綜合的産業整備の強化促進に関する意見

昭和22年5月29日建議発表
経済団体連合会

企業再建整備法による各会社の整備計画は、政府の起算日指定によって近く一斉に樹立せられ中央又は地方の経済再建整備委員会の審査を経て逐次認可、実行の段階に入るものと予想される。しかしこの企業整備は、特別経理会社のみに限られ、かつ整備計画の樹立ないし認可の方針も、国家補償の打切対応策を中心として、専ら経理面よりするバランスシートの調整に重点が置かれることになるもののごとくである。

企業再建整備法の建前上それは当然のことといえるかも知れぬが。同法成立以来一年近くの日子を経過し、経済基本事情の著しく変化せる今日としては右の如き方針による整備のみでは、新しい企業基礎の真の再建を期待することは甚だ困難と言わざるを得ない状態にある。すなわち原料資材難その他の生産諸條件の悪化、過剰人員の整理難等によって、現在では大部分の企業が赤字状態にあり、企業再建整備法によって旧勘定の整理をしただけでは、到底所謂新勘定の健全化を期することは出来ないのである。若しもかかる状態のままで貿易の再開を迎えるならば、わが国の産業界は一大恐慌に見舞わるるの懸念なきを得ない。

この危険状態から脱するためには、集中生産と企業の合理化とを徹せしめ、人的並びに物的の両面からする企業の実体的整備を行うことが不可欠の條件である。かかる実態的企業整備を行うことなくしては、混乱に陥っている価格賃金体系の正常化も望み難く、そうである限り経理面よりする企業の再建整備そのものも、その真の効果を発揮し得ないのである。

以上の観点からして、われわれは、近く各会社によって樹立せられ、政府によって審査認可せられる企業再建整備計画の中に、出来る限り綜合的な産業整備計画を織込み、必要に応じて強権を発動してでも、企業の徹底的整備合理化をこの機会に実現せしめんことを強く要望する。もっとも、かかる企業の整備合理化は、一面敏速を必要とし、これまでの企業再建整備法実施過程のような、遷延に次ぐ遷延を今後も続け、或いは一層激化するようなことは、絶対にこれを避けねばならぬ。

この意味で、実現可能の限界をよく心得ると共に、実行はあくまで強力敏活、且つ実際的なるべきことをわれわれは主張する。すなわち具体的には大よそ次のごとき方針、施策に従うのを最も妥当とするであろうと考える。

一、生産合理化のための重点的復興が切実に要請されており、従って既に一応の整備計画が政府又は業者団体等で準備され比較的容易にこれを実行しうるごとき業種を整備の対象として選択し、且つ整備の実際企画に当っては、その事業の重要性、整備の効果とその影響等を参酌すること。

二、計画の綜合性は勿論重要視しなければならぬが、これがため形式上の周到公正に偏し、いたずらに時日を空費し易い従来の通弊は、極力これを排して、重大な計画の齟齬を来さぬ限り、大局的見透しによって、むしろ大胆なる実行を本旨とすること。

三、三人委員会の如き制度にならって、政府、権威ある経営者及び従業員代表並びに学識経験者をもって構成する委員会を設け、これに企画及び実行の監視についての大巾な権限を与え、委員会で決定した事項は必ず実行されるような組織を確立すること。

四、整備の企画実行に際しては、生産費の高低、企業内容の安定性、作業能力等からその企業の適格性を検討して可及的に集中生産を行うものとし、資材の総供給可能量に応じて一定の操業度を確保し、経営のなり立つ基礎を与えること。

五、操業度については全産業を通ずる一般的基準(例えば最低三〇%)を設けるとともに、その基準を上下する一定の範囲内での業種別基準をも決定すること。
但し近き将来に前記基準以上の稼動が見透され、しかもその設定の保有が国家的に緊要と認められる場合には、右以下の操業基準をも認めること。

六、綜合整備と計画にもとずいて操業を停止する設備のうち、将来のためこれを保有することが国家的に必要と認められるものについては、一時その設備を産業復興公団のような国家機関で買上げ、再び稼働の時期に至ったとき適当な価格でこれを売戻すような方法を講ずること。

七、以外の操業休止設備は、企業再建整備法にもとずく整備計画においては、必ずこれを旧勘定に所属せしめるものとすること。

八、整備の方法としては、資材資金等の重点的割当計画を通じてそれぞれの企業または企業者団体に対し経営持続の可能性に関する見透しを提供し、出来る限り自主的にその態度を決定せしめるを原則とすべきも必要ある場合には大胆なる強権的措置を講ずること。

九、企業整備を実行した業種については必要に応じ新規企業を規正すること。

十、合理化の見地より一定の雇傭基準を定め、一定率を超えた過剰従業員の整理を同時に行わしめこと。
かかる企業整備を断行するについては、経済復興会議等の協力を求めて、その公正を確保し、その影響等に関し万遺憾なきを期することは勿論であるが、特にこの整備に関連して新たに発生することあるべき失業者に対する対策を確立し、同時にこれを機会に社会保険制度を完備して、企業整備が実際上大なる障碍なしに実行し得るごとく努力すること。

十一、整備後存続する重点企業に対しては、適正なる生産費を保証することとし、万一計画の齟齬その他のやむ得ぬ事由により、右をもってしても赤字を生ずる要な場合には金融的に援助する等の手段を講ずること。

以上