景気関連インフォメーション

1998年12月分


第145回 景気動向専門部会・議事概要(12月 2日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 「最近の経済情勢等について」
    大蔵省 松田・調査企画課企画官
  2. 今般の緊急経済対策は、日本経済を一両年内に回復軌道に乗せる第一歩として立案されたもの。今回の対策の特徴の一つは、経済再生の道筋を明示したこと。すなわち、10年度は現下の厳しい状況から脱却する年であり、11年度にはプラス成長に転換、12年度に回復軌道に乗せ、13年度からは民需中心の安定的成長軌道に乗る、という道筋である。対策の柱は、(1)金融システムの安定化・信用収縮対策、(2)21世紀型社会の構築に資する景気回復策、(3)世界経済リスクへの対応、の3つ。

    (1)については、金融機関の資本増強制度の実効ある運用や、中堅企業向けの貸し渋り対策などを盛り込んでいる。(2)については、21世紀型という理念を示しているのが目新しい点。いくつかのプロジェクトやプラン等を呈示し、社会資本整備などの個別の需要刺激策も、それらを実現する手段として位置づけられている。社会資本整備に関しては、景気回復に即効性があること、民間投資の誘発効果が大きく地域の雇用の安定的確保に資すること、21世紀を見据えて真に必要な分野に重点化すること、の3点を基本原則としている。この他、住宅投資促進策、雇用対策、所得税・法人税減税等も盛り込まれた。(3)については、アジア通貨危機への対応、アジアの現地日系企業支援策が柱である。

    今回の対策は事業規模で17兆円超、これに減税(6兆円超)も加えれば、総額20兆円を大きく上回る規模(23.9兆円程度)の対策である。この対策の効果については、3つのポイントがある。第一に、金融面での様々な施策が、実体経済回復のための条件を整備するということである。第二に、加えて、景気回復策のうち8.1兆円の社会資本整備、所得税減税(4兆円)と地域振興券(0.7兆円)が今後1年間のGDPに与える効果を試算すると、名目で2.5%程度、実質で2.3%程度であるということである。第三に、さらに、このほか、住宅投資促進策、雇用促進策、法人税減税、その他定量化できない項目も多く含まれており、これらも景気回復に大きな効果を発揮するということである。以上3つのポイントを併せて、本対策がわが国経済を厳しい状況から脱却させ、11年度はプラス成長に持っていく、というのが今回の対策の効果の正しい評価の仕方である。

    以上の対策を具体化すべく編成され、今臨時国会で審議される今年度第三次補正予算については、まず歳出面では、今回の対策関連の一般会計国費として、約7.6兆円が追加される。一方、対策の実施に必要な経費として今後地方の方でも今年度中に約2.8兆円の補正追加が見込まれるため、地方の追加も合わせると、今年度中に10兆円を超える予算が支出面で追加される。これは、いわゆる「真水」議論にも十分耐え得る支出規模と考えられる。しかしながら、国の一般会計の歳入面では、今年度税収が約6.9兆円の下方修正となることもあいまって、対策を盛り込んだことにより、第3次補正予算で12.3兆円もの国債増発となる。この結果、今年度はトータルで34兆円の国債発行額となる。そして今年度の国・地方の財政赤字の対GDP比は、当初予算時の▲4.7%から、三次補正後で▲10%(より正確には▲9.8%)にも達することになる。

    ユーロ参加国となる資格は、この数字が▲3%以内であること。財政構造改革法は、これをユーロ参加資格程度までは引き下げようということで、▲3%とすることを目標としているが、今回の対策により、この法律は当分の間、凍結されることとなる。まずは景気回復に全力を尽くすという政府の姿勢を内外に示すため、凍結法案を年明けの通常国会ではなく、今臨時国会に提出することとなった。

    ムーディーズがわが国の国債を格下げしたが、同社は格付けに当たって特に財政赤字を重視しているようであり、大国でもこのような財政赤字を抱えるわが国が引き下げられたのに対し、小国であっても財政黒字の国はAAAとなっているケースがある(一方、同じ格付け機関でもS&P社は、対外純資産を重視しているようであり、わが国の格下げは行なっていない)。ムーディーズの格下げ自体には様々な異論もあるところであるが、今回、財政がこれだけ犠牲(すなわち将来の国民負担)を後世に残してまで経済再生を図ろうとしている以上、これを受けて今度は民間経済の方で立ち直っていただかないと、本当の意味でわが国経済は格下げになってしまう。4月の対策の効果が最近になってようやく現れ始めたところであり、対策の効果の発現にはどうしてもタイム=ラグが伴うが、政府としては、出来るだけ早く今回の対策の効果が現れるよう尽力する。

  3. 「鉱工業生産指数(98年10月分)について」
    通産省 池谷・統計解析課長
  4. 総括判断は「このところ停滞」で、先月から変更無し。内容的には、好材料もあるものの、下振れ要因もある。

    10月の生産は、9月に上昇した反動や、最終需要が弱いことなどから、前月比1.2%の低下となった。在庫指数は同1%の低下となり、水準も昨年4〜5月レベルに戻ってきている(好材料)。しかし、在庫率は第一次オイルショック後並みの高水準である。引き続き注視する必要がある。

    生産予測調査結果によると、11月の生産は1.5%低下、12月は0.6%上昇の見込みである。11月のマイナスに寄与しているのは鉄鋼業と機械工業。特に電気機械工業に関しては、ビデオや冷蔵庫など消費関連で比較的好調な品目がある一方で、設備関連が弱い。自動車については、軽と普通・小型の代替関係や、市場全体の動向がどうなるのかが、今後を見る上での1つのポイントになる。

    また、消費関連の一部に好調な品目があること、公共投資の効果が関連品目の生産出荷にそろそろ現れてくるとみられること、などは好材料である。住宅金融公庫の募集状況にも手応えがある様子なので、期待感を持っている。一方で、海外経済の動向や企業の資金繰りなど下振れ懸念要因もあるので、生産活動は微妙な動きを続けるものとみている。

  5. 「最近の雇用動向について」
    労働省 村木・労働経済課長
  6. 先月、雇用情勢は厳しいがさらにどんどん悪くなっているわけではないという話をしたが、10月の指標も状況は同じ。失業率は3ヶ月連続の4.3%となり、新規求人倍率は横ばい圏内。有効求人倍率については、雇用需要が弱く、再就職に時間がかかっているという関係でわずかずつであるが悪化している。

    ただし、以下のような明るい材料もある。

    1. 男性の雇用者数が、10月は久しぶりに前年比プラスとなった(やや出来過ぎの数字という気もするが)。
    2. 公共投資の効果が若干出ており、建設業の新規求人のマイナス幅が一桁台にとどまった。
    3. 雇用保険受給資格決定件数の増加ペースが少し落ちてきた。

    かなり無理やり集めてきた面もあるので、これだけで「明るくなってきた」と言い切る自信はない。多少の光明は見えているが、やはり全体的には悪い。特に雇用需要の弱さが気になる。建設業については、公共事業は出てきたものの、設備投資・住宅着工は低迷が続いており、官民合わせれば需要はまだ水面下である。また、数年前に製造業のリストラの受け皿として雇用をかなり増やしてきたことや、資金繰りの悪化など業況は厳しいことなどを考えると、建設業が積極的に雇用を増やす状況とは考えがたい。製造業の雇用は減少傾向に歯止めがかかっておらず、数年前のリストラ時よりも厳しい。生産がなかなか立ち上がらないことに加え、グローバル化などの構造的要因があるとみられる。製造業の雇用が良くならないと、全体としてよくなったとはなかなか言えない。サービス業が雇用の下支え役として期待されるところだが、受け皿としての力強い動きまではない。

    結局、

    1. 製造業雇用の減少がどこで止まるか、
    2. サービス分野などで新事業・新産業の雇用創出がどう出来ていくか、
    の2点がポイントであり、その意味では、本格回復の展望について、まだ自信が持てない。

    最後に、雇用の流動化について、雇用創出の力強さが見られない時に流動化策だけ進んでいくことには、政策に携わる者として若干不安を持っている。

  7. 「最近の経済金融情勢について」
    日本銀行 早川・経済調査課課長
  8. 昨年後半から、消費、アジア向け輸出、設備投資などに次々とショックが走ったものの、その後、設備投資以外の需要はある程度安定してきている。また、生産活動も、年前半には大幅な調整が行なわれたが、ここにきて16兆円の総合経済対策の効果が顕在化し、どんどん生産を絞る状況ではなくなってきた。従来から申し上げてきたシナリオ通りの展開である。

    しかし、ここ1〜2ヵ月は、こうしたシナリオさえ危ういのではないかと思っていた。その理由の第一は企業金融である。この秋口以降、中小企業だけでなく、大企業にも資金繰りの心配が広がっていた。格下げによる社債・CPの発行難に加え、ヘッジファンド危機などで海外市場もおかしくなっていたので、優良企業でさえも外貨資金繰りに苦慮していた。しかし、日銀でも企業金融支援策を打ち出し、海外もFEDの利下げで落着いてきたので、とりあえず大企業は年末の資金繰りは大丈夫という雰囲気になってきた。中小企業についても、保証協会貸出が大人気である。

    理由の第二は海外経済。特に米国については、金融不安が実体経済に波及する恐れがあったのだが、利下げの効果もあって、消費や住宅などは思いのほか強い数字が出ている。ただし、貯蓄率はほぼゼロという状況なので、このような需要の好調がいつまでも続くとは思えないのだが、さしあたり目先は何とか大丈夫そうである。

    結局、従来通りのシナリオで大丈夫ということ。ただし、雇用・所得情勢は厳しいし、企業収益も弱い。そのような状況で、民需が出てくるかどうか。先行きについては慎重に見ておくべきである。

    ここ最近、経済政策は緊急対応モードという状況で、海外からはかなり批判的な声も上がっている。私自身は、緊急時であれば緊急対応を取るのは当然だと思っているが、来年前半にかけて経済の安定した状況が想定できるのなら、もう少し本格対応モードにシフトしてもよいと考えている。

    ここ数年、経済がなかなか立ち上がってこないのは、

    1. 不良債権問題など過去のツケの清算が終わっていないこと、
    2. 高齢化社会のビジョンが描き切れていないことへの不安、
    という要因がある。特に、先行き不安については、将来ビジョンが開けないとコンフィデンスが立ち上がってこない。海外からとやかく言われるまでもなく、本格対応モードに入っていく必要があると感じている。

(文責・経済政策グループ)


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