景気関連インフォメーション

1999年5月分


第150回 景気動向専門部会・議事概要( 5月 7日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 「98年度企業行動に関するアンケート調査、消費動向調査(99年3月実施分)の概要について」
    経済企画庁 浅見・景気統計調査課長
  2. 「企業行動に関するアンケート調査」は、1961年から年一回、毎回テーマを決めて実施され、4月20日公表の98年度分で38回目となる。今回調査では日本経済の中長期的改善に向け不可欠なプロセスと考えられる企業サイドの改革の動きを明確化することを目的として、「経営環境と経営基本方針」、「財務体質改善に向けた取組み」、「事業ポートフォリオの再検討」の視点から調査を実施した。調査時期は99年1月。金融・保険業を除く2,146社を調査対象とし、回答率は63.4%であった。

    調査結果によると予想経済成長率(実質)の見通しは、今年度がマイナス0.2%、今後3年間(99年度〜2001年度)では年平均プラス0.8%、今後5年間(99年度〜2003年度)では年平均プラス1.2%を見込んでいる。92年度から94年度当時、実質GDP成長率が0.4〜0.6%と低かった時期において予想経済成長率が低下したのは94年度になってからであったが、今回も97年度以降の足元の経営環境や調査時点における長期金利高、円高傾向が影響していると思われる。

    今後3年間の回答企業の自社の設備投資の年度平均伸び率の見通しは全産業平均で0.3%(製造業0.1%、非製造業0.6%)と、昨年度調査の3.0%から伸び率が鈍化した。マクロ的には期待成長率の低下、ミクロ的には企業自身の改革に対する姿勢が見て取れる。今後3年間の自社の雇用者数の年度平均伸び率見通しは、全産業平均で▲2.3%(製造業▲3.2%、非製造業▲1.0%)、部門別でも、かろうじてプラスを維持していた製造・販売部門が今回調査ではマイナスになった。

    財務体質改善に要する期間の見通しについては、今後2年以上3年未満とする企業の割合が最も高いが、連結決算ベースで見ると単独決算ベースで見た場合に比べて改善に時間がかかると見込んでいる。財務面における経営目標のあり方としては、従来は企業の80%以上が「売上高や利益の絶対額を重視」していたが、今後についてはその比率は約30%に減っている。一方、今後は「資本利益率や資本効率性を重視」する企業の割合が30%近くに増えている。自社の事業ポートフォリオの評価については、54%の企業が「概ね適正である」と回答している。資本規模別では大きい企業ほど「多角化しすぎている」との回答が、逆に小さい企業は「特化しすぎている」との回答が相対的に多かった。今後5年間においてポートフォリオの再構成を行う際に採用する方法としては他社との提携、M&Aが増えており、自社の設備投資にこだわらず既存の資源の活用を図って行こうとの姿勢が伺える。

    「消費動向調査(99年3月実施分)」は、全国3,000万世帯から選定された5,040世帯を対象とした。「暮らし向き」、「収入の増え方」、「物価の上がり方」、「雇用環境」および「耐久消費財の買い時判断」の5項目の今後半年間の見通しについて5段階評価で消費者に回答してもらい、調査結果を加重平均して消費者態度指数として発表している。今回調査では5項目とも前回調査より改善したことにより、消費者態度指数は前期比3.3ポイントの上昇となった。ただし、指数の改善は、5段階評価の中で「よくなる」が増えたというよりは、「悪くなる」や「やや悪くなる」がそれぞれ「やや悪くなる」や「変わらない」にシフトしたことによる。このようにマインドは下げ止まりつつあるが、このマインドの改善が実際の購買活動に結びつくかどうかに注目している。

  3. 「最近の経済情勢等について」
    大蔵省 松田・調査企画課企画官
  4. 4月21日開催の全国財務局長会議での管内経済情勢報告は、今年2月までの統計値をベースに、3月から4月中旬にかけて企業ヒアリングを実施して、各局で調査を取りまとめたものである。各局とも依然として景気は厳しい情勢と判断しているが、補正予算の執行による公共工事の増加、住宅ローン減税による持ち家中心とした住宅建設の持ち直し、これら政策効果を下支えとした企業の景況感改善などの改善の動きも指摘されている。全体の景況判断を下方修正した局はなく、全局で上方修正となっている。但し、関東、近畿、東海の主要3局については、実態は変わらないが景況感が改善したとの判断。明るい話題としては、北海道、沖縄は観光が好調、九州では域内の主力産業であるIC(集積回路)生産が持ち直しつつあるなど電気機械の一部に動きがみられるとする局が多かった。また、全局が家電や軽自動車など個人消費の一部で動きがみられると指摘している。

    次に、G7について、4月26日にワシントンで開催されたG7に同行したが、今回のG7は国際金融アーキテクチャー、ヘッジファンド規制、重債務国問題、コソボ情勢等、様々な議論が行われたにも関らず、G7終了直後の現地での記者会見では、報道陣からの質問内容の概ね7割は追加景気対策に集中した。宮沢蔵相は補正予算は考えていないと明言しており、会見の席上でも、「声明の中の『成長が回復するまで景気刺激措置を執行していくことが重要である。』の部分が、追加景気対策の実施を約束したと受け止めてよいか」との質問に対して「もしそうであるなら、もっと別の表現になっただろう」と蔵相は回答している。しかし、あたかも予め記事内容が決まっていたが如く、日本でのマスコミ報道は追加対策、補正予算一色となってしまった。日本政府の立場は、あくまで補正予算は組まず、既に決められた対策を執行することに尽きるということであり、先日の日米首脳会談の合同記者会見でもクリントン大統領は「私は新しいものではなくて、既になされている景気刺激策が日本経済が持続的成長への兆しを示すまで、今後も維持されるようにと言った」と述べている。

    補正予算を考える視点として、3点ばかりコメントしたい。
    第一に、そもそも現時点は次の追加景気対策を云々する段階ではないということである。今やっている景気刺激策は、昨年11月の対策を受けて編成された15ヶ月予算である。対策というのは、どうも決定された時に対策を打っているように誤解されがちだが、今やっている対策は、これが決められた昨年11月の時点で打たれたものではない。当時は、対策はただのプログラムだったわけで、これから11年度にかけて対策を実施するという意図表明に過ぎなかった。実行が始まったのは今年に入ってからで、年度が開けて4月からようやく本格執行に入ったばかり。これからやる対策はまさにこれである。今回G7の英文声明文でも「implement(執行)」という表現を使っており、この「執行」ということが大事なのに、これをマスコミは「刺激策を継続」と訳すなど追加対策のニュアンスを強調しており、不正確で誤解を与える。

    第二に、経済の実態が少しずつよくなっているという点である。経済指標というのはタイムマシンで過去をのぞくようなものだ。GDPは昨年までしか出ていない。まだ、今年度の補正の前提となる今年度の数字としては、4−6どころか1−3(前年度)のGDPも出ていない。確かに、公共事業の下期息切れ説というものがある。IMFが99暦年の実質成長率を▲1.4%とする見通しを発表し、それが物議をかもして補正論議の流れを作る一つのきっかけにもなってしまったが、この内容は、1〜3月期の実質成長率をかなりのマイナスとみているようであり、その後ほぼ横バイとなった後、10−12月期は公共事業の息切れでGDP全体が再びマイナス成長に陥るとみているようである。しかし公共事業の実態を見ると、かなりの勢いで契約が進んでいて、その事業を消化していくだけでも年度いっぱいかかる、地方などはもうアップアップだとの声も聞かれる。また、どんなに事業を前倒ししても実際の財政支出の支払いは年度後半に集中する点にも留意すべきである。仮に息切れしたとしても、当初予算に計上された5,000億円の公共事業予備費を機動的に発動できるし、むしろ補正追加による公共事業に頼らない手段を考えるべきではないか。

    第三に、補正予算は国債の増発を招き、長期金利上昇をもたらす怖れがあることをどう考えるかということである。昨年末から今年初めにかけての金利上昇が念頭にあり、補正予算は組まないとの宮沢蔵相の意思は固い。米国もバブル維持のため世界からの資金流入を維持する必要があるとすれば、日本の長期金利の上昇は困るのではないか。この点、仮に日銀が長期金利が上昇しないだけの更なる金融緩和をして、これと組み合わせれば、という議論もあるのかもしれないが、既に現状でぎりぎりの金融緩和策をとっているというのが日銀のスタンスではないかと想像する。

    なお、G7の舞台裏では声明文の言い回しに苦労があった。声明の「G7諸国」の中の日本に関する部分に「implement stimulus measures until growth is restored, using all available tools」とある。この「implement(執行)」という言葉に、既に決まっている対策の執行という意味が込められている。「until growth is restored」とあり、回復が実現できなかった場合追加が必要というニュアンスに受け止める向きもあったが、「implement」というのはそういうことではないことを意味している。さらに、「all available tools」の「available」という言葉には、「可能な範囲での措置」という意味が込められており、「あらゆる可能な手段」の「可能な」というところが大事なのだが、日本の報道ではこの「可能な」という言葉が抜けていたのが残念だった。

    今回のG7声明で、もう一つ工夫がなされたのは、構造政策に言及したことである。実際、今の日本経済で一番大事なのは、企業のリストラ(事業の再構築)であろう。実質債務超過企業が早く銀行との間で再建計画を立て、再建に必要なtoolとして、設備廃棄とか、デット・エクイティ・スワップとか、色々な手段を、個別企業の実態に即して駆使していくことが重要であろう。産業界の過剰債務問題の解決が第一であると思われる。追加補正を言うエコノミストには矛盾があり、従来型公共事業を増やせば増やす程、日本経済のリストラは遅れると言っているのはエコノミスト自身である。

    リストラの過程で、雇用問題など色々な問題が出てくると予想されるが、政府の政策は、そこを注意深く手当てし、雇用対策などの個別の施策をきちんと実施していくことだと考えられる。

  5. 「鉱工業生産指数(99年3月分)について」
    通商産業省・池谷統計解析課長
  6. 今回、季節調整の年間補正を実施し、98年1月以降の数値を原指数、季節調整値ともに修正した。98年1月の生産が若干伸びたためこれが季節指数に反映され、その結果99年1月補正値は大きく補正され、対前月比がマイナス、2月、3月が前期比プラスとなった。また、予測指数も年間補正に加えて調査対象品目の拡充も実施したため、先月までの予測指数とは不連続である点留意して欲しい。

    3月の生産は電気機械、輸送機械、一般機械を牽引役として前月比で高い伸びを示した。電気機械では携帯電話・PHS、半導体、輸送機械では鉄道車両、普通乗用車、一般機械では半導体製造装置やタービンの生産が伸びた。99年1〜3月期では、前期比0.4%増加。98年度伸び率は▲7.1%となり、1974年度の▲9.7%以来24年ぶりの下げ幅となった。

    予測指数は、前期比で4月▲3.2%、5月1.0%と4月は大きな下げ幅となった。3月生産が増えたこと、輸送機械が大幅な落ち込み(▲13.5%、寄与率にして約6割)を示したことによる。ゴールデンウィークを利用してプラットフォームの手入れのため、補修も兼ねて工場をストップしたという特殊要因もあった模様である。電気機械に関しては、耐久消費財、資本財の中の好不調の品目が入れ替わることもあり4月、5月と一進一退の状況が続く。一般機械は、4月、5月と2ヶ月連続で減少、輸送機械も5月の回復は弱い。今後は経済対策の下支え効果と好調な住宅関連需要からの影響が期待できるが、全体に最終需要の回復が不透明で、依然として注意深く見守っていくことが必要と考えている。

  7. 「最近の経済金融情勢について」
    日本銀行 早川経済調査課課長
  8. ここ最近は大きな変化がなく、景気全体の大きな流れは依然下げ止まり状況にあるといってよい。鉱工業生産・出荷指数も1〜3月期はプラスになり、4、5月の予測指数を見ても、4〜6月期は大きなマイナスにはならないことが下げ止まりを表している。需要面では公共工事の発注が、2月、3月急増したので、4〜6月は発注された工事の進捗も高水準になると見込まれる。住宅着工は98年末の住宅金融公庫申込み分が現在着工期を迎えており、4〜6月期は春の公庫申込分の着工開始もこれに続くことから、住宅投資は当面高水準で推移すると思われる。年度後半の景気回復持続ついては、公共投資効果、住宅効果が減衰するうえに、雇用環境や企業収益面の問題から個人消費・設備投資の動きもすぐ良くなることが見込めず依然として不透明である。

    次に、最近の実体経済面での特徴的な動きについて述べる。
    個人消費では、所得環境が良くない中、家計支出は予想以上にがんばってきたが、さすがに今春は息切れ気味の様相を呈している。家計調査の2月の消費水準指数はイレギュラーで見かけほど悪くはないはずだが、その他の販売統計などは11月から1月は比較的良かったのが、2月、3月は総じて元気がなくなっている。ただ、他方消費者心理の改善傾向があるので、所得が落ちる中にあっても今後は軽微な落ち込みにとどまることを期待したい。

    次に設備投資面だが、設備投資の先行指標として月次ベースで把握できる4つの指標が今年1〜3月期、意外に堅調な動きを示している。一般資本財出荷の1〜3月値は昨年10〜12月期に比べて増加しており、機械受注(船舶、電力除く)の1〜2月期平均値、建築着工床面積1〜3月期平均値も、昨年10〜12月期平均値を上回っている。リース契約額の1〜3月期平均値も、昨年10〜12月期に比べて増加している。これらの指標はもともと振幅が大きい上に、資本財ではアジア向け輸出増が、機械受注には設備投資とはいえないような携帯電話用の特殊な部品が入っているのではないか等の特殊要因による底上げの可能性もあるが、4つの指標がすべて堅調に推移しているのは特筆すべきことであり、必ずしも偶然とは言えない。

    昨今、設備投資が弱いと考えられている背景には短観や経済企画庁の法人動向調査等設備投資計画に関する調査結果があると思われる。しかし、短観による98年度の設備投資実績見込みは前年度比▲5%であるのに対して、名目GDPベースの98年度設備投資見込みは一般に▲15%程度と考えられており、実に10%もの乖離がある。これは、短観が、製造業で従業員が50人未満、卸・小売業では従業員が20人未満の零細企業を調査対象としていないためと推定され、零細企業の設備投資がクレジットクランチの影響で前年比▲50%近く落ち込んだのではないかということである。大蔵省の法人企業統計季報でも資本金の小さい中小企業が設備投資を最も大幅に削減している。また、GDPベースの設備投資の対前期比減少幅が98年1〜3月期、4〜6月期、10〜12月期に特に大きかったという動きは、春と秋に起こった金融逼迫感の高まりの状況と整合する。以上のことから判断すると、最近の設備投資関連指標の意外な堅調さは、零細企業の設備投資が一時的にせよ回復していることによるものであり、今年の1〜3月期に限っては、零細企業の設備投資は減っていないと推測される。

    99年度の設備投資を考える際にも、金融逼迫状況が緩和しつつある中、零細企業の設備投資動向を注視する必要がある。もちろん、これは春以降の金融機関の融資姿勢如何による。大銀行は資本注入後、中小企業への融資増を約束しているが、一方で利ざやを稼ぐ必要もあり信用リスクにも注意する必要があるので、無条件に融資を増やすこともできないであろう。しかしながら、設備投資が減少するはずだと決めつけて考える前に、金融情勢と零細企業の設備投資動向も十分考慮する必要があるだろう。

(文責・経済政策グループ)


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