政府が新物価体系の樹立方針を発表して賃金と物価上の悪循環を遮断しようと決意するに至ったは、まさに当を得たものとして我々の賛意を表するところであるが、その実施に当っては特に次の数点に留意せられんことを要望する。
一、一旦決定した物価賃金は、少くも六ケ月間位はその基本の変更を必要としないような措置を講じなければ本物価体系を確立した意義がない。
二、今次物価体系確保の基本條件は賃金の安定を確保するにあるが、これがためには万難を排しても主要食糧の完全配給を公約の如く実行し、一時的にせよ遅配欠配等による生計費の不測の膨脹を来すが如きことを絶無ならしめなければならぬ。従って万一標準賃金の決定に織込まれている以上の遅配欠配等が生じた場合には、政府は国家補償その他の方法によって生計費の増嵩を補填し、賃金への反射を厳に避くべきである。勿論、これがため財政上の負担は若干増嵩するが併し乍らこの方が国家補償を行わずして新物価体系を破綻に導くよりは、インフレーション防遏の効果は遙かに大である。依って右の点につき政府は全責任を以て確約善処すべきである。
三、主要原材料の配給量確保も亦新物価水準を維持するための重要な一前提條件である。これに対して政府は公団方式乃至は切符制を以て臨む方針であるが、右については多年のにがい経験から一般に危惧の念少しとしない点を三省し、的確な実効をもたらすが如き特別の措置を講ぜられるよう切望する。
四、諸物価の全面的改訂方針を発表し、その後に於て逐一詳密複雑な計算手続等に日を重ね、遷延するに於ては、その間に諸種の弊害を生じ、ために却ってインフレーションを急激に促進することとなる。従って物価の改訂は徒らに形式に捉われ、これを棚ざらしにすることなく、既定方針に則って迅速且つ達観的に極力短期間内に行う必要がある。
五、現在のように数十万種にのぼる多数の公定価格を設定することは却って公定価格を無意味ならしめる所以である。従って届出価格自由価格等の範囲を出来るだけ拡げて、政府の注意と努力とを比較的少数の重要物件に集中し、以て闇価格の存在を阻止することが肝要である。
六、強力な価格統制を行う以上、一部分の生産品のみに不均合の利潤を認めることは無論許されないことであるが、然し輸出品のごとく国内価格に影響のないもので、国際均衡上も問題なく而して包装費、品質費等の関係から特別の費用を要するものについては特に考慮を払い、なお若干の利潤を認めることによって生産の増大、品質の向上を明かに期待し得るが如きものについては原価計算上或る程度のゆとりを持たせることが望ましい。かくすれば、輸出品価格の割安なため生産を阻み、粗悪品を濫造し乃至は不合格品を好んで国内消費に流入せしめる弊害も是正されるであろう。
七、賃金及び物価の水準が現在に比し相当に引上げられる結果各企業の資金需要は当然増加するので、政府は今後事業金融につき、支障を来さないよう特に留意し、適当な措置を講ぜられたい。
八、国際経済参加其他を考慮せる本格的物価体系の根本問題については、引続き急速に研究を進める必要がある。我々もこれに努力するであろうが、政府側に於ける十全の方策を特に要望する。