の導入も視野に入れながら、大幅な改善を図った。
    生産の総括判断は、4月の「低下傾向」を踏襲した。生産予測調査では5月、6月とプラスの予想であり、久し振りに明るいデータが出てきた一方で、在庫指数や在庫率は引き続き上昇しており、実現率・予測修正率もマイナスとなるなど、明暗交錯している。
    4月の生産指数の低下は、3月に大きく伸びた品目の反動減が一部影響しているものの、基本的には需要の弱い動きを反映したものと考えている。在庫率は、第一次オイルショック後に続く高い水準である。
    5、6月の生産予測がプラスになったとはいえ、これまで大きく下がってきたあとの反動という側面もあり、先行きは慎重に見ておく必要がある。個人的には、経済対策の効果なども踏まえた前向きな結果と捉えたいところではある。
    4月の商業販売統計では、小売業の販売額が前年比0.5%の減少となった。ただし、ガソリンや家電などの価格が大幅に下がっていることが影響しており、価格の影響を除けばプラスになると分析をしている。
    IIPの四半期毎の分析は来週月曜日に公表する。

  5. 「最近の雇用動向について」
    労働省 村木・労働経済課長
  6. 失業率が初めて4%台に乗った。水準自体もさる事ながら、上昇ピッチが非常に早い。3ヶ月で0.5ポイントも上昇しており、従来には見られない状況である。
    失業率上昇の要因は、まず、雇用指標が景気の遅行指標であるということ。昨年末からの景気の悪化を反映して、倒産や業績の急激な悪化により、非自発的失業がこのところ増加傾向にある。また、雇用需要が減退しており、これが失業者の滞留につながっている。特に製造業で雇用需要の減退が著しい。さらに、平成5-7年には製造業の雇用悪化を建設業でカバーしていたのだが、今回、建設業はご承知の通りの状況であり、雇用を吸収する業種が見当たらない。サービス業も、このところ増加幅が小さくなっている。
    このように、現在の景気の悪化が失業増加につながっていることに加え、景気の先行き不透明感の高まりが常用雇用に影響している。さらに、このような状況にもかかわらず、若年層の自発的失業も減っていないという、やや構造的な要因も加わっている。
    では、こうした現状が、マスコミで言われているような日本型雇用システムの崩壊を意味するのかどうかというと、今の段階ではまだ明らかな証拠はないと思う。例えば、今年の2月に企業にアンケートを行なったところ、「雇用を維持する」という企業の態度に変わりはなかった。また、毎月勤労統計で雇用の出入りを見ると、入職率が落ちている(採用抑制)一方で、離職率はそれほど変化はなく、企業がどんどん解雇を行なっているという状況ではない。この統計には倒産した企業は含まれておらず、非自発的失業の増大はそれによるところが大きいのではないか。
    一方で、パートタイマーの増加など、就業形態の多様化は着実に進んでいる。この背景には、(1)企業側のコスト削減意欲の高まり、(2)若年層や女性などのパートタイマー志向、といった労働需給両面の要因がある。なお、パートタイマーは転職率の高い雇用形態であり、パート比率の上昇は失業率を高める要因である。
    最後に、気になる指標として、定期賃金がこの4月に統計始まって以来のマイナスになった。この結果、消費税率引き上げの影響が一巡したにもかかわらず、実質賃金のマイナスが続いている。ただし、これを賃金面もデフレスパイラルに入ったと判断するのは早計である。中身を見ると、賃金が下がっている理由の一つは残業代の減少である。さらにパート比率が上がっていることも大きな要因。パートと常雇それぞれの賃金はプラスであり、構成比の変化がマイナスに効いている。もちろん、企業のコスト削減意欲が強いのは事実であり、企業業績から考えて、残業代・賞与の増加が期待出来ない以上、給与手取り総額はあまり増えない可能性は高い。これが個人消費にどう影響していくのか、懸念されるところである。

  7. 「最近の経済金融情勢について」
    日本銀行 早川・経済調査課課長
  8. 先月のこの場で、夏場までは悪い数字が出ると覚悟しておいた方がよいと申し上げたが、実際、そのような数字が出ているようだ。
    現在の景気の悪化は、昨年度初来の財政ショックではなく、昨年末にかけての金融不安やアジア向け輸出減の影響が大きい。これが生産・雇用に波及しているところであり、数字になって表れている。需要は足元でどんどん悪化しているというわけではないが、さりとて上向いているわけでもない。生産についても、4-6月期はかなりの減産が行なわれるものと思っている。
    雇用については、思いのほか悪化のスピードが速くて驚いている。明確な結論は出ていないが、製造業については、93、94年の厳しいリストラのあと、やや景気が上向いてきた時に増やしたのがパートや季節工だったため、こうした調整スピードの早い雇用が現在減っているということではないか。この点については、いわば循環的要因ということで、景気が回復すれば再び増えてくると考えられるから、あまり心配はしていない。ただ、倒産による失業の増加は懸念事項である。中小非製造業は、需要の動向からみて厳しい経営環境が続くと見込まれるし、金融機関も厳しい。循環的に景気が悪化している状況下では、構造的に出てくる失業を吸収する力が弱い。建設雇用については、経済対策の効果が出てくれば、悪化が止まると思われるが。
    先月お話しした3つのフェーズを考えると、第1、第2のフェーズについては見方を変える必要はなさそうである。第3のフェーズについても、不良債権処理が事実上の国際公約になり、きっちり取り組む土壌が整ってきたようなので、一方的に悲観する必要はないと考えている。
    デフレ懸念については、卸売物価がマイナスであり、消費者物価やサービス物価も前年比ゼロ近傍と、全般に物価は軟調である。ただし、今、デフレスパイラルをことさらに強調することに重要な意味があるのかどうかは疑問である。
    日銀は95年当時にデフレ懸念について指摘したことがある。この当時は、数量自体はそれほど弱くなかったが、円高による輸入品の増加で最終財物価が下がっていた。つまり、販売価格の下落が収益悪化などを通じて数量景気の腰を折る可能性があるということで、物価動向が非常に重要なファクターであった。
    翻ってみるに、今の軟調な物価動向は、単に景気が悪いことを反映しているだけではないか。また、企業の交易条件自体は改善しており、企業収益を要因分解すると、数量がマイナスに効いている一方、価格はむしろ収益の押し上げに効いている。価格の下落だけをことさら強調する意味合いには乏しいのではないか。

(文責・経済政策グループ)


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