景気関連インフォメーション

1999年11月分


第155回 景気動向専門部会・議事概要(11月 5日開催)

〜最近の経済動向と今後の見通し(官庁報告)〜

  1. 最近の経済情勢等について
    大蔵省 稲垣・調査企画課政策調整室長
    1. 景気の動向
      景気動向指数の一致系列が7〜9月にかけて3ヶ月連続で50%を越えた。生産が強く、明るさが見える。一致系列が3ヶ月連続して50%を上回るのは景気の谷を判断するメルクマールとなる。しかし、仮にこれが谷を示すものだったとしても、正確を期すために、正式の判定にはしばらく時間がかかるものと思われる。

    2. 公共事業費等予備費について
      9月29日の臨時閣議で5千億円の公共事業費等予備費の使用額内訳が決まった。地方公共団体や一部第三セクターの俗に言う裏負担分を含めた事業費の総額は約7,400億円となる。今回の予備費の特徴は以下の通りである。

      1. 年内に消化が確実と見られる熟度の高い案件が多いため、用地費の占める比率が2%程度にとどまっており、景気に対する効果が高いことが期待される。公共事業費の中の用地費(土地取得代金)は、国民所得統計の公的固定資本形成には計上されないからである。
        なお、当初予算の公共事業費に占める用地費の比率は、今年度は15%である。補正予算の場合は、土地取得が済んでおり、平均して5%程度である。
      2. 特に執行面に配慮し、国の直轄事業の比率を高めた。苦しい地方財政の影響で補助事業の工事の執行が滞りがちになることを避けるためである。この結果、通常は、国の公共事業費の約2倍程度の事業規模が、今回は約1.5倍の規模にとどまっている。
        今年度の当初予算の公共事業費は、国の直轄事業が18.6%、公社・公団の事業が22.0%、補助事業が59.4%という比率になっているが、今回の予備費は、直轄事業費が55%、公社・公団事業費が20%、補助事業が25%となっている。
      3. 事業内容でも、国家的プロジェクトである「21世紀の新たな発展基盤の形成」に力点を置くなど国民生活に不可欠なものへの対応を主としている。

    3. 総合経済対策における公共事業について
      10月8日の総理指示に基づき、総合経済対策は11月の中旬に、経済企画庁が中心となって取りまとめる。財政面では、10月末に、公共事業費が2.5兆円、施設費が1兆円、合計で3.5兆円の枠が決まった。これに対して、各省庁から1.5倍の約5兆3千億円の要望が出されており、与党と連携して査定している。
      対策の中身は、その他に、公共事業契約の前倒しが5千億円、中小企業金融対策、住宅対策、雇用対策で財政支出の追加を伴うことになろう。3.5兆円はかなりの規模であり、かつ予備費の5千億円分で、熟度の高い案件を先取りしているので、予備費の水準まで用地費比率を下げられるかどうか不明であるが、景気対策としての効果を発揮させるため、用地費比率を極力抑えるようにする方針である。
      地方財政が厳しい中、執行面を考慮しているため、国の直轄型が多くなる見込みである。したがって、国費に対し事業費はさほど大きくならないと考えられるが、それなりに景気刺激的な効果はあると考えている。
      3.5兆円の公共事業費の追加による公的固定資本形成の押し上げ効果は、大部分来年度にずれ込み、今年度というよりむしろ来年度の景気の下支え役となるであろう。公的固定資本形成に現れるのは、支出ベースの公共工事であり、支出は通常、工事の完成と同時だからである。

    4. 税収の見通し
      11月1日に主税局から発表になった9月末の税収実績では、今年度の税収予算47兆円に対して、9月末までの税収は約13.6兆円で、進捗割合は29%である。これを昨年度の9月末の決算に対する進捗割合30.9%に比べると約2%ポイント、単純計算すれば額にして9千億円強、当初予算に対し遅れていることとなる。これは以下の理由による。

      1. 98年度の税収の決算が98年度の補正後予算の歳入見通しと比べて7千億円ほど下回っており、99年度税収の基準となる発射台自体が下がってしまった。
      2. 金融機関の債権償却策等も影響しているかと思うが、98年度分として中間納入された法人税の還付が約4千億円にのぼり、これが99年度税収から差引かれる。
      上記を合計すると1兆1千億円に達している。従って今年度は1兆円を上回る税収の減額補正が必要となるであろう。総合経済対策により歳出が追加される一方、このように歳入が減少するため、新たな財源不足が起こる。
      ただ、ここで注意して欲しいのは、財源不足の一要因である税収減は、足許の景気が弱いために生じたものではないということである。税収減は前述した10年度の税収実績減と11年度の還付増の二つの要因により起因しているのである。また、低利子やボーナスを中心とした所得減から源泉所得が伸び悩んでいることも影響している。一方、消費税は予定より増収になっているが、これは輸出分に関する消費税の還付額が減少したためである。

  2. 鉱工業生産指数(99年9月分)について
    通産省 池谷・統計解析課長
  3. 生産は明るさが見られるが、最終需要の動向には依然として不透明感が残る。

    9月の生産は前月比0.8%減となった。前月に4.4%と高い伸びをしており、若干の反動と理解している。一般機械は前月からの反動減であり、パソコンは高水準の中の一服と捉えている。

    四半期別に見ると、7〜9月期は、輸送機械や電気機械が寄与し、前期比3.8%増と1976年1〜3月期の4.8%増以来の伸びを示した。この伸びは、年内補正や基準値の改訂で変わることになろうが、4〜6月期のマイナスを補って余りある伸びである。

    指数の水準も季節調整済で100.2と、6四半期ぶりに100を上回った。また、前年比も2.6%増と2年ぶりにプラスとなり、明るい指標が多い。ただし、この伸びは鉱工業用生産財の高い伸び率6.4%に支えられたものであり、一方で最終需要財は前年並みか若干の減少となっている。過去の回復局面では、生産財がいち早く立上がるものであるが、現局面では、最終需要財の動きとの格差が目立つのが特徴である。

    今後については、製造工業生産の予測調査で、10月が前月比0.9%減となっている。これは10月に土日が5日づつあり、特に輸送機械、その他の業種において平日創業を前提とする企業を中心に稼働日要因が影響したためと見ている。11月は輸送機械、電気機械等が寄与し、前月比3.8%増と高い伸びとなっており、生産の基調に弱まりは見受けられない。予測に対する実現率もややプラスとなっており、見通しは底固い。

    以上のような認識をもとに、9月の生産については、8月と比べ「今後の動向を注視」を削除し、さらに「持ち直しの動きが見られる」を「最終需要の継続的な回復の見通しに不確実な面がある」と入れ替え、文の締めに持ってくることにより、8月の認識から前進させた。しかし、品目によっては、年末商戦を当て込んだ見込み生産を行なっていることや、総じて輸出頼みの側面も強いことなどから、「不確実」の表現は残している。

  4. 最近の雇用動向について
    労働省 山田・労働経済課長
  5. 9月の失業率は4.6%となり8月の4.7%から改善した。有効求人倍率は0.46倍で底を這っていたのが、9月は0.47倍となり改善した。雇用者数の前年差も8万人増と、1年8ヶ月ぶりに増加となった。

    失業率は2ヶ月連続で改善したが、96年にも失業率が2ヶ月連続して低下した後、再び上昇したこともあり、1〜2ヶ月程度の値で判断するのは難しい。しかし、四半期別で見ると、4〜6月期は4.8%、7〜9月期は4.7%と低下傾向にある。労働市場の基調が変わったと判断することは時期尚早であるが、一部に改善の兆しが見られる訳で、今後の動きに期待したい。

    明るい動きとしては、生産増に伴い所定外労働時間が7〜9月の各月とも前年比で増加しており、しかも増加幅が拡大している。景気回復の局面では、所定外労働時間が伸び始め、雇用増に結びつく傾向があるので注目したい。また、9月の新規求人が、前年比で3.9%増となった。特に、大幅な減少を続けていた製造業が、9月は3.5%増と久方ぶりに増加となった。特に電気機械における増加が顕著である。

    マイナス面は、企業のリストラである。大企業41社にリストラ計画に関するヒアリングを実施したが、4〜5年かけて計画を推進するとの回答が多かった。総削減予定人員は14万人に達している。人員削減の手段については、退職等の自然減によるとの回答が大部分を占め、希望退職や早期退職制度を活用するとの回答は少ない。しかし、今後も入職抑制型の人員調整はしばらく続くとみられ、来春の高卒、大卒の新卒求人数は減少している。今後の雇用対策上の問題となると見ている。

    なお、雇用需要の内訳を見ると、常用雇用者が11万人減少する一方、臨時雇用者が21万人増えている。常用雇用を絞りつつ、臨時・パート(非正規)比率を上げる傾向にある。

  6. 最近の経済金融動向について
    日本銀行 吉田・シニアエコノミスト
  7. 「わが国の景気は下げ止まっており、足許、輸出や生産面には持ち直しの動きがみられる。しかし、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない。」というのが、景気に関する10月の金融経済月報の判断である。大きな変化はないが、徐々に表現を前進させている。あくまで「景気が下げ止まっている」範囲内での動きであるが、輸出と生産については、予想以上に強い数字がでてきている。一方、民間需要に関しては良い材料が出てきていない。最終需要や生産・雇用について若干コメントすると以下の通り。

    1. 輸出
      実質輸出(通関統計の輸出額を輸出物価指数でデフレートしたもの)は、1〜3月期、4〜6月期と横這いで推移した後、7〜9月期は、前期比7.9%増となった。7〜9月期は、実質輸入も同3.9%増となったが、実質輸出はこれを上回る伸びとなっている。自動車輸出の集中という特殊要因もあるが、アジア向け輸出に加えて、欧米向けも回復してきており、全ての地域に対して輸出が伸びている。アジアについては、同地域からの米国向け輸出が伸びており、これに伴い日本からの部品輸出が増加している。また、パソコンについては、日本からアジアに部品が輸出され、アジアから日本に製品が輸出されるという双方向の流れとなっている。
      アジア各国に関する民間機関の成長率予測は、月を追うごとに上方修正されてきている。外需ばかりでなく内需も回復しているが、貿易収支は黒字を維持しており、外貨の資金繰りが懸念されるといった状況にはなく、当面は回復基調が続くとみている。

    2. 生産
      生産も予想以上に好調である。7〜9月期が好調なのはある程度予想していたが、良くて横這いと予測していた10〜12月も、12月が11月の製造工業予測指数と同水準を達成すると前期を上回ると試算され、前期に続いてプラスとなるのではないかと見ている。

    3. 個人消費
      「個人消費は一進一退の状況である」と春先から説明してきており、この判断に変更はない。7〜9月期の個人消費の個人消費関連統計は、総じて4〜6月期よりも悪化したが、これは、年明け以降の消費マインドの改善も一服し、消費性向の改善が鈍るなかで、夏のボーナス減少が響いて所得環境が悪化したことによるものとみている。但し、9月の百貨店やチェーンストア売上高の悪化には、残暑が厳しく、秋物衣料が出足を挫かれたことも影響している点は留意が必要である。実際、10月入り後は、衣料品の販売も持ち直していると聞いている。

    4. 住宅
      住宅については、関連業界から「減税効果も息切れ」との指摘も聞かれていたが、7月26日から10月29日の第2回住宅金融公庫融資の申込実績は、前年同期を3割方上回るまずまずの結果となった。募集期間が1ヶ月延長されたことや、期間中に次回募集における金利の0.2%引上げが発表され、駆け込みの動きがあったと言われているが、11月中旬から行われる第3回申込みの結果次第では、今後しばらく年率120万戸程度のペースを維持できる可能性が出てきたとみている。なお、マンションは、住宅減税の適用期限を意識した着工が増えている。

    5. 設備投資
      設備投資については、減少基調に変りはないが、そのテンポは緩やかになってきているようにも見える。
      機械受注の製造業は1〜3月期は前期比プラスとなった後、4〜6月期は同マイナスとなり、7、8月は同プラスとなっている。7〜9月期の鉱工業の建設着工床面積も前年比増となっており、製造業の設備投資は下げ止まりの感がある。しかし、製造業の全体の設備投資に占めるウェイトは低く、非製造業が回復しないと全体を押し上げる力には欠けるが、ひと頃に比べると若干変化が出てきたようにも思える。
      他方、7〜9月期の一般資本財の出荷が前期比5.2%増となっている。一般資本財は、99年1〜3月期にも増えたが、これは、中小企業が、98年10〜12月期に資金繰り不安で購入を先送りしたコピーやファックスなどの機器の更新を、1〜3月期に一気に進めたという特殊要因によるものである。しかし、7〜9月期についてはそのような特別の背景はない。輸出向けの増加や、パソコンなど一部個人が消費する財も資本財として計上されていることなどが原因とも思われるが、今後、法人季報等で、背景をチェックしていきたいと思っている。

    6. 雇用
      労働省から説明があったように、雇用関連指標には、目を引く動きが出ている。
      この2ヶ月の失業率の改善だけでは判断は難しいが、製造業回りの雇用関連指標の動きは、生産の回復と符号した動きといえる。また、非製造業の中でも運輸事業における改善は同じ理由によるものと思われる。
      しかし、それ以外の非製造業でも、新規求人数等に動きが見られる。これについては、いろいろな仮説が考えられる。まず第1は、単なる統計のぶれと理解することである。第2は、政府の雇用対策等の成果が現れて表面的には改善が見られているが、基調的に厳しい状況に特段の変化はないとの見方もできる。次に、こうした雇用指標の変化が自律的な要因によるものであるとすると、次の二通りのシナリオが想定できる。一つは、1〜3月期の設備投資のように、中小企業等が景気の悪化に歯止めがかかり一安心ということで、今まで我慢していた雇用を増やしたという見方で、これが第3の仮説である。仮にこれがその種の反動増であれば、長続きはしないということになる。自律的要因の2つ目は、企業が先行きの見通しに手応えを感じ始め、雇用増を計画しているという見方で、これが4番目の仮説である。もしこの仮説が正しいとすれば、雇用だけを増やして設備は増やさないという企業は考えにくいので、遠からず設備投資の増加が伴ってくるのではないかと思われる。いま挙げた仮説のどれが正しいのか、来月以降の雇用関連指標を見ながら確かめていきたい。

    7. 金融
      マネーサプライ(M2+CD)、広義の流動性ともに前年比の増加幅が低下しており、金融の量的指標は伸びの鈍化が目立つ。一方で、金融機関の貸出しはマイナスが続いている。貸出しがマイナスになっているのは、企業が、収益が出ても有利子負債の削減により財務状態の改善を優先しているためである。ゼロ金利政策の浸透により「借りたい時はいつでも借りられる」との認識が大企業の間に広がり、「景気も良くなりキャッシュフローも増えた」という安心感もあいまって、マネーサプライの伸びが鈍化している。また、中小企業にもこの動きが広まっており、バブル期以降高水準に張り付いたままの売上高債務比率を引き下げようとの動きが見られる。マネー、貸出等の金融の量的側面がぱっとしない状況は、ゼロ金利政策が効いたがゆえの現象とも言える。
      金融機関から見ると、貸出しは資産であり、マネーサプライは預金、すなわち負債である。貸出しがマイナスでマネーサプライがプラスという状態は、資産の減少と負債の増加を意味しており、そのギャップを金融機関が国債を大量に買うことで埋めているというのが、現在の図式である。要するに、金融機関には余資を運用しなければならない事情があるわけで、国債金利が上がりそうで上がらない背景には、こうした点も寄与している。

(文責・経済政策グループ)


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