景気関連インフォメーション

1998年11月分


第144回 景気動向専門部会・議事概要(11月 5日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 「消費動向調査(98年9月実施分)について」
    経済企画庁 淺見・景気統計調査課長
  2. 需要面では、経済対策の効果がようやく官公需統計に現れてきた。一方、民需は引続き低調であり、その背景として消費マインドの低迷が指摘されている。
    経済企画庁で四半期に一度実施している消費動向調査では、「暮らし向き」、「収入の増え方」、「物価の上がり方」、「雇用環境」、「耐久消費財の買い時判断」の5項目について今後半年間の見通しを5段階評価で回答してもらい、これを合成して消費者態度指数を作成している。
    9月調査では、全5項目が6月調査比で悪化した。しかも、「暮らし向き」、「収入の増え方」、「雇用環境」の3項目は、統計開始以来、最悪の指数レベルである。消費者態度指数の低下に最も寄与したのは「雇用環境」であり、次いで「耐久財の買い時判断」である。耐久財については、価格は低下傾向ながら、ボーナスが厳しいという見通し等を織り込んだ判断と思われる。「物価の上がり方」については、大雨による生鮮野菜の高騰などから、これ以上の物価の下落は見込めないと思った世帯が多かったのではないか。世帯属性別には、単身世帯、一般世帯ともに、消費者態度指数の前年比悪化幅が拡大している。
    総じて消費者マインドは弱く、これが実際の購買行動にどのように影響するのか、引き続き注意していく。

  3. 「鉱工業生産指数(98年9月分)について」
    通産省 池谷・統計解析課長
  4. 8月までの生産の低下がやわらいできていることから、総括判断を「低下傾向」から「このところ停滞」と改めた。
    9月の生産は前月比2.5%の大幅上昇となり、在庫、在庫率は低下した。生産指数の上昇はほぼ全ての業種にわたっているが、特に全体を押し上げたのが電気機械、輸送機械、金属製品である。電気機械では主に液晶、エアコン、パソコン等による。輸送機械では、鉄道車両、乗用車が上昇要因。
    明るい材料として指摘できるのは、第一に、過去2ヶ月上昇していた在庫率が低下に転じたこと。第二に、これまで遅れていた生産財の在庫調整が、そこそこ進展してきたこと。
    一方、暗い材料としては、生産水準がまだまだ低レベルにあること。足元の生産指数は平成6年あたりの緩やかな回復局面のレベルである。二つ目に、在庫率が未だ第一次石油危機以来の高水準にあること。在庫管理技術の進展にも関わらず在庫率がこのレベルにあるということは、企業の在庫過剰感はかなり高いものと推察される。
    予測調査結果によると、10月、11月と生産減少の見込みであるが、2ヶ月とも寄与しているのは鉄鋼業と機械工業である。鉄鋼については、内需低調のなかで、輸出環境が厳しくなってきていることを織り込んだ予測とみられる。電機機械工業は10月にかなり大幅な生産低下を見込んでいるが、9月に大幅に上昇した反動や、基調としての弱さを反映したものと思われる。ただし、実現率、予測修正率はこのところプラスで推移しており、固めの予測を出してきているように思われる。輸送機械工業については、10月は軽自動車の増産等により大幅上昇の見込み。ただし、11月は大幅低下を見込んでおり、基調としては力強さに欠ける。
    全体として、実現率、予測修正率のマイナス幅が小さくなってきていることは好材料である。ただし、この予測調査は10月半ばの調査結果であり、為替レートの急上昇がどこまで反映されているのか、多少割り引いて考える必要がある。総括として、引き続き在庫の負担や需要の低迷に企業は苦労されている時期と認識している。

  5. 「最近の経済情勢等について」
    大蔵省 松田・調査企画課企画官
  6. 10月3日にG7が行われ声明が出された。声明の背景には、金融市場の混乱により世界経済が大きなダウンサイドリスクに直面しているとの、各国の認識がある。ここで合意されたのは、

    1. G7諸国がそれぞれ直面する課題を解決しつつ、持続可能な成長を実現する努力を継続すること、
    2. 新興市場国における改革努力を引き続き支援し、それぞれの市場ごとの相違を認識しつつ対応すること、
    3. IMFの増資を実現すること、
    4. 国際金融システムの全般的改善について、各国首脳への報告の準備作業を大蔵大臣・中央銀行総裁レベルで進めていくこと。
    同じ日に、いわゆる新宮沢構想も発表された。これは、アジア諸国に対する中長期の資金支援として150億ドル、短期の資金繰り支援策として150億ドル、計300億ドルのスキームである。通貨危機に見舞われたアジア諸国の経済回復は、世界経済、日本経済にとって大変重要である。
    10月30日のG7緊急声明は、国際金融システムの強化に対する対応を述べたもの。金融危機の防止策として、
    1. 金融業務に関する透明性と開放性の向上、
    2. ヘッジファンド等の国際的投資家を対象とした国際原則基準、国際的監視の拡張、
    3. 新興市場諸国における資本市場の開放については、慎重かつ順序づけられた方法で行わなければならないこと、
    を示した。また将来的な課題として、金融機関に対する規制の強化やIMFの改善・強化を検討することも打ち出した。
    私見であるが、世界的な潮流として、これまでは米国資本の利益に即する流れで市場万能主義のような考え方が行き渡ってきたが、ここへ来てその見直しが行われつつあるという印象がある。ドイツなど欧州主要国の政治状況やG7等での議論を見ても、市場に対して一定のコントロールを加えて行こうというのが世界的な流れとなりつつあり、振れ過ぎた振り子を戻そうとする流れができているようだ。ユーロの誕生で欧州はドル世界とは異なる独自路線を歩もうとしている。日本は、米国流市場原理主義の信奉者の感もあるが、これ以上システム不安が続けば、経済の低迷が続いてしまうことになる。
    わが国の金融関連法案の成立については、10月30日の声明で高く評価されており、銀行の資本増強を含むこのプロセスが日本及びアジア地域全体における成長の回復のための前提条件であるとされている。一方、景気対策については、「持続的な内需刺激」という文言であり、「財政刺激策」とは表現されていない。つまり、すでに十分な財政的な手当てを講じていくことをわが国政府はこれまで表明してきており、それ以上の財政追加策が必要である旨がG7等で合意されたという事実はない。舞台裏では、米国はそれ以上の「更なる財政追加」を主張することが多いが、財政状況の悪化が将来的な国民負担増をもたらすことに対する不安も民間経済主体のマインド悪化の原因の一つとなっている、ということにも十分に配慮しなければならないと思われる。
    これも私見であるが、歴史を振り返ると、80年代後半も、当時は対外不均衡是正ということもあって、米国等からも景気刺激策につき強い対日要求がなされ、累次にわたる内需拡大策がとられたが、既に景気が回復局面に入っていた87年5月の財政措置6兆円の対策の直後の同年夏頃から、「内需が爆発」などと言われるようになり、わが国はバブル経済となっていった。このバブルがその後の深刻な不況や不良債権問題につながっていった。よく言われるように、大蔵省が財政再建を優先して内需拡大を金融政策に押し付けたことがバブルの原因とされているが、これは事実認識の誤りで、当時は、財政出動を始めあらゆる政策が総動員されてバブルにつながった。
    今般については、既に10月6日に総理からの指示があり、10月27日には緊急経済対策を11月16日にまとめることが決められた。4兆円の景気対策特別枠を中心に編成する第3次補正予算を中心に事業規模10兆円を上回る規模の対策が策定されることになると見込まれる。その結果、国債依存度は相当高まることになり、今度は「財政赤字の爆発」を招くことになりかねないという側面にも今後配慮が必要となってくるだろう。但し、現下の局面においては、景気回復が最優先ということで、緊急経済対策の策定により、わが国経済の再生を図ることとなる。

  7. 「最近の雇用動向について」
    労働省 村木・労働経済課長
  8. 一言で言うと、雇用情勢は大変厳しい状況が続いている。
    これまでの動きをやや長めに振り返ってみると、年前半は急激に雇用情勢が悪化した。失業率は、昨年10−12月期には3.5%だったのが、2月頃から上昇し始め、4−6月期には4.2%にまで高まった。1四半期で0.6ポイントも上がったのは、これまでにない現象である。雇用者数は、昨年後半までは年間50万人のペースで増えていたが、今年の第1四半期には1万人増のペースにまで鈍化し、4−6月期には前年比35万人の減少に転じた。このような動きは賃金面にも現れており、現金給与総額は昨年まで前年比プラスを保っていたのに、1−3月期ではほぼ横ばい、4月以降は前年割れが続いている。
    今年後半については、水準は依然として厳しいが、動きとしては年前半と異なってきている。失業率が4−6月期の4.2%から7−9月期は4.3%へ、雇用者数も同前年比35万人減から36万人減へと、年前半のような急激な悪化は一応止まってきている。5、6月頃には、年末にも失業率は5%台に突入するという悲観的な見方がマスコミ等に見られたが、そこまでには至っていないという現状である。
    ただし、先行きが明るいと考えるわけにはいかない。雇用情勢が引き続き厳しいレベルにあることは間違いないし、中小企業の雇用に悪いサインが出てきている。また、パート中心に比較的堅調だった女性労働についても、足元では労働市場からの退出により労働力率が下がってきている(これが失業率上昇の歯止めになっている)。3つ目に、企業の雇用過剰感が強く、個別企業ベースで雇用調整が計画されている。これは、やや中期的・構造的な動きとしてのリストラと理解している。4つ目に景気の停滞、特に先行き不透明感が払拭されていない。
    以上を踏まえると、雇用については厳しい状況が続くことを覚悟しておいた方が良い。

  9. 「最近の経済金融情勢について」
    日本銀行 鵜飼・調査役
  10. 経済対策の効果としては、公共工事請負統計がこの8月、9月にプラスとなり、ようやく動き出してきた感あり。追加経済対策や金融緩和の効果等により、景気の悪化テンポがやわらぐことが期待されるが、速やかな景気回復は期待しがたいということを、これまでも申し上げてきたところ。
    まず設備投資は、GDPベースで見て、この1−3、4−6月期と、戦後最も速いペースで減少した。機械受注等から判断すれば、設備投資の減少がしばらく続く見通しである。平成6年頃の設備投資の増え方は控えめだったにもかかわらず、今年に入って大幅な調整が生じている。その背景として、一つ目に、中小・非製造業の不振がある。収益の悪化に加え、金融機関の貸出態度厳格化により、中小非製造の設備投資減少に拍車がかかった。二つ目に、最終需要の低迷から稼働率が低下し、設備の過剰感が大企業も含めて高まっている。先行きについては、

    1. 最近の円高が続いた場合の輸出産業の収益下振れリスク、
    2. 景気の低迷が長引いた場合の期待成長率の低下、
    などが設備投資調整をさらに深くする懸念がある。
    次に個人消費については、これまでのところ一進一退ながら、最近では悪い数字が増えている印象がある。家電販売は良いが、百貨店・スーパーの売上げのマイナス幅は拡大しており、10月の新車登録も振るわない。背景には、雇用情勢の悪化がある。これは、基本的には、大企業の採用抑制が続く中で、中小企業の雇用吸収力が急速に衰えてきたことによる部分が大きい。また、最近では、大企業もリストラによる雇用削減姿勢を強めつつある。
    景気の先行きについて、心配事の一つは輸出である。アジア経済の底が見えない中で、米国経済がどうなるのか不透明な状況である。米国は、実体経済指標を見る限り引き続き堅調だが、金融面において、安全志向の強まりなど、変化が顕著に見られる。さらに、繋がりの深い中南米、特にブラジル経済の緊縮財政・高金利による影響が米国にどう出るのか。このあたりを注視しなければいけない。世界経済は米国経済に牽引されていただけに、米国の動向は、世界全体の需給バランスへの影響という観点からも軽視できない。

(文責・経済政策グループ)


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