景気関連インフォメーション

1999年3月分


第148回 景気動向専門部会・議事概要( 3月 2日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 「景気動向指数について」
    経済企画庁 淺見・景気統計調査課長
  2. 12月の消費動向調査では、「収入の増え方」以外の項目は軒並み改善した。最も寄与が大きかったのは「耐久財の買い時判断」で、その次が「雇用環境」である。「雇用環境」の改善については、12月に入って企業の倒産件数が大幅に減った事が影響していると思われる。ただし、「収入の増え方」については、現在の指数で遡ることのできる昭和57年以降、最低の指数レベルである。「雇用環境」についても、今回、若干改善したとはいえ、指数レベル自体は97年12月調査(大手金融機関の相次ぐ破綻で指数が大きく落ち込んだ時)とさほど変りない。いずれにせよ、消費マインドの若干の改善が、実際の購買行動にどのように影響するか注目である。

    12月の法人企業動向調査については、BSI(Business Survey Index)が前回調査比でやや改善した。もっとも、指数のマイナス幅自体は依然大きい。景気が「上昇した」と答えた企業は全体の2%しかいない。「下降した」と答えた企業が減ったことが、BSIが改善した主因である。前回9月調査では、BSIは見通し比で大幅に下振れしたが、今回はほぼ見通し通りの結果であり、見通し実現の蓋然性は高まっている。

    完成在庫水準は、6月末までの見通しで14にまで低下すると予想されている。この指数水準は、97年の消費税率引き上げ前後レベル。対照的に、設備過剰感はほとんど改善しない予想である。これまでは、在庫過剰感と設備過剰感がリンクしていたのに、今回はそうなっていない。売上げが伸びないという展望が、高水準の設備過剰感の背景にあると考えている。

    DIについては、12月の一致系列が10.0と、景気の厳しい現状を示している。先行系列は60.0。指標の季節調整換えに伴って、DIがどのような改訂状況になるか注目している。

  3. 「最近の経済情勢等について」
    大蔵省 松田・調査企画課企画官
  4. まず、2月3日に開催された全国財務局長会議における管内経済情勢報告について。前回9月の調査ではどの地域でも景気判断が後退したが、今回は11管内中8つの局で景気判断不変、東海地区では前回より判断が厳しくなり、北海道、沖縄は、前回よりも明るい報告となっている。東海は、昨年の円高の影響による自動車業界の景況悪化で判断が後退した。沖縄は公共事業が高水準で推移し、観光も好調で、一部に明るい動きが増している。北海道も、昨年11月に北海道拓殖銀行から北洋銀行へ資産譲渡が行われたことで不透明感が和らいだこと、公共事業も傾斜配分で高い水準となっていることなどから、前回よりも明るい報告となった。関東と近畿についてあえて大把みに言えば、近畿は震災以降、水準としては全国でもとりわけ悪い地域であったが、もうこれ以上下がることはないというところまで来ており、底が見えたようである。これに対して関東は、水準は近畿よりは高いが、いぜんとして底打ちの兆しが見えないようである。

    2点目に、最近の長期金利の動向等を踏まえて、大蔵省ではいくつかの措置をとることとした。まず、3月発行の国債について、年限別発行額を振り替えることにした。10年債の発行予定額を2月債の1兆8千億円から4000億円減額し、その分6年債を1000億円、2年債を3000億円増やすことにして、年限の多様化を図っている。一方、資金運用部の国債市中買い入れも再開し、2月、3月にそれぞれ2000億円ほど市中買い入れを行うこととした。長期金利2%程度という水準自体は、国際的にも特に異常な水準というわけではなく、民間の資金需要が低迷している現状では、クラウディングアウトの懸念もないのだが、大量の国債発行をしなければならない財政当局としては、発行者としての工夫も必要であるということ。市場の反応がいかにも激しかったので、市場がモデレートなものになることが大事と考えたもの。資金運用部としては、二度の経済対策や地方財政対策等で10年度全体で15兆円を上回る財投追加となる一方、郵貯、年金とも預託額が減少する見込みであり、12、13年度には定額郵貯金の集中満期問題もあるので、資金繰りが相当苦しくなるだろうということで、昨年12月にいったん市中買い入れを停止することとした。しかし、日々の資金運用を確実かつ有利にしていくとの観点や、資金運用部は国債発行者としての大蔵大臣に帰属しており、先のような工夫を行う立場も兼ねているとの観点から、2月、3月は市中買い入れを再開することになった。資金運用部は行革で廃止されることになっているが、公的資金を一手に集めたフトコロの大きな仕組みが国にあることによって、こうした政策的要請にも機動的に対応できるという側面がある。

    3点目に、2月20日にボンで行われたG7について。欧州の代表問題が話題になった。現在は、G7の7カ国に加えてIMFと欧州中央銀行(ECB)が参加しているのだが、欧州蔵相理事会(ユーロ11)、ECOFIN、EU委員会、からも代表を出させろという要請が出ており、これを認めるとG7の過半数を大陸欧州勢が占めることとなってしまう。米国が猛反対しており、この問題はいまだにもめている。

    日本のマスコミは、G7であたかも日本経済が問題の中心を占めているかのような大々的な取り上げ方をするのが常であるが、実際はそうではなく特に今回の会合では、マクロ経済という点では、日本よりもむしろ米国経済のダウンサイドリスクの方が関心を集めていたと言える。つまり、資産効果で消費が増え、また海外からの資金流入に頼るという好循環サイクルに依存した米国景気のリスクがいつ爆発するか、という話である。今回はむしろ、国際金融システム改革や、アジア、ロシア、ブラジル等の国々の動向の方が議論を中心であり、日本経済が議論の中心だったとの認識は誤り。なお、コミュニケでは「日本経済は短期的な見通しには不確実性が残っている」と書かれているが、これは、「政策対応としてやれることはやっており、あとは実施の問題。成果はこれから」というニュアンスである。

    金融政策については、速水日銀総裁から、先般の金融緩和等が説明された。為替相場の特定の水準についての議論は全くなく、我が国の財政政策についての議論もなかった。目標相場圏については、大陸欧州と米英で全く議論がかみ合わなかった。

    ヘッジファンドの規制についても、大陸欧州勢と米国ではスタンスが異なっていると思われるが、直接規制するというのはそもそも困難であり、ヘッジファンドと取引している金融機関のリスク管理が重要という点については、共通認識が得られている。

  5. 「最近の雇用動向について」
    労働省 村木・労働経済課長
  6. 1月の失業率、求人倍率は今朝発表されたばかり。季節調整を掛け直したので、過去の数字は多少変わっている。

    1月の失業率は4.4%。昨年前半に大幅に悪化したあと、後半にジリジリ悪化という状況に変化はない。失業者数は298万人となり、300万人に到達するところまで来た。マスコミ的には、失業者300万人という数字は興味あるところなのだろうが、春は季節的な理由(学卒未就職など)で失業者が増える。おそらく、季節要因で、失業者数は300万人を越えてくるだろう。また、失業動向の基調を見る上で重要な非自発的失業者数が100万人を越えてきた。失業者の3人に1人は、解雇等による失業ということである。

    1月の求人倍率は、新規求人倍率が0.91倍、有効求人倍率が0.49倍と、共に上昇。有効求人倍率に先行して動く新規求人倍率は、昨年10月を底にジリジリ上がってきている。これを受けて、有効求人倍率も1年8ヶ月ぶりに上昇した。限界的な労働需給は、昨年暮から、悪化が止まってきた感じである。ただし、需要が出てきて改善したということではなく、供給の増え方が落着いてきたことによる改善であり、内容はあまり良いとはいえない。1月の新規求人数は、前年比で9.6%の減少。マイナス幅は縮小傾向とはいえ、昨年1月に大きく落ち込んだ水準からさらに減少したということになる。一方、新規求職数は前年比2.8%増と、伸びが大幅に鈍化してきている。倒産の減少による離職の減少に加えて、ディスカレッジドワーカーも減少している。

    雇用需要がいぜん不振ということを端的に示しているのが、就業者数、雇用者数の動向である。1月は就業者が前年比75万人減少し、雇用者も同40万人減少した。産業別には、製造業の雇用が相変わらず良くない。もう一つ気になるのは、先月もお話したサービス業の動向である。12月にサービス業雇用が前年割れとなったあと、1月もマイナスになった。この数字をどう判断するかは、まだよく分からない。他の雇用指標では、サービス業のこれだけの悪化は確認できず、労調だけなぜこれほど急激に悪化しているのか不明。労調はサンプルの関係で大きな動きが2ヶ月続くことが多い。そうした統計のクセかもしれないし、もう一月、様子を見てみたいところ。

    雇用情勢全般の判断については、多少明るい兆しが見えてきたとしても、全体として慎重な見方を変えていない。その理由は、

    1. 指数が改善しても、水準自体はなお悪いこと、
    2. 景気がはっきりしないので、遅行指標である雇用の先行きにも自信が持てないこと、
    3. 企業のリストラがなかなかおさまらないように思えること、
    4. 企業が新規採用に慎重になっているので、本来なら雇用情勢が改善するはずの3月以降に、実際に改善するかどうか不透明なこと、
    などである。

  7. 「最近の経済金融情勢について」
    日本銀行 早川・経済調査課課長
  8. 2月12日の金融政策決定会合において、無担保コールの誘導目標引下げが決定された。もっとも、景気の現状認識が変わったから金融政策を変更した、というわけではない。何度も申し上げているとおり、景気の悪化テンポ自体はやわらいでいる。この1-3月期には、鉱工業生産もプラスになる可能性があり、公共事業もこれから出てくる。ただし、企業収益や雇用環境を考えると、設備投資や個人消費が順調に回復すると考えることも困難であり、先行きの見通しには慎重にならざるをえない。このような、従来から申し上げているシナリオにあって、1月は長期金利が上昇し、それにつれて円高も進み易い地合いにあった。このまま円高が進めば、景気の先行きに不安が出てくるという難しい局面の中で、大変難しい判断として、短期金利の低め誘導強化が打ち出されたということ。

    当面の注目点は二つある。まず第一に、1月にも申し上げた家計支出の動向である。

    公共事業は9月に大幅に増えたあと、ここ数ヶ月はお休みという状況である。進捗は遅れ気味だが、この2〜3月に、爆発的に発注が出るという話を聞いている。このような状況にあって、なぜ生産が下げ止まり、在庫が減っているかというと、耐久財や非耐久財の出荷が増えているから。非常に好調とまでは言わないが、所得が悪いなかでのこの動きをどう評価するか。相変わらずの注目点だと思う。経企庁の浅見さんからもお話があったとおり、消費マインドも、レベルは低いながら若干改善している。日銀関連の指標でいえば、日銀券発行残高の伸びも下がってきている。これらの背景には、97〜98年の金融不安が落着いてきたことがあるのではないかと考えている。

    マンション販売には動きが出てきており、年末の住宅金融公庫の申込急増を受けて、住宅着工はこの1-3月期から上向く可能性がある。このあたりは当面重要である。

    2点目に、4-6月期の動向がかなり重要な局面に入ってくる。期待を込めて言えば、3〜4月頃から住宅着工が出てきて、住宅投資は4-6月期に増えてくる。公共投資も、2〜3月に発注が増えるとすれば、4-6月期のGDPにハネてくる。公共投資と住宅投資が出てくるなら、設備投資と個人消費が大きくコケることさえなければ、4-6月期はそこそこのいい数字が出る可能性がある。他方、心配な要因は3月決算。かなり悲惨な数字になる模様である。98年度下期の業績が上期に比べてそれ程悪くなるはずはないが、にもかかわらず、下方修正が相次いでいる。これは、フローではなくストックの悪さ(過去の膿み)を損として出そうという動きと解釈している。

    経済学的には、過去のストックの膿みを出しても何の影響もないはずだが、現実はそうではない。赤字を出せば、当然、何らかのリストラを迫られることになる。大幅なリストラやベアゼロなどが、家計支出にどのように影響するか心配。設備投資の減少テンポが加速するとは思わないが、現状、何とか踏みとどまっている家計支出がどうなるか…。4-6月期が勝負である。

  9. 「鉱工業生産指数(99年1月分)について」
    通産省 池谷・統計解析課長
  10. 総括判断は「生産はこのところ停滞」から「底固めへの動き」と、前月までの判断を変更した。ただ、最終需要の動向に不透明感があるので、今後、需要動向を中心に注視していく。

    1月の生産は前月比+0.8%と、2ヶ月連続の上昇。在庫指数は98.3となり、消費税率引き上げ前のレベルにまで戻った。在庫率も16ヶ月ぶりに前年比で低下。在庫調整は着実に進展している。生産増に寄与した主な品目は、化粧品(春物中心)、リチウムイオン蓄電池(PHS、ノート型パソコン等搭載用)、普通乗用車(欧米向け輸出)、など。

    予測調査結果によると、生産は2月に+0.7%、3月に+0.4%の見通しと上昇が続くと見込まれているものの、あまり力強い回復の動きは見られない。2月の上昇は情報家電関係が主役。3月は輸送、一般機械の寄与が大きい。一方、鉄鋼業は2月、3月連続で大幅減少の予測と、業種別に明暗が分かれている。予測修正率は+0.3%と、見通し全体は底固くなってきている。

    稼働率(12月)はかなりの低レベルであり、好況感を実感するには程遠い。ただし、在庫調整は進んでいるので、最終需要の動向に生産活動が左右されるところまできていることも確か。財別にいえば、耐久財では乗用車や家電等の買い換え需要の動向が注目点。その他、化粧品や電子応用玩具などの品目の好調がどこまで続くか。これらが、当面の変化を左右すると考えている。

(文責・経済政策グループ)


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