景気関連インフォメーション

1998年9月分


第142回 景気動向専門部会・議事概要(9月1日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 「景気動向指数(98年6月分)について」
    経済企画庁 淺見・景気統計調査課長
  2. 景気の現状を示す一致系列は30.0となり、11ヶ月連続の50%割れとなった。景気の厳しい現状がこの景気動向指数にも現れている。今月プラスとなった指標が3つ(百貨店販売額、商業販売指数、大口電力使用量)あるが、そもそもレベルの低かった3月との比較で上向いたという面もあり、留意が必要。
    次に先行系列については、最終需要財在庫率と乗用車新車登録台数、日経商品指数がプラスになった。
    来月発表分(7月分)の数字について、7月の鉱工業生産速報を見る限りでは、一致系列が50を上回ることは難しいと思う。先行指数は多少上がる可能性がある。なお、昨今の統計公表速報化という要請を踏まえ、景気動向指数も10月公表分から発表時期を2週間程度早める予定である。

  3. 「最近の経済情勢等について」
    大蔵省 松田・調査企画課企画官
  4. 今月は大蔵省関連の経済指標がないので、(1)金融再生トータルプランと(2)来年度予算の概算要求の基本方針について説明する。
    金融関連対策としては、預金の全額保護を図るための体制の整備と、金融危機時における緊急措置としての金融機関の自己資本充実による金融システムの安定化を図るための30兆円の公的資金の活用を含む金融安定化2法案が、既に2月に成立したところ。更に、金融の安定と再生を図るためには、金融機関の不良債権の抜本的処理を促していくことが必要ということでとりまとめられたのが、金融再生トータルプラン。まず6月の第1次とりまとめにおいて、

    1. 債権債務関係の迅速・円滑な処理、
    2. 土地、債権の流動化、
    3. 土地の整形・集約化と都市再開発の促進や、公的土地需要の創出による土地の有効利用、
    という3点について具体的施策を打ち出した。7月初めの第2次とりまとめでは、透明性・情報開示の向上と銀行監督や健全性原則の強化等のための措置をとりまとめ、不良債権の抜本的な処理の過程の中で、金融の再生と安定を図り、内外の信認を確保することとした。また、不良債権抜本処理の過程で経営困難に陥る金融機関が出てくることが予想されるが、その際にも預金者保護、金融システムの安定、及び善意で健全な借り手に対する適切な配慮に万全を期するという観点から、いわゆるブリッジバンク制度の導入も打ち出した。
    次に、財政面の対応について、概算要求に当っての基本方針は「景気回復に全力を尽くす」ということ。財政構造改革法の凍結を前提として、総合経済対策・10年度1次補正を着実に執行するとともに、今後予定している2次補正と11年度予算を一体のものとして編成する。当面の景気への配慮ということでは、総額4兆円の景気対策臨時緊急特別枠を設定している。これによって公共事業については、予算計上の年度区分ベースではなく、現実の予算支出ベースに着目し、その執行額が、11年度は10年度を実質的に上回るよう、配慮がなされることになった。また、中期的な観点から、経済再生への配意ということで、科学技術振興費について+5%の伸びを確保するとともに、情報通信・科学技術・環境等21世紀発展基盤整備特別枠(1500億円)を設定した。一方、少子高齢化対応として社会保障関係費は5700億円増とした。その他の主要経費については、引き続き合理化・効率化・重点化を図る。公共事業は、前年度同額という原則基準のなかで、総額5千億円の重点化枠を設けた。これによって、来年度にかけて切れ目なく予算を執行していくことになる。

  5. 「鉱工業生産指数(98年7月分)について」
    通産省 池谷・統計解析課長
  6. 鉱工業生産は、急激な減少はやわらいでいるものの、なお低下傾向にあるというのが総括判断である。
    7月の生産は前月比▲0.8%となり、2ヶ月ぶりに低下した。業種別には、輸送機械工業、金属製品工業など、11の業種で低下している。出荷指数も生産と同様、多くの業種で低下した。在庫は▲0.8%と、3ヶ月連続の低下となった。在庫指数はこれまで前年比でプラスが続いていたが、7月は前年水準並みにまで戻ってきており、在庫調整がある程度進展している姿がうかがえる。なお、出荷、在庫指数ともに低下したため、在庫率は前月比横ばいである。
    製造工業の生産予測調査結果によると、8月に0.4%減少ののち9月は2.5%の大幅増が見込まれている。8月の低下は機械工業の生産減が影響している。一方、9月は、季調済前月比で輸送機械・半導体関連などの電機機械、窯業・土石製品関連などの幅広い業種で増産が見込まれている。ただし、この予測調査には最近の大雨や国際経済情勢の動揺は反映されていないので注意が必要である。予測通りにいけば、四半期ベースで生産指数が下げ止まることになるが、実現率・予測修正率は引き続きマイナス傾向が続いているため、予測通りになるかどうか楽観を許さないところ。
    全体としては在庫調整はある程度進んでいるが、生産財の調整の遅れが気がかりである。このところ、生産財と最終需要財との調整の跛行性が際立っている。生産財中心に在庫調整圧力はまだまだ強いとみている。

  7. 「最近の雇用動向について」
    労働省 村木・労働経済課長
  8. 7月の失業率は若干低下した(6月:4.3%→7月:4.1%)。失業率の低下は、昨年6月以来、ほぼ1年ぶりのことである。しかし、下がったとはいえ内容は悪い。雇用需要が増えて失業率が下がったわけではなく、労働力率が下がったことが大きく影響している。つまり、これまで職探しをしていた人が、景気の低迷により職探しをあきらめて非労働力化している様子であり、決して良い兆しではない。
    オイルショックの頃には、労働力率の低下は主に女性に顕著に見られた現象(不況になると家庭に帰るという構図)。しかし、今回は男性の労働力率の低下が早かった。特に高齢者で下がっているのだが、定年を迎えたものの再就職がなかなか進まず、年金生活に入ってしまったという姿が想像される。今回の不況では、女性の労働力率はあまり下がっていなかったのだが、これは

    1. 夫の雇用不安・賃金伸び悩みにより、妻が働きに出ていた、
    2. 労働需要側の要因として、パートタイマー需要が旺盛であった、
    などの理由が考えられる。しかし、ここに来てさすがにパート需要も落ちはじめ、女性の労働力率が下がってきている。
    失業率が今後ドンドン上がり続けるとは思わないが、さりとて低下を続けるとも思えず、しばらくは高水準が続くというところか。失業率は遅行指標なので、経済対策の効果が出始めてしばらくしてから下がってくるとみるのが妥当である。
    他方、賃金の動向も心配である。実質賃金は昨年からずっとマイナスが続いている。今年の3月までは消費税率引き上げの影響(物価の上昇)でマイナスだったのだが、4月以降は名目賃金自体の減少が影響している。7月の現金給与総額は前年比▲2.5%と、かなり大きな落ち込みを記録した。最大の原因はボーナスの減少である。特に中小企業のボーナスが悪い様子。2つ目の理由としては残業代が減っていること。3つ目には基本給自体の伸びが低いこと。7月の所定内給与は統計開始以来初の前年割れとなった。ベアが低い伸びにとどまったことに加え、パート比率の上昇も影響している。
    賃金の今後については、残業代のマイナスはまだ続くと見込まれるし、ベアの影響は1年間残る。パート比率もしばらく高水準が見込まれることも考え合わせれば、先行きはなお注意してみておく必要がある。

  9. 「最近の経済金融情勢について」
    日本銀行 早川・経済調査課課長
  10. 景気の現状は堺屋長官流に言えば「はなはだ厳しい」ということだろうが、落ちるスピードは弱まってきたのではないか。
    その中で、経済の質的な側面に注目すると、ますます中小企業不況の様相を呈してきているように思われる。長信銀の設備投資アンケート調査を見ると、機械受注など設備投資の先行指標の悪化に比べてそれほど悪い結果は出ていない。しかし、これは大企業の設備投資はそれほど悪くないということであり、これらのアンケートに反映されていない中小の設備がかなり悪いということである。実際、同じアンケート調査でも中小企業庁の調査結果はかなり悪い。
    このような傾向は雇用指標を見ても同様である。毎月勤労統計を見ると、これまで増加していた事業所規模5〜30人(=中小企業)の雇用が、この4-6月期から減少に転じている。
    経済の先行きについては、総需要、金融、構造問題の3つの観点から考える必要がある。まず総需要については、経済対策の効果がそろそろ見え始めてよい頃である。在庫調整も進んでおり、経済の悪化には歯止めがかかってくると思われる。財革法の凍結が表明されていることも、財政面からの下支え継続という意味で安心材料である。
    次に金融に関しては、ご承知の通り世界的に株価が急落している。ロシアが引き金と言われているが、ロシア自体は大きな経済ではない。米国株についても、そもそも高過ぎだと言われ続けていた。楽観的に捉えれば、2割程度の株価の調整は大した事はないという見方も可能。しかし、ロシアの輸入は一次産品中心であり、産出国である米州にはある程度の影響はあるかもしれない。また、米国株の調整がこれで止まるかどうかも不確実である。これら海外要因はともかく、問題はわが国である。これまでの株価下落の根っこにはわが国の金融システム不安があり、最近の世界的な株価調整の影響はごく僅かにすぎない。
    これらの問題を仮にクリアできたとして、最後に残るのは、質的側面としての中小企業問題である。大企業については、収益体質の改善が進んでいるので、生産さえ上向けば収益も回復に向かうだろうが、中小についてはどうか?その意味では、来年にかけて自律回復の姿を明確に描くのは、現時点ではなかなか困難ではないかという気がしている。

(文責・経済政策グループ)


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