景気関連インフォメーション

1999年2月分


第147回 景気動向専門部会・議事概要( 2月 4日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 「最近の経済情勢等について」
    大蔵省 松田・調査企画課企画官
  2. 先月発表した「財政構造改革を進めるにあたっての基本的考え方」は、今回の予算を踏まえ、わが国の財政が中長期的にどうなるかを大蔵省で機械的に試算したもの。平成11年度の国民負担率は36.6%程度になると推計されるが、財政赤字を加えた“潜在的な国民負担率”は48.6%程度と、50%に近づいている。また、今後の名目経済成長率を1.75%、一般歳出の伸びを0%と仮定すると、年度末公債残高は平成11年度の327兆円から、平成25年度には637兆円にまで増加すると試算される。

    今後5年間(平成10年度〜15年度)の中期的な財政について、楽観的ケース(名目成長率3.5%を前提)と悲観的ケース(同1.75%)で試算を行ったところ、楽観ケースにおいて、仮に一般歳出の伸びを0%と仮定(これは社会保障費に見られるような当然増経費以外の費目については、毎年切り切り続けていくという大変厳しい前提である)しても、国債発行額は平成11年度の31.1兆円が平成15年度で29.2兆円と、ほとんど減らない計算になる。公債依存度もそれ程下がらず、公債残高は11年度の327兆円から15年度には431兆円に増加することになり、公債残高のGDP比(地方を含まず)も11年度の65.9%から75.6%に上昇する。経済が回復すれば財政も均衡に向かうとして財政拡大を主張する論者が多かったが、名目成長率3.5%との前提は、まさに経済再生に成功して初めて達成される前提であり、その下でも公債残高が累増していくというのが実際の姿であることが示された。1.75%成長との悲観的ケース(こちらの方が現実に近いという人もいると思うが)では、状況はさらに厳しくなる。

    市場では長期金利の上昇が見られたところだが、こうした状況下では今後相当程度の公共債の発行が行われていくことは避けられない。またFBの市中公募も始まる。民間の資金需要が弱いので、クラウディングアウトという事態は考えづらいが、市場の状況は十分注視していかなければならない。

    わが国経済の見通しについては、昨年まで「日本の内需拡大」と言い続けてきた海外も、年末からの金利の上昇をみて、さすがにトーンが変わってきている。「経済対策の効果は期待出来ない」と言っていたIMFですら、「日本の緊急経済対策を評価する」という言い方に変えてきている。1月にASEM蔵相会議が開催されたが、議長声明には「金融システムを強化し内需主導の成長を補強するための日本政府がとった実質的措置について議論し、歓迎した」との文言が盛り込まれた。ルービン財務長官も「日本の財政状況は厳しく、財政対策が必要」と言っている。

    国際機関によるわが国経済の見通しについては、IMFが99暦年で▲0.5%成長、OECDが同+0.2%成長と発表している。ただし、IMF見通しには来年度予算が十分に反映されておらず、OECDの見通しも緊急経済対策発表前のもの。OECDは、その後、+0.5%に成長率見通しを改訂している(暦年ベースであることを踏まえると、政府見通し+0.5%よりも強い見方と言えるかもしれない)。国際的な議論の場では、日本経済はそれ程強い成長は期待できないものの、経済対策にはそろそろ打ち止め感があるというのが、一般的な見方で、日本経済よりもむしろ、エマージングマーケットの動向、資本移動の監視・規制の問題、欧米景気の減速リスクなどに議論の焦点が集まってきている。

    国際金融システムについては、ASEMで宮沢蔵相とラフォンテーヌ独蔵相が会談を行い、

    1. 世界経済の健全な発展を達成するために、国際通貨・金融システムの改善が必要であること、
    2. 新興市場諸国が適切な為替相場制度を選択することが極めて重要であること、
    3. 金融監督の強化が必要であること、
    4. ヘッジファンドに投融資を行なっている金融機関への適切なプルーデンシャル規制や報告義務の導入、及びヘッジファンド自体への適切なディスクロージャーや報告義務の導入の可能性の検討が必要であること、
    について合意している。これらについては、今月開かれるG7(於ボン)で、さらに議論が進められる予定である。

    欧州経済が減速しつつあるなかで、世界経済はますます米国経済の成長への依存が強まっている。米国経済は、株価上昇が資産効果を通じて個人部門の支出を拡大させ、企業の生産や設備投資の増加につながり、国内需要全体を増加させ、その結果企業利益が増加し、株価の一層の上昇につながるという好循環が成立している。株高による消費の伸びは所得の伸びを上回り、貯蓄率はほぼゼロ近傍で推移し、貯蓄不足を補うべく膨大な海外資金が米国に流入し、これが米国経済の成長を支えている。資金フロー面では、景気が好調な米国に資金が集まり、それが株高を支え、上記の好循環を強め、好調な米国にさらに資金が集まる他、集まった資金の一部がエマージングマーケットに流れ、それが更に米国の好調に結びつくという、米国を中心とした資金の好循環サイクルも機能してきた。

    しかし、株高や国際的な資金の好循環サイクルに立脚した米国景気の拡大は、非常に不安定性を持っており、一旦バランスが崩れると、好循環は悪循環サイクルに逆転し、累積的な下降がもたらされる恐れがある。その契機となる要因として、

    1. 現在の米国の消費・投資は本来のサイクルを前倒ししているだけであり、日本のバブル時のように、反動で需要が急落する、という循環的な国内ファンダメンタルズ要因、
    2. エマージングマーケットの混乱により、米国企業が直撃を受けて株価が下がるとともに、国際的な資金循環が機能不全に陥る、という海外要因、
    3. 株価がファンダメンタルズを越えて更に上昇し、バブルが破裂する(グリーンスパンFRB議長もこのリスクを大変心配している)、
    というバブル要因の3つのリスクシナリオが考えられる。

    このようなシナリオを回避するためには、

    1. 国際金融システムの安定化を図ること、
    2. 米国景気の軟着陸を実現すること、
    が必要である。米国としては国内貯蓄の増強が必要であるが、世界経済がこうした不安定な構図に依存している状態を是正するためには、わが国としても、世界経済の成長をある程度担っていく責務があり、わが国の景気回復は依然として世界からの期待を集めているところである。財政的な手立てはそろえたので、あとは民間がいかに頑張れるかにかかっていると思う。

  3. 「鉱工業生産指数(98年12月分)について」
    通産省 岡部・統計解析課課長補佐
  4. 総括判断は「生産はこのところ停滞」と、前月の判断を踏襲している。

    12月の生産は前月比+1.3%と、比較的大きな伸びとなった。しかし、10月(▲1.1%)、11月(▲2.1%)と、2ヶ月連続大幅マイナスのあとのプラスであり、10-12月期では前期比▲0.4%の低下。昨年前半に見られたような急激な落ち込みは見られなくなってきたが、せいぜい横ばい圏内の動きである。

    平成10暦年では、生産は前年比▲6.9%(年前半の大幅な落ち込みが影響)。これは、第1次オイルショック後の昭和50年(同▲11%)に次ぐ落ち込み幅である。

    12月の出荷は前月比+1.4%。ただし、品目別には、蒸気タービンやトラックの輸出向け出荷が伸びたということで、海外要因が効いている。

    在庫は8ヶ月連続で減少した。在庫調整は着実に進展している。在庫指数の水準(100.1)は、消費税率引き上げ前後(97年3〜4月)のレベルにまで戻ってきている。前年比でも5ヶ月連続のマイナスであり、在庫の減少は明るい材料と言える。ただし在庫率は、低下してきているとはいえ、水準そのものは依然高い(98年1月レベル)。

    予測調査結果によると、生産は1月に1%上昇の後、2月に0.9%低下の見込みであり、今のところはほぼ横ばい。公共工事関連品目の一部で、増加しているものもあるが、まだ鉱工業全体として上向いていくとは言えない状況である。

  5. 「最近の雇用動向について」
    労働省 村木・労働経済課長
  6. 12月の雇用指標は、久方ぶりに一息つける内容。ただし、状況がそれ程変わっていないことも事実。

    失業率は前月の4.4%から4.3%に低下し、低下を続けていた有効求人倍率も12月は2年ぶりに上昇した。先行的指標である新規求人倍率も、これまでほぼ横ばいだったのが、12月は7ヶ月ぶりに0.9倍台に復帰した。主な指標について、久しぶりに明るい数字がそろった。

    ほっと一息というところだが、先行き雲が晴れていくかどうかというと、以下の理由から慎重に考えざるをえない。

    まず第一に、12月の指標は改善したとはいえ、水準自体はまだ低い。

    第二に雇用需要の弱さが続いている。12月の就業者数は前年比65万人の減少であり、雇用者数も同46万人の減少と、マイナス幅が拡大している。需要の弱さが変わらない中で、労働力率の低下が失業率を押し下げた面がある。また、雇用者数の中身を見た場合、サービス業の雇用がマイナスに転じた点は気がかり。製造業や建設業で厳しい雇用情勢が続いていた中で、サービス業が唯一の下支え要因であったのに、久し振りの減少である。サービス消費の減少や事業所向けサービスの落ち込みが、サービス業の雇用に悪影響を与えているのかもしれない。ただし、労働力調査は月々のフレの大きな指標であり、毎勤の常雇指数のサービス業については大きな変化は見られない。12月の数字だけで直ちに結論づけるには無理があり、しばらくは心配しながら注視していく。

    第三に、今後は3〜5月にかけての動きが気になる。今回、雇用情勢が厳しい理由の一つに、企業の成長期待が非常に弱く、常用雇用を増やさないということが指摘されている。このため、失業のプールに入ってしまうと、なかなか再就職できない状況である。昨年4-6月期を振り返ると、本来なら新卒の採用で増加するはずの雇用者数が、横這いだったため結果的に前年と比較すると35万人の減少となった。これが失業率を大きく押し上げた。今年は、学卒内定率が昨年を下回っている状況であり、再び4-6月期に雇用が増えないようだと、失業率が更に上昇する懸念がある。

    最後に賃金について。12月はかなり大幅なマイナスになった。主因は賞与の落ち込みである(特に中小企業)。この結果、実質賃金も落ち込み、消費性向は多少上がったものの、実質消費も減少した。ただし、今後は残業手当の減少はそろそろ底打ちであり、前年比で見たマイナス幅は縮小していく見込みである。

(文責・経済政策グループ)


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