事業金融の緊迫打開に関する要望意見

昭和22年8月21日建議発表
経済団体連合会

政府は過般公定価格の全面的改訂方針を発表すると共に、今春来施行中の融資規則を強化し、赤字金融の抑制方針を一層厳格にした。

然し物価水準が従前に比べて平均二倍半見当に高まり、それにつれて賃金も上昇の傾向を辿っている以上事業資金の需要がこの際段階的に増加するは当然である。のみならず、方針発表後に於ける価格改訂の遅延、公団乃至切符制等への統制機関の改編等によって、事業金融は目下大なる混乱に陥っているにも拘らず、政府の之等に対する対応策は甚だ的確を欠き(政府は過日「当面の金融対策」を発表したがそれはホンの部分的対策に過ぎない。)、ために多くの事業会社及び産業団体は非常な資金難に陥って、全く打開のめどがつかぬ状態にある。この儘推移するならば金融難からして行過ぎた企業整理が余儀なくされることも感ぜられ、生産業者の意気沮喪甚しきのみならず、かかる形で不公正且つ不合理な企業整理が行われるならば、不測の失業者発生により社会不安を激成し、貿易再開や外資導入の効果が現れる前に国内経済に破綻を生ずる惧れがある。よって我々はこの際政府が至急的確なる対応策の実施に着手せられ、少くも左に掲げるが如き諸方策を速時実行せられん事を切望する。

一、企業整備は産業の綜合的長期計画と見合せた綜合的見地から実行することとし、単に金融面のみから企業整理を強行するが如き態度を根本的に改めること。

二、物価の改訂に関連して幾何の通貨増発をなすべきかの目途を速かに確立し、之に基いて綜合的な国家資金計画を樹立すること。

(註) 価格差益処理規則によって生産業者の手持資金が政府に徴収される点を特に留意されたい。

三、我々の縷々述べ来った如く、政府の産業関係資金の支払が著しく遅延し、ために事業会社は巨額の見返り融資を市中銀行に仰いでいる。これは産業資金を圧迫すること多大であるから、政府は速かに遅延せる未払金の支払を完了すると共に事業機構の整備能率化、概算払の範囲拡大等によって、今後の支払遅延を絶対に防止すること。

(註) 八月十五日の閣議決定は本項の実現を約束したが之を空文に終らしめないよう特に希望する。

四、事業資金の手形払いを奨励し、日銀の商業手形再割引の範囲を拡大すること。

(註) 資金の効率的利用を行う意味で、手形の流通範囲を拡大することは極めて重要であるが之がためには、市中銀行の手形割引を容易ならしめると共に日本銀行の再割引が容易に得られるようにしなければならぬ。

五、社債株式等による長期事業資金の調達を容易ならしめることに力め特に増資の認可基準を大幅に緩和すること。

(註) 現在会社の資本構成は非常な変態に陥りつつあって、この点からも増資は必要なのであるが、一般人の直接投資を奨励する意味で、借入金返済のための増資、増資株式の封鎖預金による払込等をも認められるようにせられたい。

六、遊休物資又は設備の売却による資金調達が容易に行われ得るよう措置すること。

(註) 遊休物資の売却は自然に委せても否応なしに行われるであろうが、自然に委せては好ましからぬ方面への流出が行われ、又資材の如きは売却者が後日買戻したい場合もあろうから、産業復興公団或は産業設備活用協会等の機関を活用奨励することが必要と考えられる。

七、基礎資材の価格のみが引上げられて、製品公価の改訂が後れているために荷動きが止まり、これが一時的に資金需要の増大を惹起し、或は価格調整公団から支払われるべき資金が停滞して当面の金融を圧迫していることが大きいので、速かに公定価格の改訂を完了するよう措置すること。

八、公団資金の需要が巨額に上るため、動もすれば之を抑制せんとする傾向が見えるが、これは従来統制会社等によってなされていた金融機能の大部分を公団が行うようになったに過ぎないのであるから、必要な資金は潤澤に供給するようにしなければ、公団制度の根底が揺ぎ、生産及流通秩序に重大な影響を及ぼすこともなしとは限らない。政府は、これについて善処すること。

九、最近民間産業団体の閉鎖機関指定が頻々として行われ、物調法による指定団体も、政府補助機関としての指定取消しと同時に閉鎖機関に指定されるにあらざるやを危惧されているが、斯る状態では産業団体の金融は全く閉塞されるより外なく、その結果は製品の横流し盛行となり当面の流通秩序維持上重大問題と考えられる。よって公団への移行が既に予定されているものに対しては、復興金融金庫が融資するか又は保証を与える等の方法によって、過渡期の金融に関しては政府が十分の責任を以て善処すると共に、現存産業団体は閉鎖機関に指定することなく解散清算を命ずることとし、以て金融上の不安を取除くよう措置すること。

十、中小企業の資金難に付て特別の考慮を加えることとし、特に貿易品関係の中小企業に対しては金融確保の途を講ずること。

以上