企業再建整備法の運用に関する意見

昭和22年3月18日建議発表
経済団体連合会

一、再建整備の促進について

政府は企業再建整備法附則に於て会社経理応急措置法第一條第一項を改め、特別経理会社の範囲を拡大したため、現に特経会社の数は約八千の多きに達するが、現行法令では、これら多数に上る会社の整備計画を一時に取纒め網羅的に処理する方針であり、これがため勅令による指定日から右整備計画提出迄に三ケ月の期間を設けている。即ちこの三ケ月の期間に、総ての特別経理会社はまず企業再建整備法第九條の規定によって特別損失の概算をなし、これを金融機関並に十分の一以上の旧債権者に提出且つ公告をなし、金融機関はこの通告にもとづいてその預金の払戻限度を反射的に会社に通知する等の手続を要し、更に会社は整備計画提出の際の最後的計算に於て右の通知にもとづく修正を行わなければならない。

然るにかく画一的網羅的な処理を達成するがためには、その手続に多くの日子を費す結果、仮りに資産評価基準と未払込金徴集方法等が決定して直ちに右の手続に入るとしても、整備計画が完全に出揃うのは、漸く八月頃であり、計画申請に対する審査が済み認可されて愈々整備計画の実行に移るには更にその後数ケ月を要するであろう。

翻って産業界の実情を顧みるに産業再建の緊急なる要請が迫られているにも拘らず、会社は特経会社なるが故に各種の拘束を受け、変態的経理より受ける諸々の障碍に悩み、ひいては会社経営に積極的活動力を喪失せしめている。前述の如き政府の画一的な処理方針は、おそらくこの状態を徒らに永びかぜることとなるであろう。けだし特経会社の一部には特別損失の処理並にその後の整理に幾多の障害の予想されるものもあるが同時に多数の整備の容易なる他の会社までがそれと歩調を揃えるために整理を遅延せしめることとなるからである。実際問題として、特経会社であっても特別損失を生ぜず、したがって会社資本を以て損失を負担する要もなく簡単に整理を完了し得る会社は全体の三分の一見当を占めており、これらの会社だけでも早目に整理し得るならば産業再建上非常な貢献となるであろう。よって次に掲げる如き法的措置竝に取扱についてここに政府の特段の配慮を要望する次第である。

(一) 会社の特別損失を確定し整備計画を樹立するに必要な未公布法令を速かに公布すること

(二) 企業再建整備法第九條によって行う特別損失の概算を以て最終的整理をしても、他に殆ど影響を与えず、また他より受ける影響も殆どない会社については、右概算を以て整備計画を提出し得るよう同法施行規則を改正し、整備計画提出までの期間の短縮を図ること

(三) 右の会社については整備計画審査当局は右計画提出公告の後一ケ月の株主、債権者からの異議申立期間の内に審査を完了し、右期間満了とともに直ちに認可しうるよう取扱うこと

二、未確定要素多き会社の整備手順について

前項の如く整備の比較的容易なる会社の再建整備の実行を促進する反面一方に於て特経会社の中には賠償割当計画の未確定、独占禁遏のための制限会社の分離計画の不明なる等のため、事実上、整備計画の立案は困難なるものがある。これらの会社は仮りに暫定的な見透を立てて計画の立案に当っても、賠償設備の指定が確立した際に、或は又、第二会社設立のための分離の範囲限度の方法等が判明し能力、資本金の限度が明かとなったとき、再び計画を修正するか、もしくは整備の完了後に於て更に第二次第三次の整備を必要とする如き無用の手数と混乱をまねく惧れがある。もっとも未確定要素の存在が比較的に少い会社に対しては前項の趣旨に準じて整備促進のため適宜の措置を講ずる要があり、又一方政府はかかる事実のあることを予想し、仮勘定による調整の途を開いているが、未確定要素の多大なる会社では、計画の齟齬が大なるため仮勘定が膨張し、仮勘定自体の整理に長時日と複雑な手続を費さねばならぬ場合があるであろう。よって未確定要素多大なるため整備計画の立案困難な会社は一般会社とは別に未確定要素の確定するを俟って順次整備する如き特別の措置を要望する。

三、新勘定の株主資本対策について

前項二に該当するような会社はすでに再建整備が半年も遅れた上に更に今後に於ても整備が何時実際に行われるか見透困難な状態に置かれているが、一方、その仕事の上では生産の重要な部門を担当しており、経営を維持せしめるには相当の資金を必要とする。しかも新旧勘定分離の下に於ける資金調達方法としては、借入金以外に方途なく、その借入金すら厳に制約されている実情にあり、資金面から事業活動を拘束する惧れがある。よってこの際整備によって切捨てられない新勘定の資本を作り得るような措置が望ましい。もっともそれには増資計画を申請せしめて特に適当と認められるものに限り必要な條件の下に許可することにすべきであろう。このような会社は概して、新旧勘定合併の際に、何れ増資を必要とするか、または第二会社の設立に当って現金出資を必須とするものであるが、その場合各方面で一斉に資金を調達することとなって困難を増すから、以上のような方法を以てすれば、かかるときの困難を緩和するためにも役立つであろう。

四、特別会社の決算延期について

資金評価基準の決定が遅れ、全体として再建整備方策の実施が遅れた為に、大部分の会社が三月期の決算を控えて、なお未だその資産についての実際の評価を確立し、損失の限度を明かにできぬ現状である。殊に前述の如き未確定要素の山積、事業の将来に関する見透困難、又は特別管理人の会社の実勢に関する認識不足等のため、特別会社中には新旧勘定の区分すら未だ動揺をきたしているものもある際に、損益計算等は不可能であるばかりでなく、今日の変態的経理にあっては税法等の関連に於て各種の無理と不都合を生ずる。よって整備計画の認可の日までを一決算期とし差当り今期決算をとりやめるよう措置することを要望する。但し第二会社を設立する会社に付いては登記の日まで新旧勘定の合併ができぬから、実際問題としてはこの種の会社は新旧勘定の合併の期日まで延期することが妥当である。

五、資本負担並に償却に関する税法上の特例について

特別損失の負担は自己資本によってまず充当し、次に債権に及ぶ結果、再建整備後の会社の資本構成は一般的に変態的になるをまぬがれない。この傾向は特別損失の負担が積立金、資本金にとどまる会社に於て殊に著るしいので、かかる会社に対しては経営の堅実な発展に資するため諸般の措置を必要とするが、特に税法上次の二つの点を考慮する要がある。

(一) さきの税制調査会の答申にもとづく税制改正案によると法人所得に関しては明かに改善の跡がうかがえるが、積立金資本金の著るしい減少が予想される特別経理会社については、資本金を基準とする超過所得の計算上、異常なる税負担の加重を与えることとなる。よってかかる弊害を避けるため、債券の株式転換を慫慂し、これがための便宜を与え、或は又、特に課税上の資本金計算に一般会社では借入金、保険会社では責任準備金の適当なる金額を加算することを認める如き措置をとること。

(二) 会社は整備の後に於ては棚卸資産の評価益を出し盡して資産に含みがなくなり、且つ外部負債の加重を蒙るので、今後経営の堅実を期するには充分償却が必要である。よって利益の内部保留により経営の堅実をはかり得るよう税法上、償却に特例を設けて、かかる弊害を生ずることなきよう措置する要がある。

以上