景気関連インフォメーション

1999年1月分


第146回 景気動向専門部会・議事概要( 1月 7日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 「最近の経済情勢等について」
    大蔵省 松田・調査企画課企画官
  2. 平成11年度予算は、15ヶ月予算の考え方のもとで、10年度第3次補正予算と一体で、景気回復に全力を尽くすという観点から編成した。まず減税については、恒久的な減税をはじめ、あわせて9兆円超の規模である。歳出面では、一般会計予算は+5.4%の伸び。特に公共事業については、前年度当初予算と比較した予算ベースでみても、翌年度への繰越を加味した支出ベースでみても10%超の伸びを確保している。なお、公共事業費は、元々繰越しが認められている費目であり、公共事業の進捗に応じて実際の予算支出が行われるもの。例えば、10年度の3次補正については2.7兆円のうち2.3兆円が11年度に支出されると見込まれている。従って、現実の経済へのインパクトを見る上では、支出ベースで見るのが妥当(予算ベースで前年度補正後の数字と比較すべきだとの議論が多いが、それは実体経済との関係ではあまり意味のある議論ではない)。

    この結果、公債発行額は31兆5百億円、公債依存度も37.9%と、ともに実績過去最高を上回ることになる。国・地方の財政赤字の対GDP比も、10年度(第3次補正後)が▲9.8%、11年度も▲9.2%と、かなり大きくなっている。公債残高は約327兆円となり、全世界の開発途上国の累積債務総額(約213兆円)を上回る規模である。1世帯(4人家族)あたりでは約1,037万円の計算になり、これは勤労者の年間可処分所得(約596万円)を超える金額である。国と地方を合わせた長期債務残高は600兆円程度となり、これはわが国の1年間のGDPをはるかに上回る。

    一方、11年度の一般会計税収は47兆円であり、バブルが始まる前の昭和62年度の水準に戻っている。ピークの平成2年度の税収は約60兆円で、これはバブルによる譲渡所得税収によってもたらされた異常な水準だったが、この平成2年度に赤字国債発行額はゼロとなった。異常な税収の下でそうなったということは、わが国財政は元々歳出と歳入の間に構造的なギャップがあるということになる。さらに近年では循環的な税収減に加え、来年度予算では大規模な恒久的な減税が行われる。仮にまたバブルが起こって、例えば平成2年度の60兆円程度まで税収が回復しても、82兆円の現在の歳出にははるかに届かない。よく、景気が良くなれば税収増によって財政赤字は解消するとか、行革によって歳出削減をすればよいと言われるが、ユーロ参加資格のGDP比3%を達成するには来年度の赤字国債発行額21兆円超をゼロにするぐらいのことをしなければならず、算術的にはなかなか大変なこと。行革は、当然、必要なことであるが、民間企業と異なるのは、財政というもののほとんどが民間から集めたカネを民間に再配分しているようなもので、歳出を減らすと民間の側に別の意味での負担増が生じるということ。政府もリストラ努力は必要であるが、歳出の内訳を見れば、国債費(17兆円強)、地方交付税交付金(16兆円弱)、社会補償関係費(15兆円弱)が3大経費となっているように、大幅な歳出削減の余地を見出すことはそう容易なことではない(一般会計の人件費は10兆円程度と聞いており、行革・リストラで仮に何割か減らしても、赤字国債発行額とは数字のオーダーが異なる)。

    昨年末までは景気対策一辺倒の論調であったが、予算編成後はむしろ「日本の財政は大丈夫か?」という声がマスコミ等で広がっている。年末には、長期金利も思惑的に上昇した。ただ、巨額の公債といっても、現状では、わが国の膨大な貯蓄超過、1200兆円の個人金融資産があり、民間の資金需要も減退していることから、これが直ちにクラウディングアウトにつながるという心配はしなくてもよいと思われる(市場の動向には十分注意していく必要はあるが)。しかし、長期的に考えれば、国債は60年償還であり、今後わが国が何十年にもわたって巨額の国債残高を抱える中で、将来の貯蓄率の低下、民間の資金需要の回復、世代間の負担の公平、国債償還のための負担に係る所得再分配の問題、財政の資源配分機能の阻害といった問題が避けられなくなる。まずは景気回復を優先させたが、景気が回復した暁には、財政再建に本格的に取り組む必要があると考えている。政府としては、景気回復のための財政面の対応という面では、やれるだけのことは決めたともいえる状況であり、あとは民間がどれだけ元気を出してくれるかにかかっている。

    次に、円の国際化について。検討を始めた背景には、

    1. ユーロ登場の中で、円がローカルカレンシーに陥る懸念、
    2. ドルに依存し過ぎた結果生じたと言われるアジア通貨危機の反省、
    3. ビッグバンの中でわが国金融機関のビジネスチャンスの拡大、
    の3点が挙げられる。大蔵省として、年末に推進策を発表した。すなわち、円による運用の利便性向上という観点から、
    1. FB(政府短期証券)の市中公募(本年4月から実施)、
    2. TB、FB、及び利付国債に係る源泉徴収の免除等の措置、
    3. 国債の償還年限の一層の多様化、
    などを柱としている。官の側として出来ることには限りがあり、こうした施策だけで円の国際化が実現するわけではない。これは国家戦略にも関わる重要な政策だと認識しており、皆様方には、国際取引といえばドルという従来の頭を少しでも切り替えていただき、貿易取引、金融取引において、出来るだけ円を使っていただくようお願いしたい。

  3. 「鉱工業生産指数(98年11月分)について」
    通産省 池谷・統計解析課長
  4. 生産は、まだら模様ながら、全体としては停滞している。

    11月の生産は前月比▲2%と、2ヶ月連続の低下。96.1という生産指数の水準は、直近のボトムである98年8月(96.0)に匹敵する低レベルである。品目別には、軽乗用車が大きく低下したが、これには10月の大幅上昇の反動という側面があり、前年対比では7割増と高水準である。

    在庫指数は7ヶ月連続の低下となった。特に、これまで在庫調整が遅れていると言われていた生産財についても、11月の在庫は前年比で減少に転じている。もっとも、在庫率は依然高止まりの状況であり、今後を注視していく必要がある。

    生産予測調査結果によると、12月の生産は+0.3%、1月も+1.3%と、2ヶ月連続上昇の見込みである。しかしこの2ヶ月間で、11月の大幅な減少を凌駕するほどの増加ではない。また、1月の上昇も、機械工業だけが大きく引っ張っており、回復の兆しが全品目に広がっているわけではない。

    実現率・予測修正率については、これまでの下方修正傾向がおさまりつつある。過去の例では、予測修正率がマイナスからプラスに転じる頃に景気の転換点を迎えるケースが多いが、再び下振れたケースもある。年明け以降の円高など不透明な要因もあるので、慎重な判断が必要と考えている。

  5. 「最近の雇用動向について」
    労働省 村木・労働経済課長
  6. 11月の失業率は4.4%となり、新聞各紙は「ついに米国の失業率に並んだ」と報道した。しかし、米国とは労働市場の構造が違うし、景気局面も違う。米国の水準に並んだということが、それほど意味のある話とは思えない。「統計の取り方を米国と同じにすれば、わが国の失業率はもっと高い」との話もあるが、我々が比較してみたところ、わが国の統計は、それほど米国の統計と調査方法が違うわけではない。

    失業率の上昇をどう判断するかという点については、これまでと大きくトレンドが変わったわけではないと考えている。11月の数字については、非労働力化の動きが少し弱かった影響が大きく、このところ前年比マイナスが続いていた男性の労働力人口がプラスとなっている。一方、労働需要側の雇用・就業には大きな変化はない。

    気になる点としては離職の動きが挙げられる。11月の新規求職や雇用保険受給資格決定件数は、再び前年比の伸び率が高まった。しかし、前年対比で見た場合、昨年11月は一昨年に比べ(職安の)稼働日が一日多いというカレンダー要因も影響している。これを差し引いて考えた場合、トレンドとしてこれまでと大きな変化はない。

    最後に今後の見通しについて。政府経済見通しでは、99年度の成長率を+0.5%と決定した。かつてないほどの低い数字だが、個人的には、政府としてギリギリの正直ベースの数字と思っている。来年度はマイナス成長から水面上には出るものの力の弱い状況が続き、本格回復は再来年度以降というシナリオと解釈している。

    そのなかで、雇用・失業の見通しについて、(1)労働市場の構造変化、(2)循環的な景気の変動、という二つの観点から考えてみると、(1)については、昨年になって突然ドラスティックに構造変化が起きたとは考えていないし、来年度にドラスティックに構造変化が起こるものとも思えない。構造変化は緩やかに進行するものである。とすれば、循環的な経済の状況次第ということになるが、景気が緩やかな回復にとどまることを前提とすれば、遅行指標である雇用も力強い回復は難しい。このまま厳しい状況がしばらく続き、来年度の後半になって、少し良くなってくる程度ではないか。

  7. 「最近の経済金融情勢について」
    日本銀行 早川・経済調査課課長
  8. 景気の現状については、

    1. 4月の総合経済対策の効果が現れてきたこと、
    2. 在庫調整も進展していること、
    3. 第3次補正の効果も今後出てくること、
    などを背景に、落ちるテンポは弱まってきた。ただし先行きについては、
    1. 企業収益や雇用情勢は厳しいので、民需の立ち直りを期待するにはしばらく時間がかかる、
    2. 為替や米国経済の動向が不透明、
    などの理由から、なかなか明確な回復シナリオが描けないというのが、ごく一般的な見方である。シンクタンク各社の予測では、今年度は2%を超えるマイナス成長であり、来年度もマイナス成長に陥るという見通しが非常に多い。

    しかし、皆が総弱気というのは、逆に気になるところ。過去の例でいえば、皆が悲観的になっている時に、実は景気は転換点を迎えていたというケースがよくある。一般的な弱気シナリオ通りにはならない場合を考えてみると、注目は家計支出の動向である。消費の現状を見ると、家電や軽乗用車など、思ったよりも健闘しているといえるのではないか。もちろん、こうした商品の持ち直しは、供給側の努力の結果であり、需要の基調が変わったわけではないという反論もあると思う。しかし、10-12月期は最も所得の悪い時期である。冬のボーナスはかなり厳しかった様子だし、減税面でも、昨年秋から今年の3月にかけては、減税支給の空白期間である。所得面から見ればかなり消費は落ちておかしくないはずなのにそれ程落ちなかったのは、消費性向が上昇したからである。これはそれなりに重要な事実であり、注目に値すると思っている。

    もう一つの注目は住宅投資。足元で長期金利が上がっているが、金利上昇は基本的に住宅投資にマイナスの影響を与える。しかし、金利先高観がある時は、むしろ駆け込み的な需要の集中が起こりやすい。加えて、今般の税制改正で、住宅減税もかなりの規模になる。この二つがセットになると、かなりの駆け込み需要が期待出来る(過去にも似たような事例があった)。実際、住宅公庫の今年度第3回の募集は、最後の10日間でかなりの申込があった様子である。建設省は住宅公庫の今年度第四回募集の適用金利据え置きを決めたが、次の募集では必ず上がるはずである。この1-3月期にどれほどの駆け込み需要が発生するか。結構、大規模なものになる可能性がある。

    もともと年前半は公共投資の下支えがある。これに加えて、ただいまお話したように消費、住宅が立ち上がってくるとすれば…。このようなシナリオの可能性も全くないとは言い切れないと思う。

(文責・経済政策グループ)


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