景気関連インフォメーション

1999年10月分


第154回 景気動向専門部会・議事概要(10月 5日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 7月の景気動向指数について
    経済企画庁 妹尾・景気統計調査課長
  2. 先行系列は、政策効果を反映し3月から6月まで4ヶ月連続で50%を上回った後、7月は44.4%と50%を下回った。先行系列のうち、新規求人数と新設住宅着工床面積はマイナスとなっている。新規求人数のマイナスは、男女雇用機会均等法の改正を受けて3月に取り下げられた男女別求人が、翌月に再提出されたことから、4月の実績が急増したことを反映している。また、住宅のマイナスは住宅金融公庫融資を受けた4〜6月期のピーク後の一休みの状況と捉えている。したがって、先行系列の実勢は、7月も引き続き50%以上と見ている。

    一致系列は2、3月と50%を超えた後、4、5、6月に50%を下回り、7月は再び80%へ上昇した。一致系列は生産関連指標を多く含む。生産は底堅く、持ち直しが見られるが、これは、必ずしも国内民需の動きを反映したものではない。したがって景気の現状は、依然として本格的な回復に向けての準備段階であると見ている。

  3. 最近の経済情勢等について
    大蔵省 稲垣・調査企画課政策調整室長
    1. 「年次別法人企業統計調査」では、98年度の売上高は製造業、非製造業とも減収となり、全産業で5.9%の減収となった。経常利益についても、製造業、非製造業とも減益となり、全産業で93年度以来5年ぶりの23.9%の減益となった。

    2. 「法人企業統計調査」の99年4〜6月期調査では、売上高は製造業が引き続き減収となる一方、非製造業は増収に転じ、全産業では前年比0.2%の減収となった。経常利益については、製造業が引き続き減益となる一方、非製造業は2期連続の増益となり、全産業では前年比9.6%増となった。全産業の減収増益は2期連続である。1〜3月期の増益は法人事業税の会計処理基準の変更が大きく寄与したが、4〜6月期については企業のコスト削減努力が寄与した面もあると見ている。設備投資については、全産業では前年比13.4%減となった。

    3. 「景気予測調査」では、99年7〜9月の景況に関する現状判断は、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「下降」超となっているものの、「下降」超幅が縮小した。10〜12月期、2000年1〜3月期の見通しについても、「上昇」と見る企業がほぼ横這いである一方、「下降」と見る企業が減少し「下降」超幅は縮小する見通しとなっている。大企業は10〜12月期に、中小企業は2000年1〜3月期に「上昇」超に転じる見通しとなっている。売上高は99年度上期が前年比1.6%の減収、下期の同1.6%の減収で通期0.1%の増収の見通しである。経常利益は99年度上期が前年比15.9%の増益、下期が同35.2%の増益で、通期26.9%の増益の見通しであり、99年度9月時点の従業員数判断は大企業、中堅企業、中小企業いずれも「過剰気味」超となっている。

    4. 9月25日にG7の声明が出された。声明では、世界経済全体における回復の見通しの改善を歓迎している。実際、米国景気は減速する一方、欧州経済には回復が見られ、日本経済も足許回復の兆しが現れていることにより、良いシナリオで動いていると思う。個人的には、これで米国の経常赤字がバランスの取れた形で縮小していくことを期待している。
      先行きについても米国の金融市場や、日本の景気の動向等懸念もあるが、アジア経済の力強い回復等の明るい材料もある。
      こうした中にあって日本経済は、設備投資をはじめ民間需要の継続的な回復の見通しは依然として不確実である。そこで日本政府としては、財政政策、金融政策が轡を揃えて景気回復に万全を期していく意図を改めて表明した。なお、円高については、特に参加各国が懸念を共有し、適切に協力していくことが盛り込まれた。

    5. 去る9月29日に開かれた全国財務局長会議においては、全財務局が経済情勢判断を上方修正した。観光等が好調な沖縄を除き現状認識は厳しいものの、家電や自動車等個人消費の一部に動きがあること、半導体設備等電気機械の生産に持ち直しの兆しがあること、収益の改善が見込まれること等により企業マインドは改善している。各管内で明暗が混在している状況であるが、総じて関東、近畿、北陸は厳しく、これに比較して北海道、東北、四国は明るいと言える。先行きについては、円高で収益環境が悪化することもあり、本格的な景気回復には未だ時間を要すると見られる。現状は政策効果で景気を押し上げているが、これがうまく民需の自律的回復にバトンタッチできるかがポイントであろう。

  4. 鉱工業生産指数(99年8月分)について
    通産省 杉浦・統計解析課長補佐
  5. 8月の生産は前月比4.6%増と大幅に上昇した。これは、97年1月速報公表時の前月比5.3%増以来の上昇幅である。業種別では、96年7月以来、14の全業種で生産が上昇した。電気機械では半導体・液晶、輸送機械では普通乗用車・鉄道車両、一般機械では蒸気タービン部品等が高い寄与度を示した。

    そこで8月の生産については、「持ち直しの動き」が見られるとし、7月時点の「底固い動き」との認識から前進させた。しかし、8月の実績については、平日の稼働日が22日と昨年の21日より多いうえにお盆が土日に当たり夏休み日数が少なかったこと、新車の投入が8月に集中したこと、等の要因に留意する必要がある。

    今後については、製造工業生産の予測調査では、9月、10月と連続して減少を予測しており、円高の影響なども考慮すると、最終需要の継続的な回復の見通しは不確実であり、今後の動向を注視していく必要がある。

  6. 最近の雇用動向について
    労働省 山田・労働経済課長
  7. 8月の失業率は4.7%と、前月の4.9%から改善した。雇用者数の前年比の下げ幅も小さくなりつつあり、数字上は好転している。しかし、失業率は4月の4.8%から5月に4.6%と好転した後、6月には4.9%に転じたこともあり、単月で見た場合振れが大きいため、もう2〜3ヶ月状況を見て判断すべきである。政策は講じており、その効果がでていると期待したいが、もう少し注視していく必要がある。

    8月の有効求人倍率は0.46倍となり、5月以降底這い圏内で推移している。新規求人数は7、8月と2ヶ月連続で前年比プラスに転じているが、まだ底離れしたとはいえない。ただ、パート求人が前年比で見て堅調なので、今後正規社員の雇用に結びつくことを期待している。また、電気機械からの求人は底固く、所定外労働時間も生産の回復に伴い底を打った。

    今後については、9月の日銀短観によると、雇用の過剰感は、大企業の製造業で36ポイントとバブル崩壊後のピーク値の29ポイントより、なお高い水準にある。また、1年後の自社の労働者数を企業から調査した8月の「労働経済調査」では、「減る」と答えた企業が33%と、「増える」と答えた企業10%を上回った。さらに、7月時点の調査では、来春の高卒求人数は今春に比べ40%減となっており、企業からの希望退職、解雇といったドラスチックな人員削減は今後は沈静化していくものと見られるものの、雇用の過剰感が解消していくまで今しばらくは入職抑制による人員調整は続くものとみている。

  8. 最近の経済金融動向について
    日本銀行 吉田・シニアエコノミスト
    1. 「下げ止まりの状況が続く中で、輸出、生産等一部に明るい動きがみられる。しかし、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」というのが、景気に関する9月の金融経済月報の判断である。この3カ月間を振り返ると、次の点が指摘できる。

      1. ほぼ大方の予想どおり、夏場以降公共工事が本格化した。
      2. アジアを中心に海外経済の回復が一段と鮮明化し、世界的な情報通信機器市場の拡大と相俟って、日本からの輸出が明確に上向き始めた。
      3. 内需面では、心配された夏季ボーナスの大幅減少に伴う消費マインドの冷え込みはなく、むしろ逆に所得環境が厳しい割に夏場の消費は一時的かもしれないにせよ健闘した。ただ、個人消費が景気を牽引できるほどの強さはなかった。特に、乗用車をはじめとする値嵩の耐久財については、軽自動車の健闘はあったにせよ、全体としては不冴えにおわった。
      4. 設備投資については、機械受注統計やリース契約等に、下げ止まりの気配を感じさせるものもちらほらみられるが、民間建築の落ち込みもあって、全体としてみると下落テンポが鈍化したという程度で、減少基調を脱してはいない。
      5. また、住宅投資は減税効果の一巡から、このところ頭打ち傾向がみられている。
      6. 以上の需要動向(特に輸出と公共投資)を踏まえ、生産は7〜9月期からはっきりとした増加に転じ、10〜12月期もほぼ同程度の水準で推移すると見込まれる。
      7. 生産の増加は雇用面にも及びはじめており、8月は所定外労働時間や雇用者数が増加した。もっとも、雇用面でのリストラ圧力自体が消えたとみるは早計であろう。
      8. 物価面では、企業が再び在庫調整に陥ることのないよう慎重な生産態度を堅持するなかで、過剰設備が存在する下でも値崩れが起きにくくなっていること、原油価格の大幅な上昇やアジア地域での鉄鋼、化学、電子部品等の市況上昇等の要因から、このところ卸売物価、消費者物価など、おしなべて横ばいの推移となっている。「横ばいなら、もはやデフレではないのではないか」の声もあるが、原油価格の上昇は、産油国に税金を払っているのと同じであり、それ自体が企業収益や家計所得にとってマイナス要因であるという点に気をつけなければならない。消費税率引き上げ時に物価指数が上昇してもだれもデフレが消えたと言わなかったのと基本的には同じことで、物価指数だけで物価の基調を判断するのはミスリーディングなこともある。表面的には物価が落ち着いているようにみえても、GDPギャップ──平たく言えば過剰設備、過剰雇用──は、かつてないほど拡大した状況にあり、しかも設備投資や個人消費等の国内民間需要の回復がはっきりと確認できない状況の下では、物価指数の表面的な動きの裏に潜在的なデフレ圧力が隠れていると判断している。

    2. また、改めて言うまでもなく、8月下旬以降の急速な円高は、漸く回復が見えてきた企業収益を圧迫するという点でマイナス要因であるばかりでなく、輸出財・輸入財の価格を下落させることで、直接的に物価全体を押し下げる方向に作用する。従って、このところの円高の影響については、我々としても、重大な関心をもって注視している。この点は、日本銀行政策委員会が9月21日の決定会合終了後に発表した文章に明記してあることであり、またG7の記者会見の場でも改めて、総裁からその旨を確認させて頂いた。改めて繰り返させて頂くと、この間の日本銀行のスタンスは「為替相場だけを目的として金融政策を運営することはない。しかし、為替相場は景気や物価に対して大きな影響をもたらすものであるだけに、為替相場の変動は、経済や物価に影響を与えるので、金融政策は、為替の変動の影響も含めた総合的な判断に基づいて行なう」ということで終始一貫している。この点に関し、どういう経緯かはわからないが、一部マスコミ等で「日本銀行は金融政策と為替相場が無関係であるとか、重要でないと考えている」といった報道が行われ、国内・海外において多くの方々の誤解を招く事態となったことは、誠に残念だと思っている。21日の決定会合前に政策変更が決定されたかの如き報道を行って、結果的に当てが外れた一部のマスコミが暴走されている感もないではないが、「金融政策は、日本銀行政策委員会の政策決定会合の場で、9名の審議委員の討議・採決を経て決定されるものであって、結論が予め決まっているなどということはありえない」という点だけは、この際はっきりと申し上げたい。

    3. そうした中で、昨日9月短観の調査結果が発表された。すでに新聞等で数字はご存じだと思うので、計数の詳細は省略するが、割合はっきりしているポイントは、

      1. 企業マインドの改善傾向が続いていることが確認されたこと、
      2. 設備・雇用の過剰感がわずかながら後退したものの、設備投資に相変わらず動意がみられないことも改めて確認されたこと、
      3. 企業金融の緩和感がさらに広がったこと、
      等であろう。
      逆に、はっきりしないのは、8月下旬以降の円高の影響がどの程度折り込まれているか、ということである。そもそも、円高は企業部門にマイナスに作用する一方、消費者には利益をもたらすものであり、企業部門を見ただけで円高の影響を総合的に評価することはできないが、そうした点はさておき、焦点を企業部門への影響に絞ったとしても、9月短観の解釈は難しい。一方で、99年度下期事業計画の想定レートは113円と、6月短観に比べ3円程度しか円高になっておらず、為替が今の水準で推移するならば、今後の業績下方修正は避けられないようにみえる。しかし、他方で、回答基準時点の9月17日までに円相場は106円に上昇しており、多くの企業がそれを眺めた上で回答を記入したとみられる割には、業況判断は、足許、先行き(12月予想)ともに改善となっており、ある種の余裕めいたものが窺われる。敢えてこうしたギャップを説明しようとすると、次の3つの仮説が考えられる。
      1. 企業は、年内については為替予約を入れているので、円高の影響が収益に顕現化するのは来年以降であり、従って、来年になれば業績、業況判断ともに悪化する。
      2. アジアをはじめ海外経済が回復基調にあることから輸出数量の増加が期待できるほか、輸出製品の構成をみても競争力の強いもののウェイトが高まっていることから、円高の輸出価格転嫁が行いやすくなっており、企業は、この程度の円高であれば、業績悪化は深刻でないとみている。
      3. 企業は円高を深刻に受け止めているが、他方で、景気が悪くなれば政府が遅滞なく景気対策を講じるとみているので、安心している。
      先に申し上げたとおり、今回の短観だけでは、どの仮説がもっとも当てはまるのか、はっきりしたことは言えない。円高の影響については、今後も予断を持つことなく注視していきたい。

    角田・経団連経済本部長

    日経新聞の「経済教室」に「金融の量的緩和を進めるために、日銀がオペレーションの対象を社債等に広げるとか、事業会社の外貨建債権の買いオペを実施すべき」と主張があったが、こうした意見についてはどう考えるか。

    吉田・日本銀行シニアエコノミスト

    「金融の量的緩和」という言葉は、定義が不明確なまま、各人各様に使われている感があるので、まず、議論の整理を試みたい。なお、これから申し上げることは日本銀行の公式見解ではなく、私見に基づくものである点を予めお断りしておく。
    私は、「金融の量的緩和」の意見は、次の3種類に大別できると考えている。第一は、「インターバンク市場が必要とする以上にベースマネーを供給せよ」との議論であり、「為替介入に用いた円資金を不胎化せずに、そのまま放置せよ」といういわゆる「介入の非不胎化」の意見もその一種である。この種の議論をする人は、「マネーサプライ=ベースマネー×信用乗数」との恒等式を、「信用乗数一定の下ではベースマネーを増やすとマネーサプライが増加する」との因果関係に読み替えて通貨供給プロセスを説明するという金融論の入門書を鵜呑みにしている場合が多い。しかし、事実が示すとおり、マネーサプライはそう単純に増やせるものではない。
    実際、日本銀行は、ゼロ金利政策を徹底するために、為替介入に起因する資金を含め、毎日約1兆円の余剰資金をインターバンク市場に供給しており、その意味で、第1カテゴリーの「量的緩和」を既に実施しているといえる。しかし、余剰資金の大半は、資金の取り手のないまま、短資会社に滞留しているのが実情であって、マネーサプライが機械的に増加するような教科書的状況は現れていない。むしろ、「貸出やマネーサプライが伸びない状況の下で、ベースマネーだけを伸ばそうとしても無理がある」というのが、マーケットや銀行関係者に共通した見方である。
    「量的緩和」の第2のカテゴリーは、「マネーサプライを増やすように、日銀が民間部門の保有している国債、社債、外貨、株式等の金融資産を購入してはどうか」という主張であり、ご質問にあった「経済教室」で学習院大の岩田教授が提案されていることも大半がこれに該当する。この考え方は、ベースマネーの増加がマネーサプライの増加に単純には繋がらないという上記の事実を認めたうえで、「教科書通りに行かないのは、銀行のリスクテイク能力が低下し、信用創造機能が十分に発揮できないためだ」として、中央銀行自らが信用リスクや価格変動リスクを承知のうえで、社債、外貨、株式等の民間非銀行部門が保有する金融資産を購入して、銀行の信用創造機能を補完すべき」と主張するものである。確かに、こうした方法を採れば、ベースマネーとマネーサプライを同時に増加させることができる。しかし、インターバンク市場に資金を供給するのは、中央銀行だけにしか出来ない仕事であるが、銀行部門の信用創造機能を補完することならば、他にもいろいろな方法がある。例えば、既に行われている信用保証協会による保証はその一例であり、また、社債等を購入するのであれば、政府系機関等がその信用力で民間銀行から資金を借入れたうえで購入するという方法を用いても全く同様の効果が得られる。要するに、中央銀行の本来の仕事は市場に流動性を供給することであり、民間部門の信用リスクや価格変動リスクを負担せよということならば、審査能力やリスク管理の面でもっと適した主体が他に存在するのではないか、ということである。また、仮にマネーサプライを増やすということが大義名分であるとしても、中央銀行が民間非銀行部門の資産を購入するということは、資産価格支持政策に他ならず、市場における適切な価格形成を阻害し、不公平感やモラルハザードの問題を惹起することは間違いなく、この点からも慎重に考えざるをえない。さらに、こうした方法により民間非銀行部門の資産構成を変化させてマネーの割合を半ば強制的に増やしたとして、それが設備投資や個人消費といった経済活動にどう結びつくのかどうか───「要するに、マネーさえ増やせば、あとは万事うまくいく」ということでよいのかどうか───という点についても、検討が不足しているように思われる。
    なお、民間部門に「現金」という流動性資産の需要があるときにこれを供給するのは、中央銀行の本来の業務である。実際、日本銀行は毎年の流通現金の増加分にほぼ見合う額の国債を市場から購入することにより、民間部門の保有する国債を現金に転換しているが、これは現金の流通量を意図的に増加させようというものではなく、その意味で上記の「量的緩和」の第二カテゴリーとは似て非なるものとご理解いただきたい。
    「金融の量的緩和」の第三カテゴリーは、「日銀が国債を引受けよ」との議論である。中央銀行の国債引き受けと同時に財政支出の拡大ないし減税が行われれば、これは「ヘリコプターからお金を撒いている」のと基本的に同じであり、マネーサプライは確実に増加する。また、直接引き受けでなく、既発国債を市場から購入するとしても、その傍らで新発国債が発行されていれば、実態は殆ど同じである。これは、中央銀行でなければできない施策であるという点で、第一のカテゴリーと共通する。しかし、歴史が教える教訓は、このようにヘリコプターからお金を撒くようなことを一旦はじめると、当初は皆がお金持ちになったような気分となり、投資や消費が刺激されるが、失われた財政規律はなかなか元に戻らず、マネーサプライの増加に歯止めがかからなくなって激しいインフレに見舞われる、ということである。それは、麻薬がもたらす効果と非常によく似ており、苦しみから一時的に逃れることはできても、それで経済が健康になった験しはない。「市中からの国債購入を流通現金の増加に見合う程度にとどめる」というディシプリンを日本銀行が自らに課しているのも、そうした背景があるからである。「麻薬であっても、適量を用いれば薬にもなる」という人がいるが、政府部門ばかりでなく国家全体がモラル・ハザードに陥るという強烈な副作用を忘れた議論は危険である。

    角田・経団連経済本部長

    量的緩和を行なう意向があることをPRしておくだけでも効果があるのではないか。

    吉田・日本銀行シニアエコノミスト

    日本銀行は「金融政策にもはや打つ手がない」と言ったことはないし、必要があると判断すれば、次の手を模索することになるだろう。しかし、「量的緩和」の第二、第三のカテゴリーは、いずれも通常中央銀行が採りうる施策の範囲を大きく逸脱した非常時対応策であり、モラルハザードや不公平感といった面での副作用が著しい。幸い、現在の景気は「下げ止まりの状況が続く中で、一部に明るい動きがみられる」という段階にあり、そうした非常時対応策が必要とされるような情勢にはない。また、「量的緩和」という言葉が、人それぞれに違った意味で用いられているという現状を考えると、安易にそれをPRすることは、かえって混乱を招くのではないかと思う。

(文責・経済政策グループ)


日本語のホームページへ