景気関連インフォメーション

1999年6月分


第151回 景気動向専門部会・議事概要( 6月 2日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 機械受注統計(3月実績および4〜6月見通し)について
    経済企画庁 浅見・景気統計調査課長
  2. 3月の機械受注実績値は前月比プラス6.6%、設備投資の先行指標である船舶・電力を除く民需も前月比プラス2.4%となった。また、民需のうち製造業、非製造業はともに前月比プラスとなった。99年1〜3月期の船舶・電力除く民需は、前期比0.7%と、7四半期ぶりに前期比でプラスとなった。これは主として携帯電話の新サービス開始に対応して基地局設備の需要が増え、通信業(非製造業の23.4%を占める)からの機械受注が増加したことによると考えている。

    ただし、3月の機械受注実績値に関しては、留保が必要である。非製造業全体の3月実績は、前月比で13.3%と高い伸びを示しているが、このうち構成比にして22.4%を占める電力業からの受注が前月比プラス49.5%と突出しているからである。電力業は、コスト削減を進めており、各種アンケート調査を見ても設備投資は抑制傾向にある。急増した3月の実績値はこのトレンドに沿ったものではないと考えられる。

    機械受注の見通し計数は、各部門ごとの調査結果を単純集計し、これに当該部門の過去3期の平均達成率(実績/見通し)を乗じて算出している。船舶・電力を除く民需の99年4〜6月期見通し計数は、前期比▲11.3%となっているが、これは98年7〜9月期から99年1〜3月期の達成率の平均値(86.9%)を見通し額の単純集計値に乗じた値である。3月実績は多少上振れしているとは思われるので、その分1〜3月期の達成も上振れしている可能性もあるが、回復局面では、通常、達成率が高まることを考えると、今回の見通し計数は、多少下方バイアスがかかっていると考えてもよいだろう。したがって、船舶・電力を除く民需の4〜6月期実績値は、見通し計数値の▲11.3%以上に悪くなることはなく、マイナス1桁程度になるのではないかと考えている。

  3. 最近の経済情勢等について
    大蔵省 松田・調査企画課企画官
  4. 政府は、6月11日に政策パッケージを取りまとめる予定である。この背景には日本経済の病に対する処方箋は、追加需要を創出するといったケインジアン的なカンフル剤を打つ段階ではなくなってきており、構造改革しか道はないという認識がある。

    構造改革に関しては、過剰設備、過剰雇用、過剰債務という三つの過剰で語られているが、私なりに整理させていただくと、構造問題とはズバリ不良債務問題(=企業の不良資産問題)であると考えられる。過剰設備も過剰雇用も、その解決は不良債務問題の中に包摂されるのであり、財務を切り口とした民−民ベースの世界で構造問題に対処すべきであろう。問題は実質債務超過に陥っている企業であり、まず、そうした企業が財務面から再建計画を立てるということが最初に来る。企業毎に実態は異なっており、それぞれの企業の実態に即した再建計画がそれぞれ立てられ、その中の再建のツールとして最適な手段を選択した結果として、必要であれば過剰設備の廃棄、過剰雇用の削減といったものが位置づけられてくるのであり、その他にデット・エクイティ・スワップなどの様々なファイナンシャルな手段、分社化や企業の再編等といった手段がここに入ってくると考えるべきであろう。こうした再建計画に共通の前提は、経営者や株主がきちんと責任を取ることであり、こうした企業リストラを進めるために要請されてくる政策的優遇措置も、こうした責任というものを前提に初めて適用されるものと考えるのがスジであるべきと考えられる。

    振り返ると、バブル崩壊後、我が国で採られてきた景気対策は、基本的にすべて需要拡大策だった。本来は、バブル時に投資判断を誤った企業や金融機関が、責任を取ってリストラに取り組むことが正しい対策であったのだが、そうした痛みは先送りして、とりあえずカンフル剤としての需要拡大策に走ってきたというのが実態ではないか。92〜94年の3年にわたる経済の停滞の後、さすがに累次の需要拡大策も効いて95、96年と成長を達成したものの、97年の金融システム不安で、戦後最悪の不況にまで突入してしまったのは、構造的な面に手をつけられていなかったからであろう。現状、財政金融政策も目一杯で経済を支えており、今や、抜本的な解決策に向けていよいよ待った無しの段階に来ている。

    リストラは民間企業が自ら取り組むのが原則であり、企業の構造改革に対して政策面でできることは環境整備に限られる。柱は大きく言って2つあると思われる。一つの柱は、成長基盤の強化である。そのためには、第一に企業活動を活性化していくための環境整備、とりわけ企業の再編、合理化、再建等に資する制度等の環境整備ということがある。設備廃棄の支援、より迅速な再建型倒産制度の整備、あるいは、企業組織の再編に関わる制度の整備といったものがここに入ってくる。第二に、将来的に成長が見込まれる分野と非製造業を中心に、生産性が国際的に見て低い分野に重点をおいて、生産性向上のために様々な規制緩和、制度改革をしていくことである。もう一つの大きな柱として考えられるのは、企業側がリストラを進めていく上で必要な安全ネットとしての雇用対策である。雇用機会の創出、中高年層に重点を置いた再就職支援などを安全ネットとして実施していくことが柱として据えられよう。

    こうした、企業の構造改革のための環境整備の施策をパッケージとして6月11日に取りまとめる。このパッケージは一種のメニューであり、その具体化については、法制度面で必要な措置は臨時国会及び通常国会において審議されることになろう。一方、景気対策としての補正予算を求める声があり、今年度後半に公共事業が息切れするので、追加刺激策が必要だなどと言われている。こうした需要追加といった観点を離れて考えると、確かに、構造改革パッケージの中には、特に雇用対策など、予算措置が必要な施策が当然含まれ得るのであり、しかも今年度当初予算の範囲内でできないという場合には、補正予算を組むということは理論的にはありうる話かも知れない。しかし、今は補正予算を前提に議論を進める段階ではない。構造対策に関連する予算措置については、まだその中身さえ煮詰まっておらず、金目の議論ができる段階ではないし、ましてや、従来型の、追加需要創出策は政策のあり方としてもう限界に来ている。仮にそういう議論をするとしても、まだ当初予算の執行が始まった4〜6月期のGDPの値すら出ていない段階である。

    先般、OECD閣僚理事会の方に行ってきたが、既に国際的な議論の場においても、日本経済にとって必要な政策は、追加需要創出ではなくて構造政策であるという認識が定着してきている。先月の本会合において、4月のG'7のコミュニケは、「景気刺激措置を執行する」という内容になったという話をした。これは、"Stimulus"を"implement"するということであり、追加対策を採るということではなく、既存の景気刺激措置を執行するという意味であると申し上げた。その後の5月のAPEC蔵相会議では、日本の政策について"stimulus"という言葉のかわりに"supportive"という言葉が使われるようになり、日本の政策は支援的なものであるべきだ(to be supportive)という言い方に変わっている。"supportive"というのは、本流は民間の努力に移っているとの基本認識の下で、政府の政策はあくまでそれを支援するものにとどまるという意味になるかと思う。

    しかし、今回のOECDの声明に関しても、日本における報道では、景気刺激措置を求められているといった論調が相次いでおり、非常にミスリーディングなものになっている。実際は、日本経済について具体的なことを言ったのは米国だけである。その米国もわれわれと協議の結果、"stimulus"という言い方は撤回したのであり、日本経済の現状をきちんと伝えれば、解決策は構造政策だと認識されるような状況になっていると言える。声明では、「日本では、主要銀行の資本増強を含め、重要な政策措置がとられてきた。」と、明らかに日本はマクロ的な政策を十分にやったという評価を下している。さらに、声明は「成長の回復が確実なものとなるまで、政策が支援的なものであることが重要である」、「広範囲の構造改革を更に実施する意思を固めている」という文言で日本経済について結んでいる。企業に対する側面支援を中心とした構造政策が本流との認識が、国際的な場でも明確になされるようになっている。

    最後に、世の中でリストラが行われている中、大蔵省も自らの構造改革に取り組んでいることを紹介したい。大蔵省とは、公的民間、国内国外を問わず資金の流れをしっかりと分析、把握して、21世紀に向けてこうした資金循環が構造的にどう変化していくのかを見極め、それを踏まえながら様々な政策を立案するところであるという基本に立ち返り、「21世紀の資金の流れの構造改革に関する研究会」を作った。高齢化、金融ビッグバンの進展、国債の大量発行、財投改革、財投債の登場等々の状況の変化の中で資金の流れ、及びそれを規定する構造はどう変化していくか、その大局を押さえた上で、政策はどうあるべきかをこの研究会で検討していく。財政や金融という枠組みにとらわれず、より根本的なところから経済政策を考えていこうという趣旨である。今後1年くらいかけて、種々の問題に取り組んでいく。

  5. 鉱工業生産指数(99年3月分)について
    通商産業省 池谷・統計解析課長
  6. 「生産は底固めへの動き」との基本的な判断は先月と同じである。4月は生産、出荷とも前月比で大幅にマイナスとなった。鉄道車両と北米向け自動車を中心とした輸送機械の生産が3月に大幅に増加したことや、全体的に見て、決算期に対応して例年以上に3月に生産の実績計上を実施したことによる反動の要素もあると考えている。パソコンは4月には一服感がでており、一部家電品には意図せざる在庫増があるとの業界の意見もあった。

    予測指数は5月が前月比1.2%、6月が同0.2%と増加を示している。5月は電気機械をはじめとした機械工業を中心に持ち直す見込みである。6月については、輸送機械、一般機械は増加する一方で、電気機械はパソコン、携帯電話・PHSが減少を見込むなど品目ごとに増減マチマチである。

    生産が抑えられてている中、在庫は引き続き減少しており、在庫循環から見ても生産の回復条件は整いつつあるが、最終需要は予断を許さない状況にあり、今後の動向を注視する必要がある。

  7. 最近の雇用動向について
    労働省 村木・労働経済課長
  8. 4月の失業率は4.8%となり前月比で横ばいとなった。失業率は5%を超えるのではないかという見通しが出されていた中、この実績値にはやや意外感もあったようだ。しかしながら、これで落ち着いたという訳ではなく、依然として厳しい状況は継続している。

    最近の雇用動向の特徴として、先ず昨年末には落ち着いていた失業率が今年に入り再び上昇しはじめたことである。失業の特徴については、以下の諸点を指摘したい。

    4月の男性の失業率が初めて5.0%に達した。一方、4月の女性の失業率は、雇用が増えたことによりやや減少したが、昨年から今年にかけて増減を繰り返していることから考えて、4月の下落が直ちに今後のトレンドを示している訳ではない。次に、非自発的失業者が大幅に増加し、11年ぶりに自発的失業者数を上回った点である。自発的失業者も若年層を中心に増えているが、これは離職する人が増えたのではなく、一度離職した人が再就職先を見つけるまでの期間が長引くようになったためである。もう一つ注目すべき点は、中年層の失業者の増加幅が拡大したことである。98年の失業者急増は若年者と高齢者(60〜64歳)が中心だったが、今年は中年層(45〜54歳層)男性の増加が顕著である。世帯主・配偶者の失業率が上昇している訳で、状況はより深刻化していると言える。

    雇用者数のマイナス幅が今年に入って拡大したのは、常用雇用者、大企業雇用者が減少していることが原因である。常用雇用者のマイナス幅は、日雇い・臨時雇用者以上に拡大しており、前年の同時期と比べて90〜100万人近く減少している。産業別に見ると、製造業におけるリストラが依然として継続しているのに加えて、98年末からはサービス業における雇用者数の伸びも止まった。季節調整値ではむしろ減ってきており、雇用の吸収ができなくなってきている。特に、専門サービス業が良くない。規模別に見ると、大企業における雇用者数のマイナス幅が拡大している。常用雇用者・大企業雇用者の減少、中年の失業者増は、企業のリストラを如実に反映していると言えるだろう。

    以上のように雇用環境は厳しいが、かといってあまり過剰に深刻に考える必要もない。なぜなら、個別企業の人員削減計画は、2〜3年かけて、採用抑制や自然減で対応していくものが中心であり、不足するところは希望退職でまかなうという方法が主流だからである。新聞等に出た人員削減計画が、直ちに雇用減少に結びつく訳ではない。また、今日発表予定の労働省の労働経済動向調査によると、2月まで上昇し続けていた企業の雇用過剰感の上昇が止まったという結果が出ている。さらに、雇用調整の実施方法については、希望退職や解雇といったハードな雇用調整を行っている事業所は増えてはいるが、その総数は全体の10%にも満たない比率という結果が出ている。

    一方、求人倍率は98年末に下げ止まった後、横ばい傾向にある。求人広告の件数もじりじりと増えてきているなど、雇用の需給関係の悪化は止まりつつある。この状況を従来ベースの考え方で説明すると、過去の経験から失業率は求人倍率に対して1四半期から2四半期遅行して推移するので、失業率は99年後半から改善していくという考え方になる。景気の腰折れさえなければ、99年後半の失業率はそれほど上昇しないというのが一つの見通しである。もう一つの可能性としては、米国が経験したようなジョブレス・リカバリーの到来である。各社横並びのリストラは、その兆候ではないのか。個別企業の過度のリストラは、合成の誤謬を招き、雇用不安を高めて、景気の腰折れを招く。雇用が景気の先行指標になってしまうことも警戒していくべきであろう。

  9. 最近の経済金融情勢について
    日本銀行 吉田・シニアエコノミスト
  10. 景気は下げ止まっているが、これが自律的な回復の動きに繋がっていくのかどうかははっきりしない。

    景気の下げ止まりを示す材料としては、第一に、これまでコツコツと進めてきた在庫調整にほぼ目処がついたところに、

    1. 緊急経済対策で追加された公共投資が発注され、実際に工事が進んでいる、
    2. 住宅減税の拡大や長期金利の低下を受けて、住宅着工がひと頃に比べ持ち直している、
    といった一部需要項目の実際に動きがでてきたことで、生産活動が下げ止まっていること。第二に、そうした景気の展開や金融システム・企業金融が落ち着きを取り戻したことを背景に、企業・消費者マインドが一昔前のパニック的状況に比べ幾分改善していること、等が挙げられる。

    回復の持続性についてはっきりしない理由としては、

    1. 自律的回復にとって不可欠のエンジンである民間設備投資がなお減少基調にあるとみられること、
    2. 個人消費も、マインド的には多少明るくなったにせよ、雇用・所得環境の悪化が続く中で、回復感に乏しい展開が続いていること、
    3. 昨年末のような急激なクレジット・クランチのリスクは回避されたにしても、民間金融機関の貸出残高はなお減少を続けており、金融セクターが企業活動を積極的に後押ししていく姿にはなっていないこと、
    等である。こうした状況の下では、財政・税制面からのポジティブなインパクトが減衰するまでに、民間需要中心の回復パターンにスイッチできるか、なお不透明であり、再びデフレ的色彩が強まる可能性も排除できない。

    日銀では、そうした懸念が払拭されるまで「短期金利実質ゼロ」という金融政策面からの最大限のサポートを続けていくことにしている。

    景気に関しては、基本的には今申し上げたことに尽きるが、以下最近の経済指標の動きについて追加的に若干コメントしたい。

    まず、先ほど話題にでなかった外需の動向。これまで、輸出・輸入ともに、月々の振れは大きいものの、実質ベースでは基調的に横這いとの見方をしてきた。こうした中で、最近になって、韓国、タイなどの景気が上向いてきたことで、アジア向け輸出が増加に転じているという好材料がでてきている。しかし、他方で、足許はアジアからのパソコン、繊維製品の輸入の伸びが大きいため、差し引きしたアジア方面からのネット外需が、日本の景気にプラスに寄与する姿にはなっていない。アジアの景気回復と国内景気の関連については今後の成り行きを注目する必要がある。

    次に個人消費については、先ほど述べたように雇用・所得環境が厳しい中で、回復感に乏しく、一進一退で推移するとみている。そこで、最近出た指標をみると、前年比では引き続き大幅マイナスの指標が多いが、季節調整した前月比でみると、4月の家電販売がパソコンを中心に伸びを高めたのに加え、百貨店やチェーンストアの売上高も小幅ながらプラス、2〜4月には低調だった乗用車販売(除く軽自動車)も5月には若干上向く等々、全体としてこのところプラス方向の指標が多いとの印象である。その背景を探るのは難しく、単なる統計のアヤに過ぎない可能性もあるが、強いて解釈を付けると、

    1. 地域振興券が減税としてみればそれなりの効果があった、
    2. 個人所得税減税が源泉徴収面ではこの4月から実施された、
    といったことが可処分所得面からなにがしか寄与した可能性がある。ただ、そうした所得面に着目するのであれば、今夏のボーナスが出るころには、逆に消費が後退してまう可能性もある。従って、とりあえずの評価としては「一進一退」の横這い基調の中で、足許は「一進」の部分の方が出たとみておくのが無難と思う。

    最後に設備投資。アンケート調査等でみると、大手・中小企業とも99年度は慎重な計画を立てていること、1〜3月に増加に転じた機械受注が4〜6月は再び大きく減少する見通しにあること等から、当面「設備投資は減少基調」との判断を変える必要はなかろうと考えている。しかし、建築着工床面積、リース取扱高といった指標は1〜3月に前期比で増加した後、4月も1〜3月対比で小幅ながら増加している。前者は、おそらく都心の大型再開発の着工といった大玉案件がたまたま入った可能性が高いが、こうした一部指標の動きが単なるノイズでない可能性もゼロではなく、今後出てくる指標を、一段と目を凝らしてみていく必要があると考えている。

(文責・経済政策グループ)


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