景気関連インフォメーション

1999年7月分


第152回 景気動向専門部会・議事概要( 7月 2日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 景気動向指数について
    経済企画庁 浅見・景気統計調査課長
  2. 景気動向指数の一致系列指数は、2月、3月と50を超えたが、4月は、生産関連指標の減少が響いて、再び50を下回った。しかし、ならしてみれば6月の月例報告にあるように、景気は横ばいで推移と認識している。個別指標の動きをみると、百貨店販売額、商業販売額指数の対前年同月比のマイナス幅が縮まってきており、鉱工業生産の6月の予測指数が増加の見込みであるなど、一致系列を構成する個別系列では好転を期待できるものもあるが、あくまで「景気は横ばいで推移」の範囲内の動きであると考えている。

  3. 最近の経済情勢等について
    大蔵省 松田・調査企画課企画官
  4. 政府の景気判断は、6月の月例経済報告にあるように「景気は、民間需要の回復力が弱く依然として極めて厳しい状況にあるが、各種の政策効果に下支えされて下げ止まり、おおむね横ばいで推移している。」というものである。「回復力」という言葉が入ってきたように、一部の指標で明らかに上がっているものが出てきたので、「底ばい」という状況ではないが、「底打ち」ではなく、「下げ止まり」の言葉の通り、「下がるのが終わった」ということで、「上がる」とは言えない。こうした状況を総合的に判断して「横バイ」ということ。

    6月に大蔵省が発表した法人企業統計調査によると、1〜3月期の特徴は、次の2点にまとめられる。第一は、経常利益が製造業では対前年同期比▲17.3%の減益となったものの、非製造業は同16.9%の増益となり、全産業ベースで同2.1%と6期ぶりの増益になったことである。これは、企業のコスト削減努力を反映したものである。第二は、設備投資の対前年同期比の下げ幅が縮まったことである。この傾向は、中堅、中小企業において顕著である。背景には、

    1. 住宅関連の設備投資が堅調に推移したこと、
    2. 携帯電話の新サービス開始に向けた設備投資が活発に行われたこと、
    3. 中小企業の金融環境が緩和し、例えば、事業継続に必要な更新投資など年度計画を立てていたものの10〜12月期までは金融逼迫でできないでいたものが、資金繰りがついたところで年度末のこの期にまとめて実施されたこと、
    の3点がある。2点目については、すでに4月から新サービスは運用開始されているし、3点目については、景気回復をにらんだ前向きの投資ではないので、4〜6月期の設備投資はまた下がってしまうことが懸念される。

    法人企業統計調査はGDP速報値の算出に使用されているので、1〜3月期のGDP速報値についても若干コメントする。需要項目別には、実質個人消費(季節調整系列)が、対前期比で1.2%伸びたが、家計調査とは逆の動きだったので予想外と受け止められた。しかし、家計調査は自動車などサンプル要因の影響が大きく、実態面でも、第3次産業の活動指数の伸びに裏付けられるように、サービス消費は好調だったと考えられる。むしろ公共投資の、前期比10.3%の伸びは予想以上の伸びだった。昨年度の第3次補正予算の効果が一気に出たのではないかと考えられ、これに今年度当初予算の効果も加わるから、今後も公共投資は高水準が続くが、1〜3月期にこれだけ伸びると、前期比ベースでは4−6月期以降の数字が表面上パッとしないということになるかもしれない。

    今年度の成長率のゲタは、0.9ポイントとなった。今後毎期前期比横バイのゼロ成長が続いても今年度の成長率は0.9%となり、毎期前期比▲0.2%のマイナス成長が続いても、政府見通しの0.5%成長の達成は可能であり、毎期同▲0.36%のマイナス成長でゼロ成長になる。民間の見通しは、依然としてマイナス成長予測が主流だが、暦年で▲1.4%の予測を行ったIMFも若干プラス方向に修正すると聞いている。政府は、0.5%という数字というよりも、プラス成長を目指しているところであり、以前この場でそれは達成可能と申し上げたが、このプラス成長が視野に入ってきた。今後は、企業のリストラに伴う雇用者所得の減少による消費者マインドの悪化というマイナス面と、株価上昇や企業のリストラ努力を評価した企業マインドの改善、アジア向け資本財輸出の増加といったプラス面との綱引きで、経済が推移していくのではないか。

    次に、99年5月実施の大蔵省景気予測調査結果によると、景況感は引き続き改善している。4〜6月期の現状に対する景況判断は、下降超幅が前回調査に比べて大幅に縮小している。また、業種毎に見ると上昇超に転じたものが多いのは今回の新たな特徴である。さらに、先行きの見通しが改善しており、翌々期(今回で言えば10〜12月期)見通しが前回調査以来上昇超に転じているが、これは、97年末の山一・北拓ショックの直前の調整以来なかったことである。

    大蔵省が各企業に対して年間数度行っている産業ヒアリングを、5月から6月の半ばにかけて大企業を対象に行ったが、業況感については、業種間で明暗が分かれており、斑模様を呈している。製造業では、加工業が素材産業に比べて比較的良いが、加工業のなかでも、液晶は良いが半導体は悪い、軽自動車は良いが他の車種は良くない、などといったように分かれているのが特徴である。非製造業では、住宅、情報、旅行が良いが、建設は公共事業関係は良くても民需が落ち込んでいるため良くない、流通やリースは良くない、といったように分かれる。全体として業況感はかなり改善してきているが、改善は部分的であり、全般的な広がりは未だ見られないといったところである。過剰設備に関しては、素材型を中心に過剰感が強いが、「業界は過剰だが自社は適正水準」、「昨年までに既に過剰設備の廃棄を終えた」とする企業も見られるなど、過剰設備問題については、業種や個別企業によって見方がかなり異なっているのが興味深い。一方、雇用、債務に関しては大半の企業が過剰と答えており、特に債務が過剰とする企業が多く、債務が過剰でないとしている企業でも、バランスシートの圧縮を図るとしている。設備、雇用、債務の「過剰3兄弟」などと言われるが、債務の問題は共通しているのに対し、設備についての考え方は個別企業によって区々であるということが判明した。政府の経済対策に対する評価については、特に住宅減税に関しては評価が高いが、地域振興券の評判はあまり良くないようだ。期待される施策としては、特に、4分の1の企業が、雇用対策を求めている。一方、今後は民間の自助努力が重要である、補正予算の編成は長期金利の上昇を招く惧れがある等の指摘が見られることが特に注目される。

    6月11日に政府は、緊急雇用対策と産業競争力強化を柱にした対策を決定した。後者については、経済の供給面での体質強化ということで、我が国経済をリードする生産性の高い産業分野の創出と、企業の構造改革に向けた自助努力を円滑化するための環境整備が柱となっている。

    一方、需要面での追加刺激策については、4〜6月のGDP速報値を見て判断しようというのが政府の立場である。企業の構造改革が必要という点では概ねコンセンサスが得られつつあるものの、補正予算などの需要創出策については、二つの立場に分かれるのではないか。一つは、「構造改革は痛みを伴うので需要拡大策でサポートした方が企業も改革が進展する」という立場である。但し、これについては、バブル崩壊後の92年以降の対策がまさにこの考え方に基づいて採られてきたのであり、その結果、問題解決が先送りされ、過剰債務問題などの構造改革が進まなかったことが、調整を大きくして、結局は戦後最大の不況をもたらしてしまったという面にも留意が必要であろう。もう一つは、今年度の成長率がマイナスになっても改革を断行する、このことについて国民にハッキリとさせ、コンセンサスを得るべき、という立場である。その論拠として、景気対策による政府債務の拡大は将来大増税を招くが、このような大調整に将来の日本経済が本当に耐えられるのかということがある。また、政府支出の拡大は民間のバランスシートを拡大させ、今必要なバランスシート圧縮の方向を阻害し、将来時点でのバランスシート調整を拡大させることになり、これに日本経済が本当に耐えられるのか、という議論もある。また、既存の構造を放置したままでの需要拡大策は既得権の温存につながり、これが企業の構造改革を妨げるという考え方もある。

    いずれの見方をとるべきか、「4〜6月期のGDPの数字を見て」というよりも、もっと本質的な議論をしなければならない時期に来ているのではないか。

  5. 最近の雇用動向について
    労働省 村木・労働経済課長
  6. 5月の失業率は単月では良くなったが、景況の改善を反映したものではない。5月の指標は一休みの状況で、雇用の基調は依然として厳しい。

    4月、5月と失業率の悪化に歯止めがかかったのは、先ず第一に、女性の失業率が3月4.8%、4月4.5%、5月4.2%と改善したことによる。大きなトレンドに沿った動きではないが、5月に女性の労働力率が前月より大きく減少したことが影響している。一方で男性の失業率に大きな変化はなく、4月に初の5%台に乗った後、5月は4.9%とほぼ横ばいだった。

    次に、雇用面では、製造業は引き続き厳しい中、企業向けサービス需要の減少で悪化していたサービス業における雇用が4月、5月とやや持ち直したことによる。サービス業と女性の雇用改善により、臨時、日雇いの雇用がやや良くなっており、常用雇用者の状況は依然として悪い。

    雇用は、回復の初期においては、所定外労働時間や臨時日雇いなど縁辺的な部分から回復を示し、その後コアとなる部分の雇用が良くなるのが通例である。その意味では最近の動きは、回復の前触れ的な動きともいえる。一方、単に、コアの部分の雇用を削って、フレキシブルな部分を増やしてきているという企業のリストラの結果に過ぎないとの捉えかたもできるため、判断の難しいところである。

    短期的な動きの中で特徴的なものとして求人倍率が、5月にかつてない低水準にまで下落したことが挙げられる。4月から5月にかけて、新規求人倍率が0.9倍から0.79倍へ、有効求人倍率が0.48倍から0.46倍へ下落した。5月の新規求人数を見ると前月比▲15.1%と大幅に減少した。これは、4月から男女雇用機会均等法が強化され、男女別の求人が努力事項から禁止事項に変わったという制度改正が背景にある。企業は3月までは駆け込みで男女別の求人数を増やし、4月には2月、3月に出した男女別求人を一旦取り下げたうえで再度男女共用の求人として出し直したというのが実態ではないかとみられる。この結果2〜4月の新規求人数が急増し、5月はその反動で減少したと考えられる。1〜5月までの新規求人数の平均値は、昨年10〜12月の水準とさほど変わっていないことから判断して、5月の求人倍率の急減は、雇用状況の悪化を反映したものではなく、制度的要因による一時的な現象と言って良いだろう。

  7. 最近の経済金融情勢について
    日本銀行 吉田・シニアエコノミスト
  8. 景気判断に関する基本認識に変わりはない。景気は下げ止まったが、回復へのはっきりした動きは見られないという状況である。ゼロ金利政策により、インターバンク市場は、著しく緩和基調にあり、社債市場においてトリプルB格のものが発行されてくるなど、リスクテイクを促進する情勢にある。しかし、マネー供給や貸出し金額は依然として増えていない。

    短観というヘビー・ウェイトの統計公表を目前に控えていることもあり、本日は細かな統計を云々してもしょうがないので、ここ1ヶ月の動きを踏まえて大雑把な話を2点ほどしたい。

    第1は、足許の統計とマーケット参加者の予想・期待とにちょっとギャップがあるのではないかという点。マーケットは、1〜3月のGDPに大きく反応した後、他の統計は眼中にないといった雰囲気になっている。

    GDPに対する市場の反応については、

    1. まさか1〜3月がプラス成長になるとは思わなかった――案外景気の足腰は強かったし、その乗数効果が4〜6月期以降働く――と市場が過去に対する認識を改めた部分と、
    2. 海外勢等を中心に「もう大丈夫ではないか」と景気の将来に対しても楽観的なムードを持ち始めた部分、
    の2つに分けてみるのが適当と思う。前者は事実認識の問題であるのに対し、後者は「期待」「予想」であるので、それが正しいかどうかはこれから明らかになっていく性質のものである。

    この間、発表された統計をみると、機械受注、建築着工、中小公庫の中小企業製造業設備投資調査、等々設備投資関連の指標は、はかばかしくないものばかり。個人消費の統計も、おしなべてみれば一進一退の域をでていない。輸出もアジア向けが増加し始めているが、これが全体を押し上げるところまではきていない。民間シンクタンクが1〜3月期のGDPを踏まえて修正した99年度の経済見通しも、軒並み政府見通しを下回ってしる。

    株価は5月末対比で、2千円近く上昇し、金先や長期金利に上昇圧力が生じているのは、ムード先行の感が強い。無論、「病も気から」ではないが、景気も「気」の部分に依存するところが少なくないので、この点が民需回復への触媒となっていく可能性はある。ただ、何分、マーケットは気が移りやすいというか、数字の裏付けのないムードだけでどこまでいけるのかという面もあり、この点、短観公表後の動きを注目していきたい。ひとつの注目点は、企業収益にはっきりとした回復の道筋――全員がリストラで結局全体では合成の誤謬だったということに陥らないこと――が見えてくるのかどうかという点だと思う。

    第2は、その企業収益に大いに関連する点でもあるが、このところの消費財価格の下げ渋りについてである。4月の全国CPI(除く生鮮)は前年比横這いとなったが、実はCPIの下げ渋りは、今に始まったことでなく、昨年景気が大きく落ち込んだ局面から既に始まっていた。

    一方で、企業は賃金の抑制には成功しており、結果として家計部門が割を喰う姿になっている。これは、マクロ的にみれば労働分配率を引き下げ、所得分配を企業部門に有利化しているということになるが、

    1. 需給ギャップがかつてなく拡大した状況下で、消費財価格の下げ渋りという事象がどういうメカニズムで起こっているのか、
    2. その結果として今後景気にどのようなプラス、マイナスの影響が生じてくるのか、
    等々いろいろ考えさせられるものがあり、今後分析していかねばならない重要なテーマだと思っている。

(文責・経済政策グループ)


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