片山氏を首班とする三党連立内閣ができ、自由党を加えた四党政策協定の線に沿うた緊急経済対策が公表せらるるに至ったことは、かねて挙国一致の態勢を待望していた経済界として衷心慶祝するところである。発表された緊急対策案の内容は中正を得たものであり、われわれは全力を盡してこれに協力するであろう。しかしながら右対応策に掲げられた対策は、たとい言いふるされたものが多かろうとも、これが完璧にして時宜を得た実現は、政府の和協と勇断と誠意と慧敏としかして全国民の救国的熱意より発する協力とによらなければ達成し難いのである。政府は今後一層具体的な施策を逐一全国民の前に呈示して協力を求めるとのことで、かくして官民一体となって未曾有の難局を克服し、新日本の経済的基礎を築くように、政府が率先垂範せんとしつつあることにわれわれは大なる期待をかける。いまとりあえず示された八項目の政策に対するわれわれの所見を卒直に示せば次の如くである。
第一 食糧確保の方針は大体において極めて妥当であるが、肥料その他生産資材の先割当ては是非実行すべきで、さらに進んで政府買上げ価格の先決めにまで及ぶことが必要である。なお生鮮魚介、蔬菜等の統制については、生産に及ぼす影響を特に考慮し、行過ぎに陥らない注意が肝要である。
第二 物資の流通秩序に関する政府の構想は、卒直に評すれば容易ならぬ困難を蔵すると考える。特に切符制度については改善を要するものが多い。われわれはこれに関して政府が最も大局に着眼した運用に心がけられんことを切望する。また特に官僚独善の弊に陥らぬよう注意し、諮問委員会の活用等によって十分民意を汲みとると同時に、末端配給機構ならびに輸送統制の改善および弊害芟除に留意せられたい。
第三 賃金、物価の全面的改訂とその維持安定とは現下最大の急務であるが、現在の如く百万にも近い公定価格を設定することは、却って統制の権威を失墜し、生産を阻害すること多大である。元来統制は生産者の能率を害しがちなものであるから、その範囲は需給の不均衡甚しき緊要物資、外国よりの輸入物資等の最少限度に止め、一旦統制の対象としたものは完璧な統制が行われることを主眼とせねばならぬ。
次に価格差益の国家徴収は理論上当然であるけれども、一面公定価格の改訂が機を逸した等のために企業に生ずる赤字は、国家において補填の方法を講ずるのが至当と考える。
賃金安定の最後の鍵は公定価格による正規配給量の増加にあるとせられており、この点物価の安定についても同様の関係が存するのであるが、これこそ正に全施策の根本をなすもので、われわれは政府の明敏に期待する。
第四 財政金融の健全化はもとより必要であるが、真の健全財政は単なる無赤字財政に止まるべきでなく、むしろ事務簡捷と政費節減の精神に徹することに主眼が置かるべきである。
政府事業の独立採算制はその趣旨において異論ないが、値上げによる収支の均衡化は極力これを避け、経営合理化と能率向上に重きを置くべきである。
赤字金融を抑制しつつも重要産業に必要な資金を確保する要あるは当然だが、留意すべきは「重要産業」なる言葉の内容である。中小企業による雑品工業と雖も、輸出関係等で重要なものは、これに含ましめることを忘れてはならぬ。
第五 経済回復の根本が生産の増強と生産能率の向上にありとするのは全く同感である。政府は生産増強のため緊要資材の輸入、所要資金の確保等に万全の努力を払うべきである。
生産能率向上のために企業の合理化が必要なことはわれわれの早くから唱え来ったところであるが政府は一般会計においても所要の行政整理などを断行し、さらに作業会計については従業員の配置転換その他十分の合理化を行い、もって範を示すべきであることを重ねて強請したい。なお企業合理化の実行については、官民の協力によるほかないことはいうまでもないが、最後の責任は政府が負うべきである。
第六 雇傭機会の造出について輸出産業の振興に努めることは当然であるが、輸出産業における中小企業、雑品工業の重要性には十分注意すべきである。
第七 輸出の振興に関連してわれわれの特に要望したいことは、輸出工業への資材および資金の供給であり、また為替相場樹立の準備態勢を整えて、早く産業の向うべき方向を明かにすると共に、国際的価格体系を考慮に入れて国内物価の調整を行うことである。
第八 企業の国家管理については、技術的ならびに経済的に十分の検討を経た上でこれを行うこととし、且つ能率上その他の必要が明かであるものに限り、最小限度の範囲で実行を進めるようにされたい。また管理の方式としては、現場の責任と創意とに委ねることを本旨とし、屋上屋的監督機構を架することはこれを避くべきである。
なおわれわれは以上の八項目に附加えて、この際次の三点を特に要望したい。
一、物資の欠乏と、企業の合理化に伴う失業者及び犠牲企業の発生から来る人心の悪化と道義の頽発とを防ぐため、失業対策その他の物的諸施策を速かに確立すると共に、国民総耐乏総努力の一大国民運動を展開されたいこと
二、日本経済の困難な実情を具体的事実によって広く国民に周知徹底させると共に、勤勉なる個人の生活発展を約束し得るが如き能率給与制度の確立等によって勤労意欲の昂揚をはかり、一面綜合的長期計画を樹立発表して国民に光明と希望と発奮とを与えられたいこと
三、中小企業の振興と合理化が特に重要なる現下の情勢にかんがみ、中小企業対策を綜合的に取扱う充実せる専門機関を速かに設置されたいこと
以上われわれは政府の政策に対する率直な批評を行った。しかしわれわれはこの経済危機克服について政府のみに責任を押付ける考えでは決してない。われわれもまた団体組織による相互協力にいよいよつとめ、政府と同じ精神をもって救国に邁進する決意を有するものなることをここに声明する。